第16話「元の姿に戻るとき」
森の中を抜け、人気のない小高い丘に三人は野営を張った。
満天の星が瞬き、夜の空気は肌寒い。
焚き火を囲み、ガルドが静かに見張りを続け、
エルナは小さな鍋で温かいスープを煮ていた。
リュシアは、小さな体を毛布に包み、焚き火のそばに座っていた。
疲れ果てた身体。
だが、心の奥には、確かな充実感があった。
(私は……役に立てた)
(子供の姿でも、ちゃんと戦えた……)
安堵と誇りが、胸に広がっていた。
***
その夜。
リュシアの体に、異変が起こった。
「……う……熱い……」
うなされるような声を上げ、毛布の中でもがく。
額には玉のような汗。
手足の先が、じんわりと熱を帯び、ほのかに光り始めた。
エルナが、驚いて駆け寄る。
「リュシア!?」
ガルドもすぐに駆け寄った。
リュシアの小さな体は、仄青い光に包まれていた。
まるで、何かが目覚めるかのように。
エルナは目を閉じ、精霊たちに問いかける。
「……これは、精霊の力?」
精霊たちは、微かに答えた。
「変化は、循環する。夜明けと共に」
エルナは、そっとリュシアの肩に手を置いた。
「大丈夫。きっと、元に戻る」
ガルドも静かに言った。
「彼女は、強い。必ず自分の力で乗り越える」
二人は、そっと見守った。
焚き火の光と、リュシアを包む青白い光が、夜の闇を照らしていた。
***
翌朝——
リュシアは、静かに目を覚ました。
朝日が、テントの布越しに柔らかく差し込んでいる。
リュシアは、ぼんやりと体を起こした。
そして——
気づいた。
(……目線が高い?)
手を見る。
小さな手ではなかった。
15歳の、元の手だった。
リュシアは、慌てて立ち上がった。
「戻った……!」
ガルドとエルナも、にっこりと微笑んだ。
「おかえり、リュシア」
「よかった……!」
リュシアは、思わず拳を握りしめた。
(元に……元に戻れた……!)
感激で胸がいっぱいになった。
***
食事を取りながら、三人で話し合った。
「どうやら、リミット解除の反動で子供化するのは、24時間限定らしいな」
ガルドが言った。
エルナも頷く。
「精霊たちも言ってた。力の循環が整えば、元に戻るって」
リュシアは、真剣な顔で頷いた。
「つまり——」
「封印された魔力をリミット解除で無理に引き出すと、
その反動で肉体が『安全な形』に縮小される。
でも、エネルギーが安定すれば、元に戻る」
彼女は、魔導士らしく論理的にまとめた。
そして、深く息を吐いた。
「つまり、次にまたリミット解除を使えば、また子供になる」
ガルドは、腕を組んで言った。
「代償があるってわけだな」
リュシアは、少し考えた。
(代償……)
(でも——)
「それでも……」
リュシアは、小さな声で、でも力強く言った。
「必要な時には、使う。
仲間を守るためなら、何度でも」
エルナが、そっと微笑んだ。
「私たちがいる。子供の姿でも、大丈夫だよ」
ガルドも、無言で頷いた。
リュシアは、目を閉じて、心に誓った。
(私は、もう一人じゃない)
(仲間と共に、この世界を救う)
(たとえ、どんな代償があったとしても——)
朝日が、彼女たちの旅立ちを祝福するかのように、眩しく輝いていた。