風林城制圧Ⅰ
「では、風林城の地下に、そんな施設があるのか?」と問うたのは、田上一等陸曹。場所は花園神社。
景子は頷いた。
「はい、ねえマックス」
「本当だ、地下格闘技場がある。本当だよ。おいらはそこの闘士だったんだから」
田上はほうと目を見張った。
「なるほど、あんたの身体能力の高さは、そういうことだったんだな」
「そうだよ」
「広さはどれくらい?」
「観客席は千人、闘技場は直径50メートル」
「ふむ、広いな」
田上は少し考えていた。この情報をどう考えるかだな。
その時、
「リョウがそれを知らない訳がない」とシンが言った。
「リョウ?」と田上が聞く。
「敵の親玉です」
「そうか…」
「これを前提として、僕の考えを言ってもいいですか」
「何か作戦でもあるのか?」
「はい」とシンは笑い「マックスに聞きたいことがある」
「ハ? おいら?」
「そうだ」とシンは笑った。
花園神社は今、境内に複数のテントが張られ、多くの自衛隊員が、それぞれの役割で動いている。その数は百名を超えている。ここが風林城攻撃の前線基地となっている。そしてよーく見ると一般人がマシンガンを持って行き交っている。聞けばゴールデン街の飲み屋の有志らしい。ジャッキー末次は歌舞伎町コミューンとこの地を名付けたが、コミューンとはゴールデン街のような地域がふさわしいと景子は思うが、どうだろう。とにかく市民どうしが銃を向け合う非常事態になった。
「あなた、T大の先生なんですって?」と声が背にかかったので
景子が振り返ると。中年の自衛官が立っていた。
「ええ、まあ」と景子は答えた。こういう身分を聞く人はだいたい二つに分かれる。つまり大したもんだ女なのに、か、女のくせにT大かよ、かである。さてこの人はどっちだろう。
「私は佐伯一等陸曹と申します」
「はい」
「もしかして先生はマサという人物を知っていますか?」
「え! ええ知ってはいますが…」
「いやね、マサには大いに助けられたんですが、てっきり歌舞伎町にいると思っていたんですが、さっぱり見かけない、何かご存じか思いましてね」
ふーんマサが歌舞伎町にいたのか。これは雅が歌舞伎町にいた理由が分かった。
「マサは何か、自分のことを話していましたか?」
佐伯は首を横に振った。
「いや、そんなに一緒に居たわけでは無いのでね。夕方になって別れたんですが、何か夜を待っている感じだったですわ」
まあ、自衛隊の前で変身して雅の姿を見せたくなかったのは、分かる。多分自衛隊でなくても、大変驚くだろう。
「マサは私の貴重なアドバイザーなんですよ」
「はあ、アドバイザーね、まあ、そんなふうには見えませんでしたが、あいつは……どこかで、人知を超えた奴のような気がしましてね、妙に気になる存在だったですわ」
だろうな、私でさえ信じられないのだから、だが妙に愛嬌があってすんなり言葉が耳に入りやすい男であることは間違いない。
「まあ、先生が会ったら佐伯が気にしていたと伝えてください。もう二度と会えないかもしれませんから」と言って、佐伯は去った。
二度と会えないかもと自衛官が言っているのは重い、すなわち今晩が決戦の時だからに違いない。
「先生いよいよ風林城に乗り込むぜ。来る?」
景子は黙って頷いた。
見上げれば、暗雲が立ち込めて、前方は見にくい、が、雅やシンには好都合だろうが、月が隠れているのは何となく不安だ。
人間は暗い空を見て、不吉に思い。晴れて、月光が空を照らしていると、何となくほっとする。
見れば花園神社に多くの重装備の自衛隊員が集まり、なにやら緊張の糸がピーンと張って、ひりひりする。自衛隊員も同じ日本人を撃つ日が来るとは思っていなかったろう。市街戦が始まるのだ。
すると一名の自衛隊員が階段を上がり、神社拝殿の正面に立ち、鈴緒を鳴らさず、じっと前に手合わせて、祈りをささげている。確か花園神社は稲荷神社であり、闘いの類のお守りではない。ないがこの自衛官は祈りを捧げざるを得ない心境に立ったのであろう。そこあるは確かに死線の黙とうであろう。
すると、鳥居の向こう側に低く唸りが聞こえてきた。そして、それは徐々に大きく、はっきり聞こえてきた。
ドドドドドドドドドドドドド!! バイクだ。黒バイクか!
「総員、戦闘準備!」
佐伯の怒号が境内に鳴り響いた。
短い話ではありますが、いよいよ最終決戦です。




