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封魔のリミットブレイカー〜天才魔導士、剣で世界を救う〜  作者: 暁えいと∞
第4章『小さな体の大きな冒険』
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第17話「王都帰還」

王都アルカディア。

高くそびえる魔導塔、純白の城壁、整然と区画された石畳の道。

遠くから見ても、その威容は変わらず堂々としていた。

だが、リュシアの胸には、かつて抱いた誇り高き感情は微塵もなかった。


小さな背中に、たった一振りの剣。

重すぎる荷物を背負った子供の姿で、彼女は王都の門をくぐった。


「……懐かしい。でも……」


リュシアは呟く。

目に映る王都の景色は、何一つ変わっていないのに、まるで異国に迷い込んだような疎外感を覚えた。

彼女が知るアルカディアは、輝かしい魔導の都だった。

だが今、この小さな身体と封じられた魔力では、あの栄光の世界は、ただの遠い幻にすぎなかった。


大通りを歩く人々。

魔導士のローブを翻しながら談笑する青年たち。

杖を手に修行に励む子供たち――。

かつての自分と重なる光景に、リュシアは無意識に胸を押さえた。


「おい、大丈夫か?」

隣を歩くガルドが、気遣うように声をかける。


「……平気だよ」


リュシアは無理に笑って見せた。

エルナも、そっと彼女の手を握り返す。

小さな温もりが、心の痛みをわずかに和らげた。


王都中心部、魔導書院へ向かう道すがら。

制服姿の生徒たちがリュシアたちの前を通り過ぎる。

彼女たちは魔法談義に花を咲かせ、未来への夢を語り合っていた。


ふと、リュシアは一人の少年に目を留めた。

見覚えのある顔――かつて同じクラスで学んだ仲間の一人だ。


「……ねえ!」


思わず声を上げて、手を伸ばす。

だが少年は、リュシアに一瞥もくれず、友人たちと笑いながら歩き去ってしまった。


「……気づかない……」


リュシアは呟く。

小さな身体に変わったこともあるだろう。

しかし、それだけではない。

かつて彼女がいた場所は、もはや遠い高みなのだ。


「変わったのは、彼らじゃない。お前の立場だ」


ガルドの、静かだが鋭い言葉が、心に突き刺さる。


目指すは、かつての誇り――アルカディア魔導書院。


威風堂々たる白亜の建築。

繊細な魔法障壁に守られ、歴史を物語る古びた石畳。

リュシアの胸に、強烈な懐かしさが込み上げる。


「ここで、私は……」


小さく呟いた声は、誰にも届かなかった。

自分が何者だったかを思い出し、胸を張る。

封印も、子供の姿も関係ない。

彼女はここに、情報を求めに来たのだ。


しかし――。


「入館証をお見せください」


無表情な門番が、彼女たちを止めた。


「私はリュシア・フェルディナンド。元、七賢者だ」


リュシアは堂々と名乗る。

だが門番は眉一つ動かさず、無感情に告げた。


「元、ということは、現在は一般人ですね。入館には現行の許可証が必要です」


「なっ……!」


リュシアは言葉を失った。

かつて、彼女が立ち入れぬ場所などこの学び舎にはなかった。

最年少で七賢者となり、全ての魔導書庫に自由にアクセスできたのだ。


だが今――。

一人の力なき少女にすぎない。


拳を握りしめる。

膝が震えそうになるのを、必死に堪えた。


「帰ろう、リュシア」


ガルドが、静かに肩を叩いた。


書院を後にし、路地裏のカフェで一息つく三人。

リュシアはカップを見つめたまま、動かない。


「これから、どうする?」


エルナがそっと尋ねた。


「……封印と変身に関する資料、王立図書館の一般区画にはない」


リュシアは唇を噛んだ。


正規の道では、必要な情報に辿り着けない。

かつての特権を失った今、自ら道を切り拓くしかなかった。


「……裏を探ろう」


リュシアは静かに告げた。

その声に、一片の迷いもなかった。


「この王都には、裏の情報網があるはずだ。正規ルートが閉ざされたなら――非正規ルートに賭ける」


ガルドは少しだけ驚いた顔をしたあと、笑った。


「……いい目だ。生きるってのは、そういうもんだ」


リュシアはカップを置いた。

そして、ゆっくりと立ち上がる。


「行こう。情報を買いに」


小さな背中に、確かな決意が宿っていた。

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