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封魔のリミットブレイカー〜天才魔導士、剣で世界を救う〜  作者: 暁えいと∞
第6章『真実への旅立ち』
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第30話「黒い影」

王都アルカディアからほど遠くない小高い丘。


そこに一人、優雅な身なりの男が立っていた。


──アルカード。


彼は上品な黒のローブに身を包み、手には銀細工の細い杖を携えている。


その整った顔立ちには、冷たく、計算高い微笑が浮かんでいた。


アルカードは手元の小さな魔法鏡を覗き込む。


鏡の中には──王都を出発するリュシアたち四人の姿が映し出されていた。


「……予定通り、動き始めたな。」


彼は低く呟く。


周囲の草木が、彼の放つ魔力に蝕まれるように枯れていく。


だが、そんな現象を気にも留めない。


ただ、静かに、楽しむように微笑んでいた。


***


ふいに、空間が揺らぐ。


黒い霧が集まり、やがて一人の存在を形作った。


──顔を覆う黒衣の使者。


しゅの意志は、どこまで進んでいるか?」


くぐもった声で問う使者に、アルカードはあくまで優雅に応じた。


「順調だ。七つの封印は、活性化を始めている。」


「……活性化?」


使者の声に戸惑いが混じる。


アルカードは、口元に冷たい笑みを浮かべた。


「封印は、ただ閉じ込めるだけではない。


動かせば──内側の力が活性化し、復活への道が開く。」


「……我らの主、魔王陛下の復活に、必要だと?」


「ああ。」


アルカードは鏡を閉じた。


「そして──彼女。リュシア・フェルディナンド。」


使者がわずかに身を震わせる。


「彼女は、危険では?」


「逆だ。」


アルカードは静かに言った。


「彼女のリミット解除の力は、むしろ我々にとって好都合だ。


彼女が封印を修復すればするほど、封印は"活性化"する。」


「……理解した。」


使者は深く頭を垂れた。


***


アルカードは空を仰ぎ見た。


「面白いだろう? 力を失った天才が、必死に抗い、成長しようとしている。」


その声には、愉悦すら滲んでいる。


「だが、最後には……彼女自身が、主の復活に力を貸すことになる。」


黒い霧が、アルカードの周囲を取り巻き、不穏な気配を強めていく。


使者は、さらに尋ねた。


「次は、いかがいたしましょう?」


「──干渉はするな。」


アルカードは断言した。


「彼らに試練を与えよ。


炎の祠で、試練を乗り越えさせろ。」


「なぜ……?」


「修復こそが、活性化への道なのだ。」


アルカードの瞳が、妖しく光った。


***


「──彼らは、自分たちが罠に向かっていることに気づいていない。」


「だが、それでいい。」


アルカードは杖を軽く振った。


黒い霧が渦を巻き、使者の姿を呑み込んでいく。


「炎の祠の封印を……"修復"させるのだ。」


「それが、主の復活の鍵となる。」


最後に、使者の声が闇に溶ける。


「御意──」


──静寂。


アルカードだけが、丘に残った。


彼は、王都方向に向かって最後の視線を投げた。


そして、低く呟く。


「さあ……


リュシア・フェルディナンド。


お前が、どこまで抗えるか見せてもらおう。」


冷たく、そして美しい微笑みを浮かべながら──。


──「ゲームの始まりだ。」


その声は、風に乗って、誰にも届くことなく消えていった。

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