風林城制圧作戦Ⅱ
バイクの轟音と共に鳴り響いたのは、ドカン! という爆裂音だった。
黒バイクの爆音が近づくにつれて荷台に乗った男たちが、ダイナマイトを放り投げているにちがいない。こいつは新しい戦法だな。
シンと自衛隊数名が作り上げたトラックと自動車のバリケードに取りついた自衛隊員の頭上を火の点いたダイナマイトが飛んで行く。そして凄まじい爆裂音。
「総員、散開、ダイナマイトに備えよ!」と佐伯の怒号!
だが、次の瞬間、一台のバイクがバリケードを乗り越えてきた。そして、ダイナマイトが宙に投げられる。
参道の石畳が木っ端みじんに砕け、白い煙が上がる。
「おりゃあああああああ」と奇声を挙げ、次々に神社に乗り入れる黒バイク。
そちこちで噴き上げる石片と黒い煙。
自衛隊も負けてはいない。乗り上げてくる黒バイクに向けてマシンガンを放つ。だが奇襲に成功したのは確かに黒バイクだ。
「シン、雅!」と夏生が叫び、鬼切丸を抜いた。
雅がひと飛びで、バリケードの上に乗ると、突進してきた黒バイクの運転者に右回し蹴りを放つ。荒くれの顔面にヒットした蹴りは、不幸な荒くれと、お供の荷台の同じく荒くれが宙を飛び、火のないダイナマイトが転がる。
シンが超高速で、境内を暴れまわるバイクの後輪に蹴りを入れて次々と横転させる。そこに自衛官が集中砲火。
夏生が境内の樹木の間を素早く飛び、投げられたダイナマイトを切り飛ばす。真っ二つになったダイナマイトは虚しく宙で僅かなエネルギーを放出するのみである。
三人が動くと同時に景子が、
「マックス、ロープを捜して」
マックスは、
「ロープ?」
「いいから探して、あったら裏門に行く」
「分かったよ」
「じゃ探して」
景子は、自衛隊と黒バイクが錯綜する境内を走り回り、ロープを捜したが、無い! クソ!(失礼)
するとマックスがよく見かける道路に使う黄色と黒に塗られたロープを持ってきた。
「先生、これで良いかい?」
「マックス、グッドジョブ。裏門に行くわよ」
「へ?」
「だから黒バイクは裏門に来るはずよ」
「だから、ロープか!」
「そういうこと」
「承知」
二人は裏門に向かって石段を駆け上がった。
そして、二人は裏門の外に出て、左右に分かれて身を潜めた。
ドドドドドドドドドと轟音を上げてバイクが走ってきた。
「せーの」と景子が声を掛ける。景子とマックスがロープを裏門の左右にピンと張った。いきおいバイクはロープに前を阻まれ、どうと横倒しに転倒する荒くれ二人、すかさずマックスがひとりの首に腕を回しチョークスリーパー、景子が肘打ちを残りの一人の顔面に炸裂させる。
二人が気を失ったのを見届けると、二人の手の親指どうしを二人の靴の紐で縛り上げる。これで動けない。
だが、次に現れたのは二台のバイク。こいつはヤバイ。景子は腰からグロッグを出すと、二台のバイクのタイヤを狙った。バン、パンとグロッグ17から発射される9×19mmパラペラム弾。
弾丸はバイクの前車輪に命中し、どうと倒れるバイク二台。
すかさずマックスが倒れた四人の頭に蹴りとパンチ。だが一人を倒せなかった。そいつが拳銃を出しマックスを狙う。
パン! と発射音がした。景子は思わず目を瞑った。
「グエ!」と嫌な声がした。景子はおそるおそる目を開くと、どうと倒れた荒くれ、そして一人の自衛官が拳銃を構えていた。
「関さん」
「お怪我は?」と関
「マックス、怪我はない?」
「ないぜ」
関一等陸曹は改めて周囲を見回した。
「黒バイクも無茶をする」
見渡せば灯篭が砕け石塊がそちこちで転がり、石畳は無残に割られ、血痕が染みている。
ざっと五十人くらいの犠牲者が出たようだ。もう慣れた。
「状況を報告できるか?」と佐伯が声を掛けると、一人の自衛官が来て、敬礼をした。
「自衛官約五名死亡、十名前後が負傷、黒バイクが約二十名は負傷」
「そうか五名がやられたか」
景子はそう呟いた佐伯の顔に苦渋が滲んでいるのが見て取れた。本丸の風林城制圧にはもっと多くの犠牲が出るだろう。これが戦争。
大江戸線東新宿方面から続々と増援部隊が花園神社に集まってくる。東宝シネマ部隊、プリンスホテル部隊と合わせれば、二百人くらいになろう。総指揮は佐伯一等陸曹、本来ならもっと階級が上の人間がなるところだが、今状況を一番把握しているのは佐伯だ。
景子に佐伯は言った。
「人間を相手には自衛隊が当たる。が、そうでないものはあんた達に頼むほかない」
時任瞳は必ず現れる。そしてリョウ、美奈月優馬。
景子は夜の空を見上げた。
「今晩は満月か」
常より大きく見える満月が煌々と光っていた。
景子は呟いた。
「天気晴朗なれど、地の闇深し」




