東宝シネマを制圧せよ
「ふーん、東宝シネマね、確かに要衝だわね」と言ったのは景子。しかも五十人、いや、多分広さから言えば、もっと人数は増えるかもしれない。
「多分中はスクリーンの部屋に金髪か荒くれか、またはその混在隊が分かれて入ってるわね。ただし入口はひとつ」と夏生。
「なら、入口を突破すれば、一部屋ごと各個撃破できる」とシン。
マックスの情報に基づいて、作戦を話し合っているのだが、自衛隊の主力は風林城に向けるべきと景子は言った。壕のために陸自の兵力は大規模なものにならず、戦車も無い。いきおい歩兵が主力だ。するとゲリラ的にビルの影から複数攻撃を受けたら、犠牲が多数でるだろう。ならば、その拠点をドリームステージチームで潰す。そういうことだ。
「今、分かっている小城はバッテイングセンターの裏のドラッグクイーンの店、風林の傍のコンビニ、東宝シネマ。そうねマックス」と夏生。
マックスは頷いた。
「ああ、でもその三つだけってあり得ないだろ」
「それは金髪か荒くれに聞くほか無いわね」
シンが口を開いた。
「皆が、拠点を知っているとは限らないが」
「私は東宝の親玉が知ってると思う」と景子が言うと、
夏生が聞いた。
「何故?」
「規模から言って、東宝は大きな拠点だわ。リーダーは他の拠点を考えながら、作戦を立てるはず」
「って、景子先生、おいらたちと来るつもり?」
「ええ、状況を考えて、今晩は最後の闘いになる。もはや私も大量殺人の兵士よ。この戦いの結末を知りたい」
そう人類の未来が決まる。かもしれない。
ゴジラの顔が左半分になっている。昭和二十九年から東京をはじめとする日本中の大地を破壊し、都市、街を破壊しまくった、この破壊神の彫像が半分になって、これでは熱線も吐けない情けない姿になっている。まさにゴジラが体現していた破壊、蹂躙が東京大地震となって、自然が人間に勝利した象徴のようになっている。
「さすがにエスカレーターは動いてはいないようね」と景子。
「中に五十人か・・・」とシンが考え込んでいる。
「シン、何を考えている?」と夏生
「中に居る連中を外に出す方法だ」
「外に出す?」
「ああ中に居る連中を片付けるには外に出すのが一番だ」
景子は「片付ける」って引っ越しじゃないんだから、とは思ったが、まあそう言うことだわと思い直した。
「でも連中を外に出したら、私達だけでは対処できないわね、と言うことは」と夏生がにやりと笑った。
「そう自衛隊を外に並べて僕らが中で引っ掻き回せば、彼らは外に出て狙い撃ち」
マックスが感心したように言った。
「よくもまあ、人間を将棋みたいに考えられるなあ」
夏生が言った。
「それが戦争の参謀よ」
「やっぱりおいらは将棋の駒か」とマックスがため息を吐く。
「大丈夫、あんたは立派な飛車よ」
雅が、
「では私が伝令ですね」と言うと
「ああ、そういうことだ。雅にはここに自衛隊を連れてきてくれ、人員は自衛隊の司令官に考えてもらう」とシンは答えた。
「だけど、どうやってアイツらを外に出す?」とマックス。
「やはり、ここは人質作戦だろう」とシン
「何だ、またおいらたちが人質?」とうんざり顔のマックス。
シンは首を振った。
「いや、今度は夏生さんと僕が人質になる」
「へ?」
「日本刀を操る美剣士と超能力を操る美少年は、もはや歌舞伎町に轟いている。ならば僕たちが捕まれば、金髪や荒くれは大喜びだろう」
自分を美少年ってどんだけ自己認識が高いんだろう。だが有効な作戦だ。景子はにやっと笑った。
「いいね、それ」
例の手錠を夏生の右手首とシンの左手首につなぐ。
「おい、行くぞ」とマックスが偉そうに言う。こいつ楽しんでいないか?
「雅、こちらの状況を花園神社の自衛隊に知らせてくれ。うまく連携すれば、東宝シネマを制圧できる。 そして次の作戦もうまく行くはずだ」とシン。
「次の作戦?」と雅。
「最終的には風林城制圧だ。それに・・・」
「それに?」
「リョウと老人、そして時任瞳が必ず現れるだろう」
マックスが、東宝シネマの前に居たあらくれの三人グループに「おい、お前らの親分誰だ?」とかなりガラ悪く聞く。
「なんだ、この野郎、じゃない女か?」とマシンガンを片手で握って腹巻にグロッグ2丁をぶち込んで、 サングラスをした男がいかつい言葉を発した
「あんた誰?」
「おう、サブだ」
「じゃサブ、お前の親分に邪魔なオカマと小僧を捕まえたって言ってこいや」
「オカマと小僧?」
「ああ、見ろや」
景子が東宝ビルの影から、シンの右手首と夏生の左手首を手錠で繋いで出てきた。景子の右手にはグロッグが握られている。
すると、坊主頭で片目の男が、
「こいつら、歌舞伎町で有名な、なんか妙な力使うガキとオカマじゃねえか」
サブがほうと目を瞠った。
「そいつがどうして捕まえられた?」
「こいつらは昼間、力を使えないんだ。そうなったら只のガキとオカマだ。簡単だよ」
まあ、嘘を堂々と言うもんだ。マックスは天性のほら吹きかもしれないと景子は思った。
「こいつら捕まえたんだ。お前らのボスに会わせろ」
「良いだろう。ついてきな」とサブ。
ほう旨く行った。だが、こんな荒くれを統率するのはどんな男か(あるいは女)か興味はある。
動かないエスカレーターを上り、劇場の中に入る。ふん、やっぱり暗いな。
サブは入口から一番近いスクリーン室に入って行った。ポスターが無残に剥がれて、いったい何を映写していたのか分からない。まあスターウォーズではないとは言える。
場内に入ると、座席が並んでいたが、まあ無事に椅子であったと分かるモノが半分くらい、つまり後半分は椅子もどきである。紺色の断裂されたモノは、やはり大地震の破壊がどういうものか痛烈に示している。ただ奇異なのは、まさに、白く光るスクリーンが傷ひとつないことだ。明かりの殆ど無い空間に鈍く光るスクリーン、そのスクリーンを背に、取り巻きの雑魚荒くれとは格段に異なるオーラを放つ女豹のような女が鋭い瞳を光らせて、こっちを見ていた。こいつ存在感が半端ない。
女豹はこちらに向かって、
「私はジェーン高原、あんたちは?」と声を掛けてくる。
「おや、奇遇ね、私も高原」
「フフ」
「何が可笑しい? ジェーン」
その時、シンが叫んだ。
「先生、そいつから離れて!」
「え!」
「マックス、日本刀を!」と夏生も叫ぶ。
鬼切丸が宙を飛ぶ。
夏生がガシッと掴むと、シンと夏生が宙を飛んだ。すると手錠は左右に引きちぎられて、シンと夏生が宙で分かれた。
およそ一か月空きました。夏の暑さにやられて、ダウンしましたが、カウント8で起き上がったみたいです。試合終了を目指し頑張ります




