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封魔のリミットブレイカー〜天才魔導士、剣で世界を救う〜  作者: 暁えいと∞
第3章『リミット解除、そして…』
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第12話「目覚めと驚愕」

目を覚ました瞬間、リュシアは違和感を覚えた。


柔らかすぎるベッドの感触。

窓から差し込む、眩しい朝日。

どこか……体の重心が、いつもと違う。


(ここは……)


ぼんやりとした頭で周囲を見渡す。


見慣れた、村の宿「緑風亭」の一室だった。


壁は白く、木製の家具が並び、窓辺には可憐な花が飾られている。


洞窟での戦い——魔族の長との死闘、リミット解除——

あのときの記憶が、フラッシュバックのように蘇る。


(そうだ……あの時、私は……)


手を握ろうとして、リュシアはふと止まった。


自分の手が——小さい。


細く、幼い。


驚きに目を見開き、体を起こす。

だが、掛け布団が重く感じる。


服はブカブカで、袖が長すぎて手が隠れる。


(な……なに、これ……?)


ベッドから降りようとするが、床までの距離が異様に遠い。

足をついた瞬間、バランスを崩し、よろける。


「っ!」


リュシアは、慌てて洗面台の方へ駆け寄った。


水の張られた洗面器に、自分の顔を映す。


そこに映ったのは——


大きな翡翠色の瞳。


まだ幼さの残る頬。


肩までの柔らかい金髪。


明らかに、8〜9歳ほどの、子供の姿だった。


「…………」


一瞬、言葉を失った。


次の瞬間。


「きゃあああああああっ!!」


宿中に響き渡る叫び声。


ドタドタと駆け寄る足音。


扉が勢いよく開かれ、ガルドとエルナが飛び込んできた。


「リュシア、どうし——」


ガルドの声が止まる。


エルナも、目を丸くして立ち尽くした。


部屋の真ん中で、ブカブカの服をまとった小さな少女が、必死にわめいていた。


「これ、私!? なんで!? どうして!?」


リュシアの子供らしい甲高い声が、部屋に響く。


ガルドは、何度も瞬きをして、ようやく言った。


「リュ……リュシア、なのか?」


「当たり前だろ! 他に誰がいる!」


リュシアは怒鳴った。


だが、自分の声が、可愛らしい子供の声にしか聞こえないことに、さらにパニックになった。


エルナが、ゆっくりと近づく。


「リュシア……落ち着いて」


「落ち着けるわけないだろっ!!」


リュシアは走り回り、部屋の中の鏡を探した。


ようやく見つけた小さな鏡を手に取り、改めて自分の姿を見た。


小さな顔。

丸みを帯びた頬。

子供特有のふっくらとした手。


(間違いない……これ、私だ……!)


リュシアは、鏡を取り落としそうになりながら、叫んだ。


「何が起きたんだぁあああっ!!」


ガルドとエルナは、顔を見合わせた。


「……とにかく、落ち着け」


ガルドが低く言った。


「何か異常が起きたのは確かだ。だが、原因はきっとある」


エルナも、リュシアに優しく声をかけた。


「大丈夫。私たちが一緒にいるから」


リュシアは、震える手で鏡を置き、必死に呼吸を整えた。


(……そうだ)


(今、パニックになっても意味がない)


(まずは、状況を整理するんだ)


深呼吸を三回。


頭の中で、冷静に推論を組み立てる。


「考えろ、リュシア。最後に何をした?」


思い出す。


洞窟での激闘。

エルナを救うために発動した——リミット解除。


「リミット解除……あれが原因か……?」


エルナが、慎重に言った。


「精霊たちも言ってた。リュシアの力は、まだ完全には解放されていないって」


ガルドも頷く。


「つまり、力を無理に解放した反動……体を守るために、無意識に若返った、ってことか?」


リュシアは、額に手を当てた。


(……あり得る)


(あの時、確かに、体の限界を超える魔力を使った)


(もし、体を守るために強制的にリミットを解除した結果、子供に——)


ガルドが腕を組んだ。


「だが、これが一時的なものか、恒久的なものかはわからん」


その言葉に、リュシアの背筋が凍った。


(一生、このままだったら……?)


ぞわり、と背中に悪寒が走る。


その時、部屋の扉がノックされた。


「朝食をお持ちしましたよ〜」


宿の主人の明るい声。


ガルドがリュシアを振り返った。


「……どうする?」


リュシアは、ぐっと唇を噛んだ。


「隠れてるわけにはいかない……」


エルナが手早く、リュシアにブカブカの服を整えてやった。


扉が開き、宿の主人がにこやかに入ってくる。


そして、リュシアを見て、目をぱちぱちと瞬いた。


「おやおや? 新しいお嬢ちゃんかい?」


ガルドが、咄嗟に答える。


「ああ……親戚の子だ。少し事情があって、な」


主人は「ふうん」と軽く受け流した。


リュシアは、必死に主張した。


「私はリュシア・フェルディナンドだ!」


だが、主人は微笑みながら頭を撫でた。


「はいはい、かわいいお嬢ちゃんだねぇ」


リュシアは、真っ赤になって叫びたくなるのを必死にこらえた。


(ちくしょう……!)


(こんな屈辱、初めてだ!!)


それでも。


心の奥で、少しずつ、覚悟が芽生え始めていた。


(これが私の現実なら——)


(受け止めるしかない)


(必ず、元に戻ってみせる……それまでは、この小さな体でも、できることをする!)


リュシアは、小さな拳をぎゅっと握った。

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