第13話「子供の姿での困難」
朝食を終えた後、三人は村を発った。
目的地は、王都——アルカディア。
魔導書院の図書館なら、リミット解除と子供化の原因、
そして元に戻るための手掛かりがあるかもしれない。
だが——
「はぁ……はぁ……」
リュシアは、すぐに息を切らしていた。
王都までは丸一日の行程。
普段なら、軽く歩ける距離。
しかし、今のリュシアは違った。
子供の体は、思った以上に、貧弱だった。
「ちょ、ちょっと待って……」
小さな手で膝に手をつき、肩で息をする。
ガルドが振り返った。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫だ……休む必要なんか……」
口では強がるものの、足はもつれ、膝は震えている。
エルナが心配そうに声をかけた。
「少し休もう? 無理しないで」
リュシアは、悔しさで唇を噛んだ。
(これが……子供の体……)
(こんなにも、無力なのか……)
***
小休止を挟みながら、道を進む。
リュシアは歩きながら、改めて自分の装備を見下ろした。
大きすぎるブーツ。
ぶかぶかの服。
そして——
背負った剣が、重すぎる。
「ぅ……!」
バランスを崩し、前のめりに倒れそうになる。
慌ててガルドが手を伸ばした。
「危ない」
リュシアは、顔を真っ赤にして叫んだ。
「手を出すな! 自分でできる!」
ガルドは苦笑し、そっと手を引っ込めた。
(くそっ……)
(こんな、みっともない姿……誰にも見せたくないのに!)
子供の姿になったリュシアは、歩くだけで苦労する存在になっていた。
かつて、七賢者として、
堂々と歩いた誇り高い姿は、今や影も形もない。
その現実が、胸に突き刺さる。
***
昼下がり。
小さな休憩所兼食堂に立ち寄った三人。
リュシアは、意気込んでカウンターに向かった。
「ミートパイと、ビールを」
しかし、店主の女性はにっこり笑ってこう言った。
「お嬢ちゃん、子供にはお酒は出せないよ」
リュシアは絶句した。
「私は15歳だ! それも、元・七賢者だぞ!」
だが、女性は「はいはい」と受け流し、
代わりに、子供用の小さなジュースと、ミートパイを出してきた。
「お嬢ちゃん、よく食べて大きくなってね」
リュシアは、パイにかぶりつきながら、目の端に涙を浮かべた。
(これが……これが……私の現実なのか……)
(冗談じゃない……!)
***
食事を終え、また歩き始める。
途中、すれ違った旅人たちが、リュシアを見て微笑んだ。
「かわいい妹さんですね」
ガルドが苦笑して答える。
「まあ、そんなところだ」
リュシアは、怒りを必死に飲み込んだ。
(妹だと……!? 私は、護る側だったのに……)
子供扱いされる度に、心が軋んだ。
それでも。
エルナが、そっと囁いた。
「リュシア、気にしないで。小さな体でも、君の心は変わらない」
その言葉に、リュシアは、かすかに救われた気がした。
***
夜。
小さな町の宿に到着し、チェックインを済ませる。
リュシアは、疲れた体を引きずりながら、
ガルドとエルナと共にロビーに座った。
「酒を……くれ……」
力なく頼んだが、またしても断られた。
「子供には、絶対ダメ!」
リュシアは、テーブルに突っ伏して呻いた。
「もういやだ……」
ガルドが、苦笑しながら言った。
「悪いが、今の見た目じゃ無理だな」
エルナが、そっと付け加えた。
「でも、小さいからこそ、できることもあるよ」
リュシアは、顔を上げた。
「できること……?」
「例えば——」
エルナが微笑んだ。
「誰も、君が危険な存在だとは思わない。
敵も、警戒しないかもしれない。
子供の無邪気さを利用できるかもしれないよ」
リュシアは、目を見開いた。
(……なるほど)
(たしかに、小さいということは、劣っているだけじゃない)
(それを……強みにできるかもしれない)
小さな拳を握りしめた。
「見てろよ……」
リュシアは、小さな声で呟いた。
「この体でも、私は……絶対に、負けない!」
窓の外には、満天の星が輝いていた。