秋桜
我らの生活もようやく慣れ、修氏とともにデイサービスの仕事もこなしている。もちろん小夜とともにである。女房が小夜の取り分について協議してくれた結果、小夜は一日カリカリ一袋の報酬で落ち着いた。これで我らは自ら稼ぐ猫になった。
今日はおしんさんが来る予定だ。小夜もそのことを知ってか、うれしそうだ。
しかし小夜にとってはわが身の振り方を決める大事な日である。
「おしんさん、どうですか体調は、すっかり元気になりましたか?」
「はい、おかげさまで。あの日は本当にお世話になりました。まさかあのようなことになるとは、つゆほども思いませんでした。あの日は夢うつつの中で、お釈迦様の姿を拝見しましたよ。」と冗談交じりに言う。
「それでは小夜ちゃんは、今日から家に返しますか?」
「いえ、小夜は誰かに引き取ってもらうつもりでした。私もこの年ですので小夜の寿命を考えると、最期まであの子の面倒をみられませんので、もう一緒には暮らせません。お互いにつらい思いをしますから。」と、ため息をついた。
「デイサービスでこの仔たちに会えるのなら、それで充分です。どうか猫君様、あの子をもらってやってください。」
我にはわかっていたが、修氏には初めて我と会話するおしんさんを見て、とても驚いていた。
周りとかかわりを持たず距離を開け、独り言を言い、どのようにかかわってよいかわからずにいたこの人と、猫が普通に会話をしているように見えた。
「おしんさん、猫君様にも飼い主がいますので、その方とも相談が必要ですし、今日のところは私が連れて帰りますけど、今後のことを考えておいてください。」
「あ~、どうしようか。さおちゃんとお義母様には了解は取れているけど、僕は飼い猫付きでお婿に行くのか。大丈夫かなぁ。」と、とても心配していた。
夕方、いつものようにさおちゃんを迎えに行く。猫君様と小夜は、とても仲が良くて、いつも何をするにも一緒にいて同じことをしている。
ホントこの仔たちを見ていると羨ましくなるぐらいだ。
「さおちゃん、お帰り」
「あら、今日もあの仔たちは一緒なの。」
「キミ、小夜ちゃん、ただいま!」と、明るく挨拶をしている。
「実はさ、小夜ちゃんのことで相談があって。小夜ちゃんの飼い主のおばあさんが退院して、今日からデイサービスに来られるようになったのだけど。」
「うん、よかったじゃない、それで?」
「小夜ちゃんをうちで面倒見てもらえないかって。」
「まぁ、私もそうなったほうがいいかなって思っていたけど、母さんにも話をしてみようか。」
「そうだね、一緒に話をしよう。」
「さて猫のキミは、どうしたいのかな?」とキミのほうを見て、
「あ、聞かなくてもわかるか。」といい、にっこりと笑った。
もう、修君てばすごく真剣な顔をして言うから、何事かと思ったじゃない。でもそうよね、猫付きでお婿なんて、気にしちゃうよね。
「ただいま、母さん。少し相談があるのだけど。」
「お帰り、ついに結婚の相談かしら?」
私は小さく首を振り、
「修君も一緒に話がしたいの。キミと小夜ちゃんも。」
「あら、一家そろって何事かしら。」
母さんにはだいたいの事情はわかっているのだろうな。
「あのね、小夜ちゃんのおばあちゃんが……。」と言いかけると、
「そういうことは出しゃばっちゃダメなのよ、修ちゃんから話を聞きたいわ。」
「そうね、婿殿からどうぞ。」そう言って修君に話をするように促した。
「今日から小夜のおばあちゃんが、デイサービスに通えるようになって、久しぶりにこの仔たちも再会できてよかったのですが、おしんさんから小夜をうちで飼ってもらえないかと相談がありました。」
「それで、修ちゃんはどうしたいの?」
「僕はこのままみんなで暮らしていきたいと思っています。だから、小夜をうちで面倒をみようかと思っています。」
「修ちゃん、この仔たちは自分でご飯を稼いでいるでしょ、それなら問題はないのよ。この家に猫の仔が増えようが、お婿さんが一人増えようが、全く問題ないのよ。」
私も修君もほっとして胸をなでおろした。
「ここで一緒に暮らす家族なのよ、私たちは。自分がどうしたいか遠慮して言えないのは、家族とは言えないわね。まだその覚悟がないのかしら。」
「いえ、そんなことはありません。僕はこのままお義母様も一緒に楽しく暮らしたいと願っています。」
「ねぇキミ、小夜ちゃんはあなたのお嫁さんになるのだから、しっかり面倒を見るのよ。」
母さんはキミにも一言申したかったみたいだね。でも、キミにはもうその覚悟ができていたみたいだよ。すごく立派に見える。
「高齢者とペットの問題は、ずっと言われてきているんだ。おしんさんも最初からそのつもりだったんだよね。」と修君が言う。
「自分の寿命とペットの余生を考えると、引き取り手がいないのは、とても心配なことなのね。命と向き合うのは、それなりの覚悟がいるのよね。」
私はしみじみと思った。仔猫のころからキミとは付き合っているけど、もしも私と別れたら、君はどうするのだろうか。ここで母さんと修君と一緒に暮らし続けているのだろうか。
「やっぱり、家族っていいね。」
修君、わかっているの、みんなあなたのことが大好きなんだよ。
新しき 家人の声の 温かさ 灯のごと 笑みを照らさん
修氏と女房がつくる家庭が、ここに集う皆にとって安寧の宿にならんことを




