第27話「七賢者議会との再会」
アルカディア王都の中心にそびえる、荘厳な魔導塔。
その最上階、七賢者たちが集う「七賢者の間」へ向かって、リュシアたちは歩を進めていた。
重厚な石造りの廊下、金と青を基調とした豪華な装飾。
どれも、リュシアにとっては懐かしく、同時に胸の奥を突き刺す光景だった。
(ほんの一ヶ月前まで、私はここで……)
リュシアの胸に、かすかな痛みが走る。
「緊張しているのか?」
隣を歩くガルドが、さりげなく尋ねた。
リュシアは微笑んで首を振った。
「平気だよ。……多分。」
先導するザックが立ち止まり、大扉を指差した。
「ここが七賢者の間だ。」
リュシアは小さく息を吸い込み、覚悟を決めた。
***
巨大な二枚扉が音もなく開かれた。
中は、円形の荘厳な空間だった。
七つの座席が円卓を囲み、それぞれに七賢者たちが座っている。
天井には、古代語で刻まれた「知は力なり、力は責任なり」という言葉が輝いていた。
中央に立つオーディン議長が、穏やかな声で言った。
「よく来た、リュシア。」
リュシアは一礼し、静かに答えた。
「失礼いたします。リュシア・フェルディナンド、参上しました。」
その横に、ガルド、エルナ、ザックが控える。
リュシアは視線を上げ、かつての仲間だった賢者たちを見渡した。
皆、真剣な顔をしていたが、中には微かな懐かしさや、複雑な感情を隠しきれない者もいた。
***
リュシアは、深呼吸して話し始めた。
「現在、私の身に起きている現象……リミット解除時の子供化。
これは、完全な呪いではなく、私自身の肉体が過剰な魔力使用に対して自衛するための、自己保護反応と判明しました。」
議場がざわめく。
リュシアは続ける。
「また、忘れられた書庫にて、七つの封印『セブン・シールズ』の存在と、そのうちの一つ──『炎の祠』の封印が、弱体化している事実を確認しました。」
賢者たちは静まり返った。
オーディン議長が、重々しく頷く。
「……世界の危機に繋がる、か。」
リュシアは力強く頷いた。
「はい。
今や、私の個人的な問題ではありません。
このまま封印が崩れれば、魔王の復活は現実のものとなります。」
ザックが補足するように進み出て、記録してきたデータを提出した。
***
賢者たちは資料を読み、互いに静かな視線を交わした。
「リミット解除が本当に可能なのか?」
「子供化が安全装置だとしても、制御できるのか?」
疑念混じりの問いが飛ぶ。
リュシアは、一つひとつ真摯に答えた。
「リミット解除は、感情の昂りによって発動しますが、意図的に制御する訓練は可能です。」
「子供化は24時間以内に自然回復し、記憶や能力への影響はありません。」
そして、きっぱりと言った。
「力を失ったとしても、私の知識と経験は、今もここにあります。」
エルナとガルドが、リュシアを支えるように立ち、力強く頷いた。
ザックも冷静な分析データを添えて、彼女の言葉を裏付けた。
***
七賢者議会の中央、オーディン議長が立ち上がった。
重々しく──だが確かな声で告げる。
「……最初の封印、風の祠において異変が確認された。」
賢者たちに緊張が走る。
「現地調査隊の報告によれば、封印の魔力が著しく低下し、周囲に魔族の活動が活発化している兆候が見られる。」
静まり返る議場。
オーディンは続けた。
「さらに、次なる封印──炎の祠においても、魔力の不安定化が観測されつつある。」
リュシアは静かに拳を握った。
(やはり……。書庫で得た情報は間違っていなかった。)
オーディンはリュシアをまっすぐに見据え、言葉を重ねた。
「我々七賢者は、それぞれ別の封印地を担当し、調査・保護にあたる。
リュシア・フェルディナンド、およびその同行者たちには、炎の祠の調査と封印の修復任務を命じる。」
堂々とした宣言だった。
***
しかし、すぐに異論が上がった。
「待ってください、議長!」
年配の賢者の一人、ライナスが立ち上がった。
「力を失った元七賢者に、世界の命運を左右する任務を任せるのは、あまりに危険では?」
会場にざわめきが広がる。
リュシアは静かに目を閉じ、深く息を吸った。
(ここで、怯んではならない。)
そして、毅然と顔を上げる。
「確かに、私は以前の力を失いました。
けれど、知識と経験は今もこの身に宿っています。」
一歩、前に出る。
「リミット解除の力も、使い方を誤らなければ有効です。
子供化のリスクも理解し、受け入れた上で……私は戦います。」
エルナが、リュシアの隣に立った。
「リュシアは一人ではありません。私たちが共にあります。」
ガルドが無言で剣に手を置き、誓いを示す。
ザックも、分厚い書物を胸に抱え、静かに頷いた。
賢者たちの間に、再び沈黙が訪れた。
***
オーディンが再び口を開く。
「リュシアは……力だけで七賢者に選ばれたのではない。
彼女の心、知恵、そして何より世界を護りたいという意志こそが、賢者たる資格なのだ。」
賢者たちは互いに目を見交わし、やがて一人、また一人と頷いた。
ライナスも渋々ながら腰を下ろす。
オーディンが、円卓中央にある金属製の紋章を手に取った。
「リュシア・フェルディナンド。」
リュシアは進み出る。
オーディンが、その紋章をリュシアの左腕に静かに装着した。
公式の「七賢者任務従事者」であることを示す、特別な徽章だ。
「君に、再び世界を託す。」
リュシアはまっすぐに頭を下げた。
「はい──必ずや、この命に代えても。」
会場に、静かな──しかし確かな拍手が広がった。




