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封魔のリミットブレイカー〜天才魔導士、剣で世界を救う〜  作者: 暁えいと∞
第5章『忘れられた書庫』
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第22話「書庫への道」

下層区域――。


王都の華やかな表通りとは違い、ここは薄暗く、湿った空気が漂っていた。


リュシアたちは細い路地を進み、やがて「知恵の泉」と書かれた古びた看板の前にたどり着いた。


ガルドが扉をノックすると、中から聞き覚えのある声が響いた。


「おお、お帰り。待ってたぜ、三人とも。」


現れたのは、情報屋マルコ。


小太りで、油断ならない笑みを浮かべた中年男だ。 


マルコの目が、リュシアに留まる。


「……って、なんだその姿は?」


リュシアは腕を組んで、堂々と言った。


「私だ。リュシア・フェルディナンド。」


マルコは目を見開き、しばらく言葉を失った。


だがすぐに、興味深そうな顔でニヤリと笑う。


「なるほど。変身、ってやつか。噂以上に面白い現象だな。」


ガルドが冷たい視線を向ける。


「余計な詮索はするな。契約は守ってもらうぞ。」


「わかってるさ。ビジネスだ、ビジネス。」


マルコは手をひらひらと振り、奥の机から小さな箱を取り出した。


「さて、これが例のブツ……王家の印璽だ。」


リュシアが手を伸ばし、慎重に受け取る。


確かに、王国の紋章が刻まれた金属製の重厚な印だ。


「取引成立だな?」


リュシアが言うと、マルコは満足げに頷いた。


「もちろん。では約束通り――『忘れられた書庫』への案内を始めよう。」



マルコは店の奥の棚から、古びた羊皮紙の地図を取り出した。


そこには、王都の地下に広がる下水道網が細かく描かれている。


「書庫は、王都建設以前――いや、千年前の大魔法戦争のころに造られた遺構の中にある。


表向きには存在しないことになってる場所さ。」


リュシアは地図を覗き込みながら、真剣な表情を浮かべた。


「下水道を通る……危険は?」


「当然あるさ。」


マルコは軽く肩をすくめた。


「古代の防衛装置、崩落した通路、魔物……いろいろな"歓迎"があるだろうな。


だが、君たちなら行けるさ。」


エルナが不安げに尋ねた。


「あなたも、同行するの?」


「案内役は必要だろう?」


マルコは飄々と笑った。


「安心しな。裏切る気はない。俺にも得があるんでね。」


リュシアとガルドは視線を交わし、短く頷き合った。


「……いいだろう。案内を頼む。」



下層区域のさらに奥、誰も気づかない隠された路地。


そこに、小さな鉄格子の扉があった。


マルコが手際よく隠しレバーを操作すると、ギィィ……と扉が開く。


「ここからだ。」


中からは、湿った空気と、苔の匂いが漂ってきた。


ガルドが剣を抜き、エルナは精霊魔法の準備を整える。


リュシアも、軽く剣を握り直した。


「行こう。」


リュシアが小さな体で先頭に立つ。


石造りの通路。


緑の苔に覆われた壁。


滴る水音と、遠くで鳴る獣の咆哮――。


まるで千年の眠りから目覚めた異世界のような、


不思議な空間だった。


リュシアの目が細くなる。


(……この空気。この場所。この感覚。間違いない。ここは本物だ。)


慎重に、そして確信をもって、リュシアは一歩ずつ進んでいった。


![13130072-7D85-4B3D-BACA-AC6D287493F7.png](attachment:f950de19-ccec-42b0-8229-d18c55b3f845:13130072-7D85-4B3D-BACA-AC6D287493F7.png)


***


下水道を進む一行。


やがて、道は崩落し、巨大な瓦礫が通路を塞いでいた。


「ちっ……これじゃ通れねえな。」


ガルドが苦々しく呟く。


壁の隙間はあまりにも狭い。大人が無理やり通れば、引っかかるだろう。


リュシアが一歩前に出た。


「私に任せて。」


子供の姿ならではの小さな体躯。


細い隙間に、すいっと身を滑り込ませる。


ゴリゴリと石に服を引っかけながらも、リュシアは反対側へと抜け出た。


ガルドが苦笑しながら声をかける。


「お前、こんな姿も悪くないな。」


「馬鹿にしてるのか?」


リュシアがジト目で睨む。


だがその頬は、どこか誇らしげだった。


彼女は内側から古びたレバーを探し、力いっぱい引いた。


ギギギ……という音と共に、瓦礫を避けるための別の隠し扉が開く。


「これで通れる。」


エルナが嬉しそうに拍手した。


「リュシア、すごい!」


マルコも感心した様子で言った。


「見かけによらず、頼りになるな。」


リュシアは鼻を鳴らした。


「状況に適応するのも、戦士の資質だ。」


彼女は、かつてのように魔力に頼るのではなく、


いま「できること」で戦う力を、確かに身につけ始めていた。


***


さらに進んだ先――。


突如、壁に埋め込まれた魔法陣が淡く光を放つ。


ガルドが咄嗟に剣を構え、エルナも精霊の気配を探った。


そして――


石でできた巨大な像が、ぎぎぎ……と不気味な音を立てて動き出した。


「ゴーレム……!」


リュシアが叫ぶ。


それは、千年前の技術で作られた防衛機構。


侵入者を感知すると、自動的に活動を開始する守護者だった。


「戦うか?」


ガルドが構える。


リュシアはすぐに首を振る。


「待って! 無闇に戦えば、周囲を崩落させる!」


彼女は壁に刻まれた古代文字を素早く読み取る。


(……特定の合言葉で停止する仕組み。だったはず!)


リュシアは深呼吸し、心を落ち着けた。


子供の高い声で、古代語の詠唱を唱える。


「――〈賢者の名において、命ずる。目覚めるべからず〉!」


ゴーレムが、ピタリと動きを止めた。


辺りに、静寂が戻る。


マルコが驚きの声を上げる。


「おいおい……子供なのに、古代語まで完璧とは……!」


リュシアは息を吐き、汗を拭った。


「ふん、元七賢者だからな。」


少し照れながらも、誇らしげに答える。


エルナもガルドも、その小さな背中を頼もしく見つめていた。


***


一行は再び歩き出した。


だがリュシアは、ふとマルコに視線を向ける。


――彼は、あのゴーレムの動作原理を、あまりにも自然に理解していた。


古代語に対する反応も、普通の情報屋にしては鋭すぎる。


(……やはり、ただの商人ではないな。)


そう確信しながらも、リュシアは今は口に出さなかった。


今は、まず目的地――『忘れられた書庫』へ辿り着くことが先決だ。


湿った空気を切り裂き、リュシアたちはさらに地下深くへと歩を進めた。


そして――


視界の先に、


巨大な石造りの扉が、


厳かに、彼らを待ち受けていた。

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