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エピローグ

 その日、極東の島国-日本の東京、新宿の一角で発出した爆発的な高度エネルギーはまたたくまに日本を飲み込んだ。

 日本の原発十六基の核燃料が次々と、燃料棒と冷却水では制御できない核分裂を起こし始めた。やがて全ての原発でメルトダウンが始まったのだ。

 高濃度の放射線が地上に出現し、北海道は一基だったためまだ道民は生き残ったが、もはや、津軽海峡を渡る人間は途絶えた。

 東北も、ほぼ全滅。人の住める地域は壊滅。北陸は新潟、石川の原発が暴走。特に能登は逃げるところが海だけなので、壊滅状態だった。また原発銀座と言われた福井は、もはや人の住める土地ではなくなった。

 関東は栃木、群馬、山梨に原発が無いので、比較的逃げることができる人は存在した。ただし、放射線の影響は免れなかった。震源地の東京はもはや消滅、太平洋に接した神奈川、静岡は破滅。

 愛知も多大な影響。関西は一基の原発爆発で人々は西に逃げたが、やはり中国地方の原発で行く手をふさがれた。西に進む人々と東に進む人々が絶望的に衝突した。

 四国は一基の原発爆発で四方を海に囲まれ、逃げようがない。必死で海を越えても、中国地方はもはや地獄。

 九州も二基の原発が、放射線の雨を降らせた。黒い雨だった。

 生き残ったのは沖縄諸島のみ――皮肉にも、在日米軍の撤退で「基地のない島」となったが、その静けさは、すぐに押し寄せる本土難民によって破られる。ここに沖縄在住民と日本難民との間に憎悪の応酬が始まる。

 この高度エネルギーは朝鮮半島、中国、ユーラシア大陸に広がり、かつ世界に一万発と言われる核兵器が次々と爆発したのだ。高エネルギーに襲われた原発の暴走と核兵器の爆発で、もはや北半球は人の住める状況には無かった。故に生き残った人々は南半球に向かって移動するほか無かった。だがアフリカ諸国、オセアニア大陸に難民と化した移民を全部受け入れることは不可能だった。

 特に南アメリカ諸国は、今まで外国人排斥を歌っていたアメリカ人を、到底すんなり受け入れることはできなかった。今まで移民を蔑んできたアメリカ人をラテンアメリカ諸国の人々は怨念を抱いていた。立場が逆転した南アメリカ諸国の人々とアメリカ難民との絶望的な暴力の応酬が始まった。

 まさに黙示録的な終末が勃発していたのだ。だが、文明は滅んだが、なお数十億の人間は生存していた。

 

そして、終末の日から三千年後。以前には中東のナザレと呼ばれた地に、一人の長い髪の青年が真白の長い服を着てごつごつとした岩に腰掛けていた。

 すると袈裟衣を纏い、錫杖をもって、剃り上げた髪が美しく光っている青年が砂塵の中から静かに近づいて来た。

 錫杖を持った人が、長い髪の人に声を掛けた。

「その様子だと、イエス、君は悪魔の三つの誘惑を乗り越えたみたいだね」

 長い髪の人は答えた。

「ああ、そうだよ、仏陀、西方の人よ」

「三つの誘惑を教えてくれるかい」と仏陀はイエスに尋ねた。

「ああ、いいよ。一つはパンに変える誘惑だ。悪魔は言った。「この石をパンに変えよ」

 僕は「人はパンのみで生きるのでは無い。神の口から出る一つ一つの言葉による」と答えたよ。

 二つ目は悪魔がこう言った。「もし神の子なら、この神殿の頂から飛び降りてみよ。天使が守ってくれるだろう」

 僕は答えたよ。「主なる神を試みてはならない」

 三つめは、この世のすべての栄華と名誉を与えようと悪魔は言ったから、僕は「主なる神のみを拝み、仕える。と答えたよ」

 またイエスは仏陀に聞いた。

「仏陀よ、君なら、この三つにどう答える?一つ目のこの石をパンに変えよと悪魔が言ったら、どうする?」

 仏陀は答えた「石もパンも同じだ」

 イエスは聞いた。

「何故そう言える?」

「石もパンも実体をもたない、そう意味で同じだ」

 イエスまた聞いた。

「じゃ君は神殿の頂からとべるかい?」

「ああ、飛んでもいい」と仏陀は答える。

「本当に飛ぶ、死ぬかもしれないよ」

「それは飛んでみないと分からない。飛ぶことが死に直結するということは無数の可能性のひとつにすぎない」

「では最後に聞こう。君に、この世の栄華と名誉をあげよう、といったら、どうする」とキリストが問う。仏陀は静かに答えた。

「栄華、名誉、それはこの世界で一番貧しいものだ」

 イエスは微笑んだ。

「まったく君らしい」

 仏陀は空を見上げて言った。

「もう世界は躍動を始めたんだね。イエスの君が居るということは、また人類史が始まったということだね?」

 イエスは答えた。

「ああそうらしい」

 仏陀がさらに問う。

「人類は、今度はうまくいくと思うかね?」

 イエスはちょっと首を傾げて言った。

「まあ、そうあって欲しいね。僕も十字架に架かることは嫌だからね」

 仏陀はハハと笑って言った。

「まったくだ。この始原の世界が、あいも変わらず破滅では芸がない」

 するとイエスは言った。

「この世界は多元世界の始原だと、速く人間が気が付いてくれたら良いのだが」

「そうだね」と仏陀は言った。

「では、僕は、さらに西に行くよ」と仏陀が言うと、

「じゃお別れだね」

「ああ」仏陀はイエスに背を向けた。

「仏陀、君の名は?」とイエスが聞いた。

「僕はシン、君は?」

「僕はリョウだよ」とイエスは答えた。

 仏陀はニコリ笑って、砂塵の中に消えた。



ここまで最後まで読んでくれた方には感謝いたします。あしかけ三年かかって、書いた物語を読んでくださった方に感謝、感謝です。もしよければ、エピローグまで読んでくれた人に、この新宿ドリームステージ~夢は現出する、リアルこそ夢~の感想を戴けると嬉しいかぎりです。それでは、また新しい物語でお会いしましょう(狼の山荘もよろしく)

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