第21話「子供姿での街歩き」
朝の陽光が、王都アルカディアの城壁を金色に照らしていた。
その麓、静かな野営地に、一人の少女――リュシア・フェルディナンドは目を覚ました。
ぼんやりと天幕の天井を見つめ、ため息をつく。
(やっぱり……子供のままだ)
起き上がったリュシアは、袖の中にすっぽり隠れる小さな手を見て苦笑した。
リミット解除の代償。子供化する現象には、もはや驚かなくなっていた。
隣の寝台では、ガルドがまだ眠っている。
負った傷は癒えつつあるが、無理は禁物だ。
エルナが小さな薬箱を手に、リュシアのもとにやってくる。
「おはよう、リュシア。……今日も可愛いね。」
「からかうな。自覚はある。」
ぷいと顔をそむけるリュシアに、エルナは優しく笑った。
子供の姿でも、その誇り高さは変わらない。
「でも本当に、あなたのおかげで、ガルドは助かったのよ。」
リュシアは小さく肩をすくめた。
「当然のことをしただけさ。」
照れ隠しのようなその言葉に、エルナはさらに微笑みを深めた。
王都の朝
朝の清々しい空気の中、リュシア、ガルド、エルナの三人は王都へ向かって歩き出した。
遠くにそびえる魔導塔、王城の尖塔、整然と並ぶ魔法商店街の光景が目に入る。
リュシアは、しばし足を止めた。
(変わらないな……この街は)
懐かしさと、どこか遠い場所に来たような疎外感。
自分だけが変わってしまったのだという現実を、痛いほど感じる。
「……さて、今日はちゃんと子供サイズの服だな。」
ガルドが皮肉混じりにリュシアを見下ろした。
リュシアは胸を張る。
「状況に適応するのも、戦士の才能だ。」
たくましい返答に、ガルドとエルナは顔を見合わせ、くすりと笑った。
旅の中で、三人の間には確かな絆が育ってきている。
街中での出来事
王都の大通りは朝から賑わっていた。
露店が並び、魔法道具を売る声、香ばしいパンの匂い、魔導書を抱えた学生たちの姿。
そんな中、小さなリュシアは大人たちの腰の高さほどしかない。
「おい、そこの子。迷子か?」
巡回中の警備兵が声をかけてきた。
リュシアは一瞬、眉をひそめたが、すぐに無邪気な笑顔を作った。
「だいじょうぶ!お兄ちゃんと一緒!」
後ろでガルドが顔をしかめたが、すぐに状況を理解し、微妙に頷いた。
「そうだ。妹を連れてるんだ。」
警備兵は安心したように頷き、パトロールに戻っていった。
「機転が利くな。」
ガルドが感心して言う。
リュシアは得意げに胸を張った。
「子供の姿も、使いようってことさ。」
子供たちとの交流
王都の中央広場は、朝の光に包まれ、多くの人で賑わっていた。
リュシアたちは広場の一角、噴水の近くで腰を下ろして休憩していた。
小さなリュシアは、ひときわ目立っていた。
「ねえ、君も遊ばない?」
どこからか集まってきた子供たちが、リュシアに声をかけた。
年の頃はリュシアと同じくらい。小さな剣を模した木の棒を振り回している少年たち。
一瞬、リュシアは戸惑ったが、ふと肩の力を抜く。
(子供として扱われるのも……悪くないか。)
「いいよ。」
素直に頷くと、子供たちは歓声を上げてリュシアを輪の中に引き入れた。
「お前、名前は?」
「リュシア。」
「へえ、変わった名前だな!剣、使える?」
「ちょっとだけね。」
そう言って、リュシアは子供用の木剣を受け取り、軽く構えた。
子供たちの中には、魔導士志望の子や騎士志望の子もいて、
「剣ごっこ」や「魔法ごっこ」で遊び始めた。
リュシアは最初は遠慮していたが、
徐々に本気で動き始め、子供たちの技を次々といなしていった。
「うわー!強い!」
「すげー、リュシア!」
無邪気に賞賛され、囲まれるリュシア。
少しだけ、胸の奥が温かくなる。
(……私も、かつてはこんなふうに笑っていたんだ。)
「君、なんか、普通の子と違うね?」
一人の女の子がぽつりと呟く。
リュシアは微笑んだ。
「そうかもしれないね。」
その一言に、子供たちはまた無邪気に笑い、遊びに戻っていった。
子供の姿を活かす成長
しばらく遊んだ後、リュシアは広場のベンチに戻った。
ガルドとエルナが待っていた。
「どうだった?」
エルナが優しく聞く。
リュシアは小さく頷いた。
「……悪くなかった。情報も手に入れた。」
「情報?」
ガルドが目を細める。
「広場で遊んでいた子たち、王宮の関係者の子供だった。
親たちは、今ちょうど王宮内で大規模な会議が開かれているらしい。
封印に関する話題も出ている、って。」
二人は顔を見合わせ、感心したように頷いた。
「子供の姿だからこそ、聞き出せたんだな。」
「……ああ。役に立つもんだ。」
リュシアは照れくさそうに笑った。
情報屋への道
その後、三人は再び歩き出した。
目指すは、闇の情報屋・マルコとの約束の場所だ。
途中、エルナが心配そうにガルドを見る。
「本当に無理してない?」
ガルドは苦笑しながら肩をすくめた。
「平気だ。これぐらいで音を上げるか。」
「……ガルドが無理してるのは、昔からだよな。」
リュシアが呟き、三人で小さな笑い声を交わす。
やがて、王都の下層区域、薄暗い路地の入り口が見えてきた。
ガルドが険しい表情で言う。
「ここから先は、特に警戒しろ。特にリュシア――子供は目立つ。」
リュシアは小さく頷いた。
「わかってる。私は、ただの"小娘"じゃない。」
青い瞳に、静かな闘志を宿して。




