第37話「神殿内部の謎」
炎の守護者に導かれ、リュシアたちは神殿の中へと足を踏み入れた。
中は外観以上に荘厳だった。
高くそびえる天井。燃え盛る炎の柱が静かに揺れている。
壁には、古代の英雄たちを讃える彫刻が連なり、まるで神話の中に迷い込んだようだった。
中央には広大な円形の広間。
四方へ続く回廊が、迷路のように伸びている。
「ここが──試練の間だ。」
守護者が厳かに告げた。
「三つの試練をすべて乗り越えた者のみが、封印の間へ進むことを許される。」
リュシアたちは頷き合い、心を引き締めた。
***
最初に待ち受けていたのは──壁一面にびっしりと刻まれた、古代文字の迷宮だった。
「これを解読し、隠された真実を見出せ。」
守護者の声が、静かに響く。
リュシアは前に進み、文字の列をじっと見つめた。
一見すると無秩序な記号の羅列。
だが、その背後に何か強い意志が潜んでいる気配を感じる。
「ザック、頼めるか?」
「もちろん。」
ザックは鞄から分厚い古文書を取り出し、目を走らせ始めた。
リュシアも自らの知識を総動員して、文字を一つ一つ読み解き始める。
***
だが──すぐに、二人は行き詰まった。
文字の意味は断片的にしか繋がらず、全体像が見えてこない。
「くそっ、単語は読めるのに……何かが違う……!」
ザックが焦りを滲ませる。
その時、エルナが静かに言った。
「精霊たちが……この壁の向こうに何かを感じるって。」
「精霊?」
リュシアが顔を上げた。
エルナは瞳を閉じ、壁に手を当てる。
すると、刻まれた文字が、うっすらと光を帯びた。
「見える……この配置、普通の文章じゃない。地図みたい。」
「地図……?」
ガルドが思わず声を上げた。
リュシアは、はっと閃いた。
「違う! これは物語じゃない──道筋を示しているんだ!」
四人は、互いの得意分野を持ち寄りながら、再び解読を始めた。
ザックの知識、リュシアの魔法理論、エルナの精霊感知、ガルドの直感。
それらが、まるで噛み合う歯車のように、真実へと導いていく。
***
そして──解読は成功した。
壁に刻まれていたのは、
千年前に実在した「七人の英雄」が、魔王の力を七つに分けて封印したという真実だった。
リュシアは驚きに目を見開く。
「完全に倒したわけじゃなかったんだ……!」
「七つの封印が連動している。だから、一つが弱まれば──」
ザックが震える声で続けた。
「すべてが危うくなる。」
守護者は頷いた。
「よくぞ見抜いた。──これが、知恵の試練だ。」
リュシアはぎゅっと拳を握る。
封印は──脆い均衡の上に成り立っていた。
私たちが、動かなければ。
この世界は、再び闇に呑まれる。
***
さらに、壁の一部がひとりでに開き、奥から古びた壁画が姿を現した。
描かれていたのは、七人の英雄。
そして、その系譜が時代を超え、現代の七賢者へと繋がる様が、鮮明に刻まれていた。
リュシアは、思わず呟いた。
「私たちは……七人の英雄の後継者……だったんだ。」
ザックは目を輝かせた。
「これは、歴史的な発見だ!」
エルナも微笑み、ガルドは静かに頷いた。
使命は、血と魂に刻まれている。
それを──今、受け継ぐ時が来たのだ。
***
守護者は、微かに口元を綻ばせた。
「知恵の試練、合格。」
「次は、肉体の試練だ。──ついて来い。」
リュシアたちは、再び歩き出した。
強く、しなやかに。
それぞれの想いを胸に抱いて。




