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黒バイク奪取

 ひとときの静寂は、ドドドという大勢の靴音で破られた。

「自衛隊だ。武器を捨てて、その場に座って!」

 おっと、これは正義の味方が来た。マックスも塚田も、皆ほっとした顔になった。

 だが清原が死んだ。

「くそ、もう少し自衛隊が速ければ、清原さんは・・・」と塚田が声を震わせ血が滲むくらい唇を噛みしめた。


 自衛隊の一人が夏生に向かって、

「あなたは橘夏生さんですか?」

 夏生は怪訝な顔をした。

「何で、私を知ってるの?」

「ハ、剣道の小袖を着て、日本刀を自在に操り、火の手を静める女剣士はもはやこの新宿歌舞伎町で知らない自衛官はいないかと」

 夏生は髪を掻いて、

「ハ、それはどうも」

 有名になったものだと景子は思った。

「じゃ、私たちが正義の味方って信じてくれるのね?」

「ハ! 橘さんの仲間は皆、味方かと。それに自分は橘さんとは少々関りがあります」

「関り?」と夏生。

「ハ! 自分は関と言いますが、自分の親は橘剣真さんと全日本剣道大会で竹刀を交えたと言っておりました。あれほどの剣士は居ないと生前申しておりました」

 夏生が呟いた。

「そう親父を知ってるのね…」

「はい」

「じゃ、この辺に溜まっているのは私の味方だから」

 さすがに夏生は複雑な顔をしている。無理は無いかと景子は思う、夏生が村正を持って、その父を屠ったのは現実だから。


 景子が、

「あたしたち何人かは大量殺人者だけどね」というと、

「今は、非常事態です」と短く関が言った。

 この言葉はありがたい。まあそれで、ちゃらになることでは無いが、それは私個人の問題だと景子は思った。

「自衛隊はもうかなり歌舞伎町に入っているの?」と景子。

「ハ! 東新宿とここプリンスホテル方面からかなり入っています。ただ空からの部隊が困難で、少数です」

「武器はマシンガン?」

「いえ、それは言えません」

「そ、そうね」

「なるべく民間人は避難してもらうほうが良いのですが…」

 関はそう言うと、皆を見た。

「私とマックス、夏生、雅、シン以外は歌舞伎町から出して、それから…清原さんのこと」と景子は清原の死体を見た。ふと悔恨の情が湧いた。私の決断は正しかったか。答えのない問いを景子は反芻していた。その時、谷は言った。

「ハ! ご遺体は私どもで責任を持って、ご家族のもとに」


 清原さんの家族はどんなか聞けなかった。そんな余裕は無かった。そして田中さんの遺体も、数十の遺体とともにプリンスホテルの中にいる。まあ自衛隊は災害派遣で死体をいやというほど見ているだろう。ただ軍隊が戦争以外で、死体を見るという特異な状況に日本の自衛隊はある。これは稀有で貴重な経験として歴史に刻んでほしい。


「金髪はプリンスホテルには居ないわよ」と夏生。

「金髪軍団は風林会館に拠点を変えました」と雅。

「黒バイク軍団もいるぜ」とマックス。

「詳しい話を隊長にお願いします」と言うと関は走って行き、中年の自衛官を連れてきた。

「谷一等陸曹です。あなたが橘夏生さん?」

「はい」と夏生が答えた。

「金髪軍団について情報があるとか?」と谷

「それについては、この雅の方から」

「雅です。金髪軍団はプリンスホテルには、ほとんど居ません。ここに居るのは、外から来た人間です。金髪本体は風林会館に居ます。そして黒いバイク集団が居ます。人数は分かりませんが、五十人以上はいるかと思います」

「敵はそれだけですか」

「分かりません。ですが、今言った集団以外に他の集団が居ることは可能性としてあると思います」

「人質は?」

「分かりません」

「……」


 谷は考え込んだ。多分彼我の戦力を考えているのだろう。自衛隊は陸自の歩兵のみ、今の東京で戦車を走らせるのは不可能だ。プリンスホテル方面から装甲装輪車を入れても、ひびが入り、陥没した道路に瓦礫が散乱する道路では満足に走れない。つまり歩兵が主力である。これは双方に多くの犠牲がでると思われる。


 軍隊の指揮官とは、兵隊を生かす、と同時に死なせる人間である。

 

「まあ」と谷は言った。「まあ、私はあなた方を止めなきゃならない立場なんだが、聞かんでしょうな、あなたがたは」

 谷はぼりぼり頭を掻いた。

「ただ、情報が正しければ、あなた方の戦力は、今歌舞伎町に展開する兵士の数倍だとは思う。それに、あなたがたは自衛隊の指揮下にはない。私にあなたがたをコントロールできない。ただ、金髪軍団は我々で何とかできるが、あの車いすの少女の力には、あなたがたに頼らざるを得ないのも事実です」


 マックスが鼻をぼりぼり掻いて言った。

「まあ、その辺はあんた方は深く追求しない方が良いよね」

 シンが、

「私たちは自衛隊の行動を妨げることは無い」と言った。

「そうであれば、私はあなた方を知らない、ということで」と谷が言うと夏生が。

「その方が良いんじゃない」

 谷はそれを聞いて、くるり踵を返して去った。そして関も敬礼して去った。まあ、これから先、自衛隊は戦後初の治安出動(多分)を行っているわけで、敵が同じ日本人だから、さぞや大変だろう。だいたい歌舞伎町は一般市民から外れている人間が多い。これを処理するのは金髪とは別に労力がかかることになり、ご愁傷様だ。その点、私たちは襲ってくるのを蹴散らせばいいから大変シンプルだと景子は思う。


「さて、おいらたちも動こうぜ。と言っても、ここはバイクを借りよう」とマックス。

「誰に借りるのさ?」と夏生。

「もちろん、黒バイク集団、そうだな、おいらが景子先生を乗せて一台、シンが夏生さんを乗せて一台、そして雅が一台ってとこかな」

 五人は音もなく、プリンスホテルを出た。

「とりあえず何処に行く?」と景子が問うと、

「とりあえず、ゴジラの下くらいに行けば黒バイクが居るかと」とシンが答えた。ふんまあ妥当だな。にしても明かりの消えた新宿の廃墟ぶりには驚く。きらびやかな仮面の下の虚栄と欲望が剥がれて、不気味なゴーストタウン化としている。


 第二東亜ビルに近づくと居た。黒バイク五人。服装が黒に統一されている。これは軍隊化の証だ。ということは黒バイク集団をまとめている人間がいるということだ。そしてそれがジャッキー末次だという確率が高い。


 ビルの壁面が崩れて、瓦礫と化し、かつ看板が落下してちょうど人間がひそめる空間に五人は身を隠して、黒バイクの五人を見る。


 すると、なんと彼らはビール缶かた手に酔っ払て奇声を上げている。これはまったく軍隊ではありえない。まあもともとヤンキーか半グレだろうから仕方が無いが戦前ならば軍法会議(知らないか)ものである。


まあ、バイクを借りるにはもってこいである。

「僕と雅で、あの五人を処理する」とシン。処理ってちょっと酷くないか。シンはしれーと凄いことを言う癖がある。

だが、二人の行動の速いこと。


 迫りくる二人に黒バイクの一人が「何だ、お前ら」と言おうとしたのだろうが、「何だ」までを言って、雅の左蹴りで瞬殺された。隣の男も、あ! とは思ったのだろうが、続く後ろ回し蹴りで地を這った。シンはまったく表情を変えずに、二人の男の後頭部を同時にアスファルトの道路に叩きつけた。

「シンも荒っぽいね」とは夏生。

 残る一人が、走って逃げた。この際最も適切な行動である。


 バイクを奪って、一番喜んだのはマックスだ。すると、

「マックス、ペーパードライバーって言ってなかった?」と雅が聞いた。

「ちぇ、マサが余計な事、だいたい、今歌舞伎町で交通法守ってバイク乗る奴居ないだろう」

 まったく、その通りである。

「じゃ、おいらが、ここいらをちょっと見てくるよ」とマックスが皆が何も言わないのに、ブンっとバイクを走らせ、暗闇の中に消えた。


暑さで、頭がよく回りません、やっとこ一章を書きました。

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