表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封魔のリミットブレイカー〜天才魔導士、剣で世界を救う〜  作者: 暁えいと∞
第7章『旅路の試練』
34/56

第34話「嵐の夜」

仮面の商人との出会いから一夜明け、


リュシアたちは再び旅路に戻っていた。


峠を越えた先はさらに標高が高く、


周囲にはごつごつとした岩山と、うねるような稜線が連なっている。


「……雲行きが怪しいな。」


ガルドが、鋭い目で空を見上げた。


黒い雲が、山々を覆い始めていた。


「まずい、嵐が来る!」


ザックが慌てた様子で地図を確認する。


「この先に古い山小屋があるはずだ!そこを目指そう!」


四人は荷物を抱え、足早に山道を駆けた。


***


激しい風と、冷たい雨粒が叩きつける。


稲妻が空を裂き、


轟く雷鳴が山々にこだました。


「あと少しだ!」


ガルドの声に励まされながら、


ようやく見つけた小屋の扉を叩き開けた。


中は埃っぽく、屋根の一部は朽ちかけていたが、


雨風をしのぐには十分だった。


「今日はここで夜を明かそう。」


そう言い、ガルドは薪を拾い集め、暖炉に火を灯した。


ぱちぱちと小さな火がはぜる音が、


静かに、冷えた空間を温め始めた。


***


雷鳴が轟くたびに、


エルナはぴくりと肩を震わせた。


普段は明るく朗らかな彼女が、


今は膝を抱えて小さくなっている。


「エルナ、大丈夫?」


リュシアがそっと声をかけると、


エルナはか細い声で答えた。


「……精霊族は、雷が苦手なの。」


震える指先を見て、


リュシアはそっと彼女の手を握った。


「怖いなら、怖いって言っていいんだよ。」


優しい声で。


エルナの大きな瞳に、ぽろりと涙が浮かんだ。


「──こわいよ。」


その言葉に、


リュシアは強く彼女の手を握り返した。


「大丈夫。私たちがいる。」


***


暖炉を囲みながら、


四人は自然と、互いの話を始めた。


ガルドは、静かに語った。


「私は……かつてアルカディア王国の近衛騎士団長だった。」


皆が息を呑んで耳を傾ける。


「護るべき王女殿下が、暗殺未遂に遭った。──私は、その時、守りきれなかった。」


雨音と雷鳴が、重苦しい空気を演出する。


「王女はかろうじて無事だったが……私の部下が命を落とした。」


「……その責任を取り、私は剣を置いた。」


拳を握りしめるガルドに、リュシアは言った。


「だからこそ、今も誰かを守ろうとしている。──それは、誇るべきことだよ。」


ガルドはわずかに目を細め、


静かに頷いた。


***


続いて、ザックが口を開いた。


「僕は、七賢者議会では末席の書記官だった。──リュシアさんを調査する命令も、昇進のためだった。」


彼は自嘲気味に笑った。


「でも今は違う。君たちと旅をして、初めて……本当に学びたいと思ったんだ。」


「人の心を。絆を。生きるということを。」


リュシアは静かに微笑んだ。


「なら、もう十分、立派な賢者見習いだよ。」


ザックは、照れたように眼鏡を押し上げた。


***


リュシアもまた、胸の内を語った。


「……私は、過去にすがっていた。」


「七賢者だった頃の自分。魔力を持っていた頃の自分。」


「でも──今は違う。」


「過去じゃない。今の私が、ここにいる。」


彼女は拳を握りしめた。


「失ったものばかりを数えてた。でも、今は違う。得たものの方が、ずっと多い。」


エルナも、ガルドも、ザックも、


それぞれ頷いた。


「──リュシア、君はもう、十分に強い。」


「私たちは、君を信じている。」


暖炉の炎が、


四人の心を、やさしく包んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ