風林城制圧作戦Ⅲ
午前零時半、自衛隊の風林城制圧主力部隊約250名は静かに、そして一切明かりを点けず、花園神社を出発した。と同時に、新宿東宝部隊、プリンスホテル部隊も動いたはずだ。
景子はマックスそして五名の自衛官とともに最前線に居た。
景子は佐伯に言った。
「じゃ行きます」
佐伯は答えた。
「おう、よろしくな」
景子たちが行こうとすると佐伯が声を掛けた。
「先生」
「はい?」
「死ぬなよ」
景子は笑って答えた。
「もう先生じゃないけど、分かった」
景子たち七人は、一様に黒い戦闘服に黒いヘルメットを被っていた。 そして、先頭をマックスが務めていた。
マックスは風林会館の傍の花道通りに隣接するアオイという小さいビルに入って行った。アオイの中は予想通り無茶苦茶だ。
一階は小さな会社のオフィスだったのだろう。横倒しになったコピー機、机、椅子、窓は無残に壊れている。
「さーて、地下はどうなっているかな?」とマックスが薄暗い廊下を歩き、黒い金属製のドアの前に立った。
「ここだよ。さーて開くかな」
ドドーンと派手な音を立てて、マックスが黒い扉を蹴っ飛ばす。すると黒いドアがゆっくりと向こう側に倒れていく。
ドアの向こうは暗い通路だった。
七人は灰色の壁と黒い道の空間を歩き始めた。どうやら空間は緩く下って行く坂道のようだ。
どのくらい時間が経ったか、前方に光が見えた。
「あそこ?」と景子が聞くと、
「そうだよ」とマックスが答える。
その部屋は割と小さい部屋だった。床は白い半円形で壁が漆黒。七人が入ると、ちょっとキツい。
「狭いわね」景子。
「仕方ないよ、本来は一人用なんだから」とマックス。
そしてマックスは壁にある一つのボタンを押した。すると床が微かに揺れ、上に上がり始めた。そして見上げれば、ドームの屋根のように天井が割れて、七人を空間に押し上げていく。
「ほーこうなってたのね」と景子が見回す。
「まあね」とマックス。
そこは直径五十メートルくらいの赤土の砂場、そして紅いフェンスの向こうは観客席だ。すなわち地下格闘技場。だが、ライトは無く薄暗い。
「おい、とっとと始めてくれ」とマックスが呼びかける。
無言で五人の自衛隊員が懐中電灯を点け一か所に二人が一か所に三人と別々の場所のフェンス傍に行き、背中でしょっているリュックサックを下ろすと、なにやら作業を始めた。
マックスと景子は黙って、その作業を見ていた。
「うまくいくと良いわね」と景子。
「まったくだ」とマックス。その時、
じゃーんと派手な効果音が鳴ったわけではない。だが、高らかな声が挙った。
「自衛隊も間抜けだな。この地下格闘技場など、最初から知っている。お前らが何をしようとしているのかも僕は知っている」
来た!
地下の天井(?)が光り輝いた。なんと天井が輝きわたり、まるでカトリックの教会の天井のように虹色に彩られたようだ
そして極彩色の空間から、人影が飛び出た。
「だんだん出現が派手になるわね」と景子。
ふわり地に足を落としたリョウは切れ長の瞳を光らせ、
「なんとまあ、地下に爆弾などと陳腐きわまる行動だな」
「あんたねえ、ほんとに嫌な奴」と景子。
「まあ、地味に現れたら気が付かないかも」とマックス。
その時、一人の自衛隊員が立ち上がった。ゆっくりと黒いヘルメットを取り、顔をリョウに向けて、すっくと立った。
リョウが笑みを絶やさず言った。
「ふーん、そういうことか」
自衛官の恰好をしていたのは実はシンだった。
「ばれるかと思ったが、やはりリョウ、お前も人間だな。おごれるものは久しからずだ」
リョウはちょっと苦い顔になった。おっとこれは驚きだ。にやついている顔しか見たことがない。やはりリョウもまた人間か。
「それで、シン、君の狙いは何だ」
するとシンは迷彩服の上着を脱ぎ、裸の上半身を晒した。その半身は白く、多分贅肉や余分な筋肉が一切ないように見える。まさに彫刻のような痩身だった。
「男の裸は興味ない」とリョウ。まあそうだろうが、こいつが言うと憎たらしい。
シンは平然と言った。まあこいつも苦手だが。
「リョウ、僕たちの能力は同等だ。それは認めるか?」
リョウはまた何をと言う顔をした。
「当たり前のことを当たり前の顔をして言うな。皮肉に聞こえる」
「それは君が皮肉という皮でつくられてるからだ」
「もういい、本題を言え」
シンが初めて笑った。
「ならば言う。ここは原始的に行こう。肉体勝負だ」
「なんとまあ、こいつは面白い」
「どうだ受けるか」
リョウは軽く頷いた。
「承知」
次の瞬間、シンが飛んだ。
右足がまっすぐ、リョウの顔面に飛んでいく。
「ちいいいいいいい!!」シンの気合が響く。
シンの右足がリョウの顔面を捕らえたと、思われた瞬間、リョウは大きく仰け反り、そのまま後方宙返りで逃げた。
「スーツを脱ぐまで待て」とリョウ。
「早くしろ」とシン。
リョウは上着を脱ぐと、次の瞬間、その上着をシンに向けて投げた。ふわり宙に浮く黒の上着。
「シン! 上だ」とマックスが叫ぶ。
宙に舞ったリョウの右足がシンの頭に飛ぶ、シンの頭上に蹴りが当たった、と思われたとき、シンは鋭い後方回転でかわす。
すっくと地に立った二人が、改めて相対する。両者の間にピーンと緊張の糸が見えるようである。




