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新約昔語  作者: 笑顔 あかり
星座を零れ落ちる星
2/2

姉弟喧嘩そして仲直り

「ただいま」


巽は家の戸を開ける


「おかえり。...どこに行っていたの?」


夏海が問う。


「巴のところに行ってた」


「そう...」


夏海は、複雑な声色で答え、2人の間には気まずい雰囲気が漂う。


巽は観念したように話し出す。


「姉さん。俺、巴と結婚しようと思う。こればっかりは、譲れな...」


夏海の顔はみるみるうちに赤く染めあがり、強い口調でまくしたてる。


「あんたっ、それ本気で言ってんの⁉今回ばっかはダメ!」


「ダメッ!ダメッ!ダメッ!!!」


凄まじい夏海の剣幕に、少しばかりの巽の反骨精神はしぼんでしまう。


「姉さん!少し落ち着いて!」


「落ち着いていられますか!あんなに、あんなに言ったのに!」


ついに夏海は泣き出してしまう。


「う、うぅ...」


「姉さん。どうして、そんなに反対するんだ?その理由を教えてくれよ。巴はとてもいい人だ。優しいし、周りに気配りもできる。何がそんなに気に食わないんだ?」


巽は泣いている夏海の目を見据えた。


「あんたも分かってるでしょ...親もいない、肌とか髪の毛の色さえ違う...そんなんでいて、友達もあんたしかいない。そんな娘と一緒になるなんて、みんなに知られたら...あなたも、わたしも...」


夏海はこれ以上のことは言葉にしない、言葉にできないのだ。


「俺は姉さんが巴を嫌いなのかを知りたい」


「だからっ、みんなに知られたら...」


「姉さん自身が嫌いなのかどうか知りたいんだ」


「私は、どうも思わないのよ。ただ、みんなが嫌いだから嫌いなの...みんなが避けるから避けたいの...」


「そう...」


巽は何も言わず、自分の部屋に行った。そこから一言も家族とは話さなかった。




翌日、授業が終わった後、巽はいつものように巴に会いに行った。そこは村を囲む林を10分ほど歩いたところ。ちょっとした二人だけの、秘密基地であり、二人は作った切り株の椅子と机にもたれながら話し出す。


「どうしたの?巽。表情が暗いわよ。何かあった?」


「いやちょっと、姉さんとけんかしちゃってね。どうしたら仲直りできるか考えてるんだ。」


「あら、それは困ったわね。早く仲直りしなくっちゃ」


巽の眉間にしわが寄って、肩を怒らせながらいう。羽織ったじんべえのポケットに入れていた鉄筆を握りしめる。


「無理さ。姉さんが何に対して怒っておるかはわかってるんだけど、なんでそのことで怒ってるかの訳をきいても、ちっとも理解できない理由を言い出すんだ。支離滅裂で理屈なんかまったくない。嫌だから嫌だと言われているようなもので、どうしていいか分からない。譲歩のしようもないよ。」


巽は少し肩を落とし、小さなため息をついた。


「姉さんに何言ってもだめさ。分かり合えないんだ。どうしても。」


「そんなこと言っちゃだめよ。家族なんだから。巽は考え過ぎよ!頭がいいのに頭が固いんだから!」


巴は巽に笑ってこういう。


(あぁ、俺はこの笑顔にやられちゃったんだった)


それは巽よりももっと深く、それでいて、最も透明で澄んだ笑顔だ。


「それよりみて!この松ぼっくり!大きくて、欠けてなくてきれいだわ!」


巴は机から乗り出し、巽の顔を覗き込む。きらりと乱反射する巴の大きな灰色の目は、宝石のようだ。


「私、松の木の歌を作ったの。聞いて!」


松さん松さん松さんは、大きく育って子だくさん。坊ちゃん坊ちゃん坊ちゃんは、早く大人になりたいの


(なんだあ、それ。歌もへたくそだ)


それでも、巽は暖かい気持ちになる。頑張ろうと感じなくなる。もう可笑しくて仕方がない。


「あはははは!変な歌だなあ。きっと松ぼっくりも怒ってるよ。喧嘩しないようにね!」


「なによ!そんなことないわ!絶対喜んでる!感激しすぎて声もでてない!」


2人はもう大喜びだ。二人だけの時間、二人だけのうたで、彼らは喜びを十分分かち合った。




「おはよう母さん」


「あら巽。今日はずいぶんと早起きじゃない。」


「まあね」


「丁度よかった。お母さん外の薪を取ってくるから、お鍋を見ててちょうだい。もうそろそろ夏海も起きてくると思うから、それまでよろしくね」


巽に鍋の番を頼み、琴は外にでていった。それから、しばらくせずに夏海がおきてきた。


「おはよー。あれ、巽?てっきりお母さんかと思ったわ。」


「うん。今日は早く起きちゃって」


巽は振り返らず、みそ汁をまぜながら答える。


「そ…」


「姉さん」


「…何?」


「お米どれくらい食べる?今日はよそってあげる。」


夏海はふっと笑い、機嫌がよさそうにこたえる


「そうねえ、お茶碗半分くらいでいいわ。あんまり朝は食べられないの。」


「それと、昨日は悪かったわね。あんなに怒鳴ったりして。」


「…」


「ちょっと!聞いてる?せっかく私があやまってんのに、無視しないでよ」


「姉さん。これ…どうしよう」


焦った顔で巽は振り返る。鍋の味噌汁が今にも吹きこぼれそうになっている。


「ちょっと!かして!全く…全然かっこつかないわね」


夏海は呆れた様子で巽からお玉を取り上げる。しかし、その顔は少し嬉しそうだ。


「巽はお父さんを起こしてきてあげて、あとは私がやっとくわ」


巽は孝蔵の部屋に向かう。その足取りはすこし柔らかいように見えた。


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