第28話「旅の準備」
王都アルカディアの市場は、いつにも増して活気にあふれていた。
新たな任務を帯びたリュシアたちは、旅支度に奔走していた。
「よし、まずは食料と水、それから薬草だな。」
ガルドが力強くリストを読み上げる。
リュシアは真剣な顔でメモを取りながら応じた。
「加えて、耐熱装備が必要よ。炎の祠は火山地帯にあるって伝承にあったから。」
「子供サイズの装備もだな!」とザックが茶化すように笑う。
リュシアは無言で睨みつけたが、実際その通りだった。
王都の職人街を巡り、リュシアは自分のために特注の子供用鎧と衣服を注文した。
商人たちは最初こそ驚いていたが、リュシアの毅然とした態度に納得し、迅速に仕立てに取り掛かった。
「……準備しておけば、何度子供になっても大丈夫だからね。」
リュシアは自嘲気味に呟く。
***
旅装備を整える合間、リュシアたちは情報収集にも力を入れた。
王都の古老、旅人、行商人──ありとあらゆる人々から「炎の祠」に関する話を集める。
「祠は火山の中腹にある。常に灼熱の熱気に包まれている。
近づくものは命知らずだけだ。」
そう語る老商人。
「祠には試練を与える守護者がいる」という噂も絶えなかった。
一方、ザックは図書館で文献を調べ、重要な記述を見つけてきた。
「炎の祠における試練は、肉体、精神、そして知恵。この三つを試すものらしい。」
リュシアは地図を広げながら、ルートと対策を考えた。
「相手はただの炎じゃない。
魔法的な火──耐熱魔法具と、緊急用の治癒薬も持っていこう。」
実務的に、着実に──リュシアは自分たちを整えていった。
(もう、無計画な突撃はしない。
私たちは、チームなんだから。)
*
宿に戻った四人は、夕食を囲みながら最終作戦会議を開いた。
「改めて、役割分担を確認しよう。」
リュシアが切り出す。
ガルドは真っ直ぐ頷いた。
「俺は前衛担当。戦闘の最前線を張る。」
「私は回復と支援魔法。」エルナが静かに答える。
「僕は記録と分析、古代語の解読も任せて。」ザックは胸を張る。
リュシアはみんなを見渡して、静かに言った。
「私は──リーダーを務める。
戦術の立案と、必要ならリミット解除を……使う。」
少しの沈黙の後、ガルドが言った。
「問題ない。」
エルナも、優しく微笑んだ。
ザックも眼鏡を押し上げながら、嬉しそうに頷く。
──それぞれの役割を認め合い、支え合う。
そんな「チーム」としての絆が、確かにここに芽生え始めていた。
***
市場での買い物を終えた後、ある商人に声をかけられた。
「お嬢ちゃんたち、旅の者かい?名を聞いてもいいかい?」
リュシアは一瞬戸惑ったが、ふと微笑んで言った。
「私は、ソードメイジ。──剣と魔法、両方を操る者だ。」
その響きに、ガルドも、エルナも、ザックも、顔をほころばせた。
「いい名だな。」
「とてもリュシアらしい。」
「公式に名乗れる肩書きになるよ!」
リュシアは胸の奥が温かくなるのを感じた。
(私は、ただの元七賢者じゃない。
今ここに──新たな自分として、立っている。)
***
出発前夜、四人は宿の中庭に集まり、最後の打ち合わせをしていた。
夜空には無数の星が瞬いている。
エルナが、そっと囁いた。
「……私は、初めて本当の『仲間』を得た気がする。」
ガルドも静かに言う。
「俺には、護りたいものができた。」
ザックはメモ帳を閉じ、微笑んだ。
「僕にとって、これは研究じゃない。
──大切な冒険だ。」
リュシアは胸に手を置き、噛みしめるように言った。
「一人じゃここまで来られなかった。
──みんなとだから、進める。」
そして、力強く宣言する。
「どんな試練でも──乗り越えてみせる。」
──静かに、しかし確かな決意が、四人を結びつけていた。




