第39話「心の試練」
三つの試練のうち、二つを突破したリュシアたち。
次に向かうのは──心の試練。
守護者に導かれ、神殿の奥深くにある静かな部屋へ辿り着いた。
そこは、ほのかな光に包まれた、円形の「瞑想室」。
中央には、静かに燃え続ける一つの青い炎。
壁には、精神や魂を象徴する古代の絵が描かれていた。
「ここが心の試練の場だ。」
守護者が厳かに告げた。
「この炎を見つめ、自らの心の奥底と向き合うのだ。」
リュシアは静かに頷いた。
だが──
「エルナも、そばにいてくれませんか?」
リュシアは、振り返り、頼んだ。
エルナは驚き、そして微笑んだ。
「もちろん。リュシアがそれを望むなら。」
守護者は一瞬、厳しい表情を見せたが──やがて頷いた。
「正直に弱さを認めることも、強さだ。許可しよう。」
***
リュシアは、炎の前に座った。
エルナはすぐ隣に、そっと腰を下ろす。
炎をじっと見つめ、呼吸を整える。
次第に、現実の輪郭が薄れていく──
意識が、深く、自分の内面へと沈んでいった。
***
目の前に広がったのは、かつての「アルカディア魔導書院」。
──だが様子が違う。
学生たちが華麗に魔法を披露する中、リュシアだけが──魔法を使えない。
「元・七賢者様だって?」
「もう使い物にならないただの人間だよ。」
「可哀想に、魔法すらないなんて。」
周囲の囁きが、痛烈に心をえぐる。
リュシアは、拳を強く握り締めた。
(違う……私は、私は──)
だが、魔法が出ない。
どんなに祈っても、呪文を唱えても──何も起きなかった。
絶望と自己否定。
身体が、小さく、縮こまっていく。
(……私は、無力だ。)
そう思った、その時──
***
遠くから、柔らかい光が差し込んできた。
「リュシア、聞こえる?あなたは、あなたのままで価値がある。」
エルナの声だった。
その光に触れた瞬間──リュシアの胸の奥が、じんわりと温かくなった。
(エルナ……?)
震える手で、光へと手を伸ばす。
光は優しく、彼女を包み込んだ。
(……私は、一人じゃない。)
***
幻影の中で、もう一人のリュシアが現れた。
「魔法がなければ、君は何もできない。」
内なる声が、冷たく告げる。
だが、リュシアは小さく首を振った。
「違う。私は、知恵がある。経験がある。そして、仲間がいる。」
「魔法に頼らなくても、私は……私のままで、戦える。」
内なるリュシアは、じっと見つめた後──やがて微笑んだ。
「なら、進め。」
そして、幻影は、静かに霧散した。
***
意識が現実に戻った。
リュシアが目を開けると──
中央の炎が、鮮やかな青から、純白へと変わっていた。
守護者が静かに頷いた。
「心の試練、合格だ。」
隣で、エルナが涙ぐみながら微笑んでいた。
「リュシア……よく、頑張ったね。」
リュシアは、そっとエルナの手を握った。
「ありがとう……あなたがいてくれたから、立ち上がれた。」
守護者は、静かに言った。
「心の強さこそ、真の力の源だ。よくぞ己に打ち克ったな。」
リュシアは静かに目を閉じた。
(私は──もう、過去に縛られない。)




