ジャッキー末次とマサ
ジェーン高原は言った。
「私はさて、あなたの要求は何?」
マサは答えた。
「ボスに会いたい」
「ジャッキーに?」
「ああ」
「何故」
「これだけの大事を企てたんだ。どんな奴か知りたいな」
ジェーンは鋭い目を光らせた。
「ふーん」
「だめかい?」
ジェーンは顎に手を遣り
「いいわ、ついてきて」
ジェーンは真っ赤なTシャツにスキニーのジーパン。後ろから見ると長い足に形良いヒップが揺れていた。
すると、ジェーンが「どこ見てんの」
ハハ、笑って誤魔化そう。
ジェシカについて、マサは四階まで降りた。そしてジェシカは一つの黒い扉を開けた。
中は無茶苦茶では無かった。クリーム色のソファが並び、白のテーブルが並んでいた。そして豪華なシャンデリアが煌めいている。
おっと、こいつはまいったな。
「ここは、キャバクラだったところ」とジェーン。
マサが聞いた。
「地震の影響はなかったのか、これじゃまるで営業中じゃないか」
「まあその辺は、聞かない方が良いよ」とジェシカは笑った。
これは魔訶不思議だ。ジャッキー末次も超能力者か。だが、キャバクラの内装に関する超能力とは何だろう?
ジェーンは店の一番奥のテーブル席までマサを連れて行った。まあここの派手な事、紅の絨毯に、輝かしいばかりの大きなシャンデリアの下、なんとクリーム色の壁に浮かんでいたのはハーケンクロイツーナチスの紋章だった。こいつは何とも言えないな、ベタではあるが、凶々しくもあった。
スカイブルーの席の真ん中に左右に二人づつ美女を侍らせて、ジャッキー末次は微笑んでいた。
ジェーンが言った。「マサです」
ジャッキー末次は、金髪の頭を上げ、マサを見た。その目は黒く澄んでいた。おっと、この目は意外だったな。マサとジャッキー末次は互いを黙って見つめていた。お互い何を言うか、それに対して何を言うか、そんな探り合いになってきた。
ジャッキ末次は左右に美女を侍らせて、ふんぞり返って偉そうな人間とは一番遠そうである。左右の美女は、ドレス、ミニスカ、パンツスーツ、ワンピと種類は違ったが、色は緑だった。そう言えば緑色の好きな知事がどこかにいたような。彼女らの目は水商売の目ではない。
「どうやら、この女性軍が気になるようですね」とジャッキー末次は笑いながら言った。
するとミニスカがテーブルに置いてあったナイフを取ると、シュ! マサに向けて放った。当てるつもりのない軌道だったから、
マサは微動だにしなかった。
「さすがね、マサ」
オトモダチでもないのに呼び捨て? とは思ったが、セミロング美人なのでマサは「ふん、物騒だな」(ルッキズム!)
「まあ、マサさん、お詫びしますよ。でも、これで彼女たちが私の極めて有能なボデイガードとは言えるんですよ、ナイフを投げたのは一応ルナとしましょうか、後は自分で言って」
ドレスで巻き髪は玲、パンツスーツで長い髪が瞳、ワンピでベリーショートが彩佳というらしい。
「女性のガードマンとは、あんたは、それほど弱いのか?」とマサは牽制してみる。
「さあ、どうでしょうねえ」と薄笑いを浮かべるジャッキー末次。
弱いのかと言ったが、こいつに弱者の匂いがしないとマサは思った。つまり、隙が無い。ほんとなら一発殴ってみたいが、どうも隙が無い。
ジャッキー末次はマサを見据えて、
「マサさんでしたね、あなたと話できる時間も少ない、なので、私の問いに答えてもらえませんか?」
こいつ、俺のことを知っている!
「あなたから見て、この世界とは何なのでしょう。ああ、他の世界から来た人の話は知っているので、ここはぜひあなたの見解が聞きたいですね」
シンのことも知っている。こいつ何者?
「ふん、絶望と希望は結局表裏。誰かが絶望しても誰かが希望を抱く。そりゃ見事にそうなっている。これが一番現れてるのが金だ。金に良いもあれば悪いもある。結局使い方しだい。この世界も見方次第」
ほうとジャッキー末次はマサを見た。
「これは何ともしらけた言い方ですね」
「あんたはどうなんだ。この世界をどう見る。これだけのことをしでかしたんだ。なんかあるだろ」
ジャッキー末次は笑いながら言った。
「私の考えは歌舞伎町独立宣言で言いましたが」
「建前は良い、本音を知りたい」
ジャッキー末次は凄い目を一瞬、煌めかせた。
「私はαでありΩである」
「ほう、聖書か」とマサ
「大いなる神は言った。なんじの骨の骨、これを女と名付けよう」
「……」
「私は剣をもたらすために来れリ」
「あんたはキリスト教徒か?」
「聖書にはね、ほんの少しの正しさがあります」
「真理って何だ?」
「あなたも知っているでしょう。真理は人間にはない。何故なら、この世界は多世界だから。すべての世界は相対化される。唯一残っているのが神の記憶です」
マサは明らかに既視感を感じた。この雰囲気、この男、何をどこまで知っている?
「ほう、多世界解釈ですか? 珍しい」
ジャッキー末次は右手を軽く上げて、
「とぼけてもダメですよ。あなたの周りの人は皆知ってるじゃないですか」
マサは目を細めた。
「あんた何を知っている?」
「一人は二人、二人は一人」
マサは目を見開いた。ジャッキー末次は続ける。
「なーにね、その昔、平安時代、京の都の片隅に、若い夫婦が見つけた姫、かぐやと称す。かぐやは智謀を尽くし、言い寄る貴族を撃退。天皇の目にとまる。だが、かぐやは月の住人、満月とともに帰る」
「何だ、竹取物語か」
「いや、従来の竹取とは違って、かぐやを見つけたのは若夫婦、以後、これを美那月と称する。どうです興味ぶかいでしょう」
こいつ! 何故、美那月を知っている。
ジャッキー末次は続けた。
「マサさん、本当に二人は一人なんでしょうかね?」
「何?」
「雅さんは器、中身はあなた、などというのはどうです」
「ほう、面白いな」
「まあ、考え方は、いろいろあるということですよ。例えば、あなたがたは交互に多世界を移動している、かもしれない。シンより遥か前に」
こいつ、シンまで知っている!
「あんた、そんなたわごと誰に吹き込まれた?」
「フフ」とジャッキー末次は笑い、
「いろいろ教えてくれるんですよ、いろんな人が」
「ほう、そうかい」
ジャッキー末次は目を開いて、
「お、いけない、マサさん、もうすぐ日が暮れますよ」
マサは頭をぼりぼり掻いて言った。
「まったく何でもご存じで」
「どういたしまして」
この時マサはジャッキー末次に、ふと既視感を覚えた。
まあ、ものすごい暑さで、長い時間ボーとして、なかなか書くのがしんどかったです。




