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封魔のリミットブレイカー〜天才魔導士、剣で世界を救う〜  作者: 暁えいと∞
第7章『旅路の試練』
33/56

第33話「仮面の商人」

嵐を越えたリュシアたちは、小さな宿場町へとたどり着いていた。


標高の高い峠に位置するその町は、


旅人たちの疲れを癒す温泉や宿屋が立ち並ぶ、にぎやかな場所だった。


「今日は休息日だ。」


ガルドが言った。


「身体を休めておけ。明日からはまた過酷な道が続く。」


エルナは「やった!」と喜び、


ザックは「資料を漁るいい機会だ」と地元の古老たちへの聞き込みに意欲を燃やしていた。


リュシアもまた、


一人、町を歩いてみることにした。


(……たまには、のんびりするのも悪くないか。)


静かな期待を胸に、宿場町の賑わう市場へと足を向けた。


***


市場は活気に満ちていた。


旅人たちが行き交い、


露店では山の薬草、珍しい鉱石、手作りの護符などが並べられている。


リュシアは足を止め、


小さな鉱石の輝きや、


珍しい薬草に目を輝かせながら歩いていた。


──ふと。


場の空気から浮いた、一軒の屋台が目に入った。


暗い色の天幕、


周囲とは明らかに異質な、静かな雰囲気。


「……心の奥を映す品々」


屋台に掲げられた、意味深な看板。


(……心の奥?)


好奇心をそそられたリュシアは、自然と足を向けた。


***


そこにいたのは、


年齢不詳の男だった。


色素の薄い瞳、


中性的な容姿。


白い仮面を頬にかけたまま、微笑を浮かべている。


「いらっしゃい、お嬢さん。」


静かな、だが不思議な引力を持つ声。


「……何を売っているの?」


リュシアが問うと、男は棚から一枚の仮面を取り出した。


銀色に輝く、繊細な細工の施された仮面。


片方の顔を覆う半面型だ。


「これは『過去を映す仮面』。


かつての、最も輝かしい瞬間を、ありありと見せてくれる品です。」


「試してみますか?無料ですよ。」


男は柔らかく微笑んだ。


***


リュシアは躊躇った。


(……過去を映す?)


──もし、本当に過去を見られるなら。


魔力を封印される前の自分、


七賢者として、王都の誰もが羨望の眼差しを向けたあの日々──


(……見たい。)


気づけば、手が仮面を取っていた。


そっと顔に当てる──


視界が、一瞬、銀色に染まった。


***


目の前に広がったのは、かつての栄光だった。


高く掲げられた七賢者の証。


燃え上がる魔力の光輪。


喝采を浴びる自分。


自信に満ち、すべてを支配していた頃の自分──


リュシアは息を呑んだ。


(……これが、私だった。)


胸が締め付けられる。


(戻りたい。あの頃に。)


幻影の中で、彼女は両手を伸ばした。


だが──


「リュシア!どこだ!」


遠くから、エルナの声が聞こえた。


現実の声。


仲間の声。


リュシアは、はっとした。


***


「──これは幻だ。」


リュシアは仮面を外した。


目の前にあった輝きは、霧のように消えていく。


仮面の商人は、静かに問いかけた。


「本当にいいのですか?


過去に戻れば、すべてが手に入るのですよ?」


リュシアは首を振った。


「過去に生きるつもりはない。」


「私は、今を生きる。──仲間たちと一緒に。」


力強く、そう告げた。


仮面の商人は一瞬、瞳に奇妙な光を宿したが、


すぐにまた微笑んだ。


「賢明な選択です。──またの機会に。」


彼は、静かに屋台の奥へと消えていった。


***


エルナが駆け寄ってきた。


「リュシア!よかった、無事だったんだね!」


リュシアは微笑み、そっと頷いた。


「心配かけた。……ありがとう。」


エルナは安心したように笑い、リュシアの手を取った。


(──私は、もう、過去には縛られない。)


リュシアは心の奥で、静かに誓った。


これからは、今を、未来を生きるのだ。


共に歩む仲間たちと──

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