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封魔のリミットブレイカー〜天才魔導士、剣で世界を救う〜  作者: 暁えいと∞
プロローグ『封印された天才』
3/56

第3話「アルカードとの対決」

転移魔法に包まれたリュシアの身体は、闇に満ちた封印の間から、かろうじて逃れるように消えた。


飛ばされた先は、荒涼たる北方の荒野。


神殿から数キロ離れた丘の上だった。


——どさっ。


地面に叩きつけられるように倒れ込む。


「くっ……!」


リュシアは呻いた。


全身が鉛のように重い。


手も、足も、まるで自分のものではないかのようだった。


何より——


「……魔力が、ない……」


手をかざして、小さな火球すら作ろうとする。


だが、いつもなら自然に集まるはずの魔素は、まるで砂をつかもうとするかのように指の間から零れ落ちていく。


彼女の体内に巡っていた圧倒的な魔力は、もはやほとんど残されていなかった。


七賢者最強とまで謳われた少女。


かつて、指先一つで山をも穿った天才魔導士。


その力は、今やほとんど霧散していた。


「嘘、でしょ……?」


リュシアは呆然と呟いた。


目の前の現実を、理解できなかった。


——私は、負けた。


——魔力を、奪われた。


膝が崩れ落ちる。


何度も立ち上がろうとするが、体がついてこない。


「こんな……はずじゃ、なかったのに……!」


震える指で地面を掴み、泥にまみれながらもリュシアは歯を食いしばった。


敗北。


力の喪失。


屈辱。


孤独。


心の中に、次々と黒い感情が沸き上がる。


だが——


「……帰らなきゃ……」


絞り出すような声。


まだ、終わっていない。


まだ、何も終わっていない。


七賢者の一員として。


人として。


リュシア=フェルディナンドとして。


自分は、まだ——立ち上がらなければならない。


ガクリと膝をつきながらも、彼女は必死に体を起こす。


頭が割れるように痛い。


吐き気もする。


だが、歩き出すしかない。


「……私を、待ってる人が……いる……」


ぎゅっと拳を握る。


たとえ今は、魔力を失った無力な存在だとしても。


たとえ、誇りをへし折られ、心が折れそうになっても。


リュシアは、歩き出した。


王都へ。


仲間たちのもとへ。


そして、再び世界を救うために。


——背後で、誰かが嗤っている気がした。


あの神殿の奥底から、冷たい嘲笑が響いてくる気がした。


けれどリュシアは振り返らなかった。


振り返れば、心が折れてしまうから。


だから彼女は、前だけを見た。


傷だらけの体を引きずり、血のにじむ指で道を掴み、何度倒れても、何度でも立ち上がった。


どこまでも続く荒野の彼方へ。


決して、屈しない意志を胸に——。


***


そして少女は、


これから始まる過酷な運命も知らぬまま、


歩き続けた。


たとえ世界に裏切られても。


たとえ己が力を奪われても。


リュシア=フェルディナンドは、


希望を捨てることだけはしなかった。


——その小さな背中に、かつてないほど重いものを背負いながら。

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