東宝シネマを制圧せよⅡ
宙で分かれた夏生とシンが、地に降りた瞬間、取り巻きの荒くれを鬼切丸と拳と蹴りで倒す。サブはマックスが裸締めで落とした。すると夏生が懐から手裏剣を取り出し、ジェーンに放った。
手裏剣はまっすぐジェーンに向かって行く。景子はいったん刻がとまったように思った、が次の瞬間目を瞠った。
手裏剣がジェーンの体をすり抜けたのだ。ジェーンの体がまるでホログラムのように透明な身体になった。これは?
「リョウ! 出てこい! お前が居るのは分かっている」とシンが叫んだ。
すると白色だったスクリーンが虹色に輝いた。そしてスクリーンに極彩色の人間が映し出された。それはまさにリョウ。そしてジェーンは消えた。
「あんた、また派手な登場ね」と夏生。
リョウが虹色の口に笑みを湛え
「スターの登場は鮮やかなものだ」と言った。ハ! 今度はスターになった。お前は宝塚か。
スクリーンの極彩色がホール全体に広がった。そして、超スピードでリョウが飛び出し、夏生に向かって手裏剣を放った。手裏剣返し! なんとまあ、人を食った奴。
夏生が飛んでくる手裏剣を右手で捕まえた。
「ふん、返してくれるとは、まあ律儀な事」
「僕は借りたものは返す主義なんですよ」
「それで、あんた何で女に化けてたの」
「化けたわけではないのです」
「どういうこと」
「人はいろいろな人になれる。そのことは高原準教授がよーく知ってることです」
こいつ、多重人格を弄んでる。急に怒りがこみ上げた景子はグロッグをリョウに向かって放った。もちろん当たらなかったが。
「おやおや研究者が対象に向かって感情的になってはならないのでは」
「景子、こいつの挑発に乗っちゃだめ。腹立つだけだから」と夏生が諫める。分かっているが、とことん嫌な奴。
「リョウ!」とシンが叫んだ同時に、右手を突き出して光線を発した。まったく何でもありだ。
リョウは光線を軽く避けると、
「何の遊びだ。シン、僕に近づくと、また地震だぞ。分かっているのかい」
シンは言い返した。
「そうかな。僕は君と僕はプラス、マイナスだと思っている。君が磁気を帯びていることはオーロラの出現で明らかだ」
リョウはフフと笑みを湛えた。
「ならば、これは仮説だが、あの時僕とシンの間に磁気が生じ、何らかの力でねじれてエネルギーを爆発させた、のかもしれない」
「何の力よ?」と夏生が聞いた。
「少しは頭を使ってください、夏生さんが僕らに割って入ったでしょ」
夏生が目を瞠った。
「あたしのせい、ということ?」
シンが割って入った。
「夏生さん、ただの仮説だ。リョウは混乱させたいだけだ」
景子もそう思う、にしても、リョウほんとに無理!
夏生が動いた。鬼切丸を床に突き立て、その鍔に片足を乗せて宙に舞う。そして、天井に張り付くと、リョウに向かって、急降下、夏生の手には手裏剣が握られている。それに呼応するように鬼切丸が床を離れリョウに向かって行く。
「シン!」と夏生が叫ぶ。
シンもすばやく動く。鬼切丸、夏生、シンがリョウに迫る。
手裏剣が最初にリョウの体に届いた、が、すれすれにリョウが身体を反って避ける。瞬時にシンの蹴りと真上の夏生の手裏剣がリョウを襲う。
だが、その時、場内のドアをバン! と派手に壊して一台の黒バイクが飛び込んできた。そして、ぶるるるるるる!!!!と三人に向かって迫る。
するとリョウはジャンプ一番バイクの荷台にまたがった。そしてバイクは高速でスクリーン室から出て行く。
「チッ」とマックスが唸る。
「みんな出るわよ。景子はマシンガン取って撃ちまくって!」と夏生。景子はのびているサブのマシンガンを取ると、ダダダダダダダダダダダダ!!!!と撃ちまくる。
「おっしゃ、行くぞ!!!」とマックスが吠える。
五人が劇場廊下に出ると、複数の扉が開き次々と荒くれ軍団が出てきた。その数約三十名位か、案外少なかったな。
「走れ!」と景子が叫びマシンガンを打ち鳴らす。五人が劇場ロビーに向かうと、まあ待っていたみたいに迷彩服の自衛隊員が現れた。その数五十名。まあ計画通りだが、こんなに見事にはまるとは思わなかった。こんな都合の良い映画があったら絶対ヒットしないだろう。にしても自衛隊が五十人も来るとは思わなかった。敵の勢力が分からないときは、現有の最大を持って当たる、か。
自衛隊を見た荒くれは進軍を止めて、もと居た部屋に戻る。もう袋の鼠だが、ここは白旗を上げてほしい。が、ここは簡単に行かないだろう。
「先生」と声が掛かった。まったく仕事の速い部下を持つとありがたい。
「雅、リョウは見た?」と景子が聞く。
「いいえ」
「チッ、逃がしたか」
「リョウがいたんですか?」
「ああ、あの美少年、何考えてんだか、女に化けてた」おっと思わず美少年と言ってしまった。まあ本当だから良いか。
「女?」
「そう」
「それって、なんというか女豹のような女ですか?」
「何で知ってんの?」
「いやマサが会ってるんですよ。女豹に」
「マサが」
「はい」
ふーん、あいつ女豹以外にも化けてるかも。
すると一人の自衛官が近づいてきた。
「田上一等陸曹から皆さんのことは聞いています。私は後藤ニ等陸曹ですが、お聞きしたいことがあります」
「はい、T大の準教授の高原といいます。私から状況を説明します。
「はい、ここの施設の内容は?」
「十二のスクリーン室がありますが。その中に少数の荒くれが居ると思われます。全体の数は分かりませんが、およそ三十から四十」
「あなたがたはスクリーン室に入ったのですか」
「はい、ボスが居るとの情報があったので」
「中はどうなってますか」
「かなり座席が壊されて。壁にひびが走っているので、銃を乱射すると危険かと」
「なるほど」と後藤は考え込んだ。
するとシンがいつのまにか傍に立って言った。
「閃光弾をお持ちですか」
後藤はちょっと戸惑ったように頷いた。この謎の美少年のことは知っていそうだ。
「閃光弾を使って、威嚇射撃で制圧というのがプランです」
「マシンガンの乱射でスクリーン室がめちゃめちゃになるし、犠牲者が出る。ならば僕と雅と夏生さんがそれぞれの部屋に分かれて、少数の自衛隊員と一緒に肉弾戦で制圧する、というのはどうですか」
「それでは三部屋を同時に制圧する、ということ」
「はい、それをやっているうちに必ず、他の部屋から荒くれが出てきます。そこで捕獲する」
「なるほど待ち伏せですか」
「はい、これなら犠牲者は少ないかと」
後藤は頷いた。
「良いでしょう。お力を借ります」
まず雅がスクリーン1を四人の自衛隊員で攻撃。スクリーン2は夏生が、以下同じ。スクリーン3はシン。
残った者は全員扇形にスクリーン場入口に展開。
さて、どうなるか。
三人の異能と自衛隊十二名にかかっているこの作戦。
第一スクリーン、第二スクリーン、第三スクリーンの扉におのおのが配置。
「行きます」と第一スクリーンの扉に手をかけ、一気に開く自衛隊員、と同時に閃光手榴弾を場内に投げる。そして目にも見えない動きで雅が場内に入る。同じく、第二スクリーンに夏生、第三スクリーンにシンが飛び込む。離れていても眩い光が見える。
一瞬の後、マシンガンが打ち鳴らされる音が響いたが、少しの間に止んだ。
だが、このマシンガンの音で、次々とスクリーン室の扉が開き、荒くれが出てくる。今だ!
ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、と自衛隊のマシンガンが威嚇射撃を放つ。そして、素早く後藤二等陸曹が、
「全員、マシンガンを置いて、万歳せよ! 跪け!」
荒くれは皆目を見張らせて、一瞬の後皆跪いた。
「作戦、終了!」と後藤は声を挙げた。




