第15話「追跡者との対決」
岩陰から戦いを見守るリュシアの心は、激しく揺れていた。
(何か……何かできるはずだ)
(私が、ただ隠れているだけなんて……!)
小さな体。
弱い力。
でも——頭脳だけは、失っていない。
リュシアは深く息を吸い込み、状況を冷静に分析し始めた。
(敵は七人。ガルドとエルナだけでは防ぎきれない)
(しかも、リーダー格の魔族は指示を出して連携を取っている……!)
ならば——
(リーダーを潰せば、隊列は崩れる!)
作戦は決まった。
問題は、どうやってリーダーに接近するか。
普通なら、気づかれて即座に排除されるだろう。
しかし今、リュシアは——子供の姿。
(小さい私なら、敵の視界をすり抜けられる)
(見落とされる確率が、飛躍的に高い!)
リュシアは、岩陰からそっと身を滑らせた。
誰にも気づかれないように、草むらを這いながら前進する。
小さな体、軽い足取り。
敵たちは、ガルドとエルナの方に集中しており、リュシアの存在など眼中にない。
(今だ……!)
リーダー格の背後へ回り込む。
心臓が高鳴る。
冷たい汗が首筋を流れる。
(距離、三メートル……二メートル……)
リーダーの腰には、小型の短剣が見えた。
あれなら、小さな力でも奪える!
リュシアは、地面を蹴った。
「っ——!」
跳びかかる。
手を伸ばし、リーダーの腰から短剣を抜き取った!
「何!?」
リーダーが驚き、振り向く。
だが、その一瞬の隙——
リュシアは、短剣を逆手に持ち替え、思いきり敵の太ももを突き刺した。
「ぐっ……!」
リーダーの膝が崩れる。
そこへ、すかさずガルドが駆け寄った。
「今だっ!」
鋭い突きを喰らわせ、リーダーを地面に叩き伏せた。
エルナの精霊魔法が、残った魔族たちを牽制する。
隊列が崩れた魔族たちは、統率を失い、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
***
リュシアは、地面に尻餅をついたまま、呼吸を整えていた。
小さな胸が上下し、全身から汗が噴き出す。
だが——
(やった……!)
(私にも、できた……!)
その時。
大きな手が、リュシアの頭を優しく撫でた。
「よくやったな」
ガルドだった。
その言葉に、リュシアは胸がいっぱいになった。
エルナも、駆け寄ってきて微笑んだ。
「すごかったよ、リュシア。あの隙を突けたのは、君だけだった」
リュシアは、少し照れくさそうに顔を背けた。
「当然だ。私は、七賢者だからな」
小さな声で、でも誇りを込めてそう呟いた。
***
追撃を警戒しつつ、三人はその場を離れた。
歩きながら、状況を整理する。
「なぜ、あの連中は私を狙った?」
リュシアの問いに、ガルドが答える。
「リミット解除。封印された力を発動したことで、敵に目をつけられたんだろう」
「……厄介だな」
エルナも口を挟む。
「精霊たちも、リュシアの力に強く反応していた。
あれは、ただの魔力じゃない。何か、もっと深いものが眠っている」
リュシアは、胸に手を当てた。
(封印された、私の力……)
(それを狙う者たちがいる……)
(なら、私は……もっと強くならなきゃ)
静かに、しかし確かな決意が胸に宿る。
「急ごう」
リュシアは言った。
「王都へ。魔導書院へ。
私自身の力を、取り戻すために」
ガルドも、エルナも、力強く頷いた。
そして三人は、夜の森を抜け、再び王都を目指して歩き出した。