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貴方に愛されて幸せ
あの人は二週間に一度、必ずお店に顔を出していた。私のことを「青田さん」と呼んでくれるのに、私はいつも「お客さん」と呼ぶことしかできなかった。名前を知らないから。
いつか名前を呼んでみたい。そう思っていたとき、あの人が自分から名乗った。「私は菊田です」と。水に流れる洗剤のように、さらっとした感じで。
菊田さん。私がそう呟くと菊田さんは「はい」と優しく微笑む。
「今日はどのようなお花を?」
「アザレアの花を」
「アザレアは時期が―」
「知ってますよ」
「ですよね・・・」
そうして会話が途切れた。と思ったとき、いきなり菊田さんが「私は貴方のことをアザレアの花にたとえています」と言ってきた。「アザレア、ですか?」と聞き返すと、「はい」と頷く。状況が読めない。
菊田さんは笑いながらも急に真剣な顔で、
「青田さん、私は貴方に愛されて幸せです」
と伝えてきた。眼下に真っ白なアザレアの世界が広がった。




