第31話「旅立ちと絆」
朝の光が王都アルカディアの背後から差し込み、街道を黄金色に染め上げていた。
リュシアたち四人は、街道を歩き始めていた。
目指すは──遠くそびえる山脈、その中腹にあるという「炎の祠」。
まだ旅は始まったばかり。
だが、王都を離れた今、彼らには自らの力で未来を切り開くしかなかった。
「……あれが目的地だ。」
ザックが地図を広げ、遠くに見える山を指差す。
雪をかぶった高峰の中、一本だけ赤茶けた煙を吐く山──それが火山だった。
「火山の中腹に、古代の祠があると言われています。」
「そこに、封印の一つ……"炎の封印"が眠っているはずです。」
リュシアは小さく頷き、目を細めた。
「険しい旅になりそうだな。」
ガルドが腰の剣を撫でながら言う。
「でも、楽しみだよ!」
エルナが無邪気に笑い、隣を歩くリュシアの袖を引いた。
リュシアも、つられて微笑む。
──そうだ。
一人ではない。
今の自分には、共に歩む仲間がいる。
それが、何よりも心強かった。
***
数日後。
日が落ち、夜の闇が世界を包み込む。
草原の一角で野営した四人は、焚き火を囲んで温かい食事を取っていた。
ぱちぱちと薪が爆ぜる音だけが、静かな夜に響く。
やがて──
「……少し、昔話でもするか。」
ガルドが口を開いた。
「お前たちに話しておきたいことがある。」
リュシア、エルナ、ザックが顔を上げる。
「俺は……かつて、アルカディア王国の近衛騎士団長だった。」
静かながらも重みのある言葉だった。
リュシアたちは息を呑む。
「王国に仕えることが、誇りだった。だが──護るべきものを護れなかった。」
火が揺れる。
「……そのせいで、多くの部下を失った。
王国を、王女様を……護りきれなかったんだ。」
沈黙。
やがてガルドは続けた。
「だから俺は剣を置き、放浪の旅に出た。」
目を伏せるその姿に、リュシアは強い感情を覚えた。
だが──
「今、ようやく分かった。」
ガルドはリュシアたちを見回す。
「護るべきものは、過去じゃない。今、共にいる仲間だ。」
その言葉に、リュシアの胸が熱くなるのを感じた。
「……ありがとう、ガルド。」
自然と、そんな言葉がこぼれた。
焚き火の炎が揺れる。
誰からともなく、次はエルナが口を開いた。
「私も、少し話してもいいかな。」
リュシアとガルド、ザックが静かに頷く。
「……私は、精霊族の父と、人間の母の間に生まれたの。」
淡々とした口調だったが、その瞳の奥には、消えない寂しさがあった。
「幼い頃、父は精霊の森に帰ってしまった。
母は私を一人で育ててくれたけど……村では、ずっと疎まれていた。」
小さな肩が震える。
リュシアはそっと、隣に座るエルナの手に触れた。
エルナは微笑み、続ける。
「でも、ある日気づいたんだ。
私には、精霊の声が聞こえるって。」
──精霊たちは、差別もしないし、蔑みもしない。
ただ、エルナを「友達」として受け入れてくれた。
「……精霊たちと話す時間だけが、私の救いだった。」
そう言って、エルナは空を見上げた。
「でも──リュシアたちに会って、初めて思ったの。」
「人間の世界でも、ちゃんと"居場所"を作れるんだって。」
リュシアは、胸がいっぱいになった。
言葉はなかった。
だが、その手のぬくもりは、エルナにしっかりと伝わっていた。
***
今度は、ザックが手帳を閉じた。
「僕も……本当のことを話すよ。」
焚き火の光に、眼鏡の奥の瞳がきらめく。
「僕がリュシアを追ってきた理由は、七賢者議会からの正式な命令だった。」
リュシアは一瞬、表情を曇らせた。
ザックは言葉を続ける。
「魔力封印の現象、リミット解除の現象……
すべて前例のない事態だった。
だから、詳細に観察して、記録するように命じられていたんだ。」
──つまり、自分は「研究対象」だった。
リュシアの胸に、かすかな怒りが湧いた。
だが──
「でも今は違う。」
ザックははっきりと、リュシアの目を見て言った。
「君は、単なる"対象"なんかじゃない。
仲間だよ。大切な──。」
少し頬を赤らめながら、ザックは言葉を結んだ。
リュシアは黙っていたが、やがて小さく、吐息をついた。
「……正直に言ってくれて、ありがとう。」
そして、柔らかく微笑む。
「私も、信じたい。今のあなたを。」
その一言で、ザックの顔がぱっと明るくなった。
***
三人が己の過去を語った今。
焚き火の前に座るリュシアにも、自然と順番が回ってきた。
「……私も話すよ。」
焚き火を見つめたまま、リュシアは口を開いた。
「最初にこの旅に出たとき──
私は、自分の力を取り戻すことだけが目的だった。」
ぎゅっと、膝を抱える。
「力さえ取り戻せば、また認められる。
また……"あの頃の自分"に戻れるって……そう信じてた。」
かすかな自嘲。
「でも違ったんだ。
力を失ったことで、私は……本当に、大切なものを見つけた。」
──仲間。
──信頼。
──未来を守る意志。
「失ったものばかり見ていたけど、今は違う。
私は、今の私で、戦いたい。」
リュシアの声は震えていなかった。
その瞳には、確かな光が宿っていた。
「……リュシア。」
エルナがそっと肩に触れる。
「あなたは、ちゃんと変わったよ。」
ガルドもうなずき、ザックは「最高の研究対象だ」とにやりと笑った。
四人の間に、静かな絆が芽生えていた。
火はなおも燃え続け、
夜空には、無数の星が瞬いていた。
──そして、四人は改めて誓った。
「必ず、炎の祠の試練を乗り越えよう。」
リュシアが、拳を握る。
「──ああ。」
「もちろんだよ!」
「記録にも、ちゃんと残すからね!」
それぞれの思いを胸に、四人は、未来を見据えた。
次なる試練へと──。





