超能力少女
一隊は、十階の廊下に出た。景子は、階段扉から一番近い104室のドアノブを回した。よし鍵はかかっていない。
「塚田君、せーので同時に入るわよ」
「はい」
「せーの」と景子が部屋に飛び込む、間髪を入れず塚田。
ジャンプいちばん、景子はマシンガンを構え、同時に塚田が床に這いマシンガンを構える。
「ふう、誰もいないみたいね。塚田君皆を入れて」
十階ともなるとまあまあな部屋だ。だが、残念なことに、薄茶の壁にひびが走り、椅子はひっくり返り、テーブルも床に無残な姿で転がっている。ホテルの上部は揺れが激しい、とテレビで聞いたような気がする。
それにしても、ここも無人だ。ここまで続くと、偶然とは思えない。まさかと思うが、逃げ回っている私たち以外は、もうこの世にいない?ジャッキー末次以外にまともな金髪に会ったことが無い。いかれた連中に、無差別に殺されたとしたら、などと考えてしまう。
すると、明らかに銃の音が響いてきた。
「こらあ、鼠どもでてこいや」
耳を澄ませなくても、聞こえる。いかれた金髪か、いささか狂った輩か、怒鳴りながら歩いているのだろ。が、彼らはアホである。わざわざ自分たちの存在を敵に教えているのだから。ただ狂人に銃を与えるということは、まことに危ない状況ではある
「出てこいやあ」遂にダダダダダダダダダダ!!とマシンガン。
塚田が扉に耳を当てて、
「こっちに来ます」
どうする? 迎え撃つか、隠れるかの二択を景子は瞬時に判断した。
「みんな隠れて」
弾薬は貴重だ。むやみに使ってはならない、と景子は考えた。
が、正しい選択かどうか分からない。
靴音が聞こえてきた。近いな。清原、清掃の女性、田中親子はベッドルームに、景子、塚田、若林はソファや、ひっくり返った机の下に隠れた。
ドーーーンと、多分足でドアを蹴った(行儀の悪い奴らだ)音がした。彼らも怖いのであろう、すぐには部屋の中に入っては来なかった。
物音ひとつも無いのを確認してから三人の、なんというか、坊主頭で、しかも頭に刺青を入れている男。もじゃもじゃの長髪で、サングラスの男、また銀髪で鼻ピアスの人相の悪い男が入ってきた。
景子は机の影で、ひそかに、三人を確認した。この部屋はかなり広いのである。マシンガンを握りしめて、じっとしている。
だが、その時、
ガチャン!とコップらしきものが壊れた音が、隣の部屋から聞こえた。まずい、と景子が立ち上がった瞬間、隣の部屋に入ったと思われた坊主頭の、何かにぶつかったように、その体が吹っ飛んできた。景子が、若林が、塚田が、立ち上がりマシンガンを打ち鳴らす。またたく間に二人は床に這い、クリーム色の床を血で濡らした。
ふう、こんな死体を見ても何とも思わなくなったな。私も人間から鬼に変わっているらしいと景子は思った。
にしても、隣で何があった? 三人が隣の部屋に入った時、信じられないものを目にした。
明美が目を爛爛、髪を逆立てて、宙に浮いている。右手を前に突き出して。
「いったい、どうなっているんだ?」うーんと唸る坊主頭の顎に一発入れてから、塚田が困惑顔で聞いた。
皆、唖然として、明美を見るばかりだ。するとふわりと、重力というものをまったく無視したかのように宙に舞った少女は、ふわりと床に降り立ち、立ち尽くした。すでに目は閉ざされ、髪もゆるやかに靡いている。そして、ゆっくり床に伏して行った。
皆、戸惑った顔になっている。人は理解できない事象を目にしたとき、感情も理性も動かない。
景子が床に伏した明美を見ながら言った。
「これは多分」
皆が景子を見る。
「これは多分、昨日の夜、雅が明美ちゃんを依代にして、雅のパワーを夏生に伝えたことが原因ね」
「依代って何ですか?」と塚田。
「神の力を体現する物体、今の明美ちゃんは、まあ巫女さんと考えて言いでしょう」
「巫女」
「そう、多分、明美ちゃんは元々、その、超能力っていうのが、秘められていた。そこに雅に接することで、目覚めた」
皆、なんとも云えない顔になっていた。これは良いことか悪いことか分からないというところか。
「でも明美ちゃんは、明美ちゃん、何も変わらない」
若林が言った。
「でも、この部屋には居られないでしょ」
そうだ。
「塚田君、明美ちゃんを背負って、みんなここを出るわよ」
みなきびきび動く、動かなければ死だからだ。
十階の廊下に出ると、階段扉を開け、皆上に上りはじめた、その時だった。下から、かなりの人数の足音が聞こえてきた。
「みんな、速く十一階に入って」
皆、雪崩をうつように、十一階のフロアーに飛び込んだ、飛び込んだが、そこに三人の金髪が見えた。
「グッ」と景子は臍を嚙んだ。
前門の虎、後門の狼か。
明らかに、階段下から騒ぎ声が迫る。廊下の金髪三人は銃を構える。
「塚田君、明美ちゃんをおかあさんにまかせて、若林さん、みんなを守って」
「景子さんは?」と塚田。
「下に行く」と景子。
「じゃ、わたしも、景子さんと行く」と清原。
一瞬で決断する。
「じゃ、清原さん行くわよ」
「承知」
階段扉を開いて、前傾姿勢を保って、敵を待つ。
がやがや、うるさい声が大きくなってくる。こいつらは人殺しの自覚が無いのか。もう頭にくる。銃口をぐっと固定する。
「景子さん」と清原。
「何ですか?」
「こんな時、なんですが、私が死んだら、明美の力になってやってください」
「何、それって遺言?」
「だって、景子さんは特殊な人たちと親しいじゃないですか」
ふーん、確かに、まともにフツーはいないが。この際、悲壮になっても仕方ない。限りなく窮地にちがいないが、もう絶対、
「何言ってんの、絶対生き残る! 良い」
「はい」
あれ、少しおかしい、バカ騒ぎが静まった。敵も警戒したか。ならば、と気を引き締める。すると階段を上がってくる音が聞こえてくる、だんだん大きくなる。
すると、清原さんが、
「おりゃああ、こいや!!」がばっと立って、銃を構える。
引き金を引く、その瞬間、
「待った、待った、おいらだ!!」
そこにマックスが立っていた。そしてシンも、マサも。
景子はがくっと銃を下ろした。あぶなかった、もう半秒で引き金をひくところだった。
「危なかったな」とシン。シンもいる。
「まったくだ」とマサ!
マサもいる? まあ昼間だから当然だが、変身を見られたら、まずいだろ。
が、問題は廊下だと景子は振り向いた、とたんダダダダダダダダダダ!!と銃声が聞こえた。始まった。すばやく扉を開けマシンガンを構え廊下に飛び出す。
しかし、またもや信じられない光景が目の前に飛び込んできた。
11階の廊下の中ほどに、明美が宙に浮いている。足が、まさに地についていないし、後姿が怪異すぎる、まさにゴーストである。宙に浮いた足もとにマシンガンの弾丸が散らばっている。これは明美がマシンガンの弾を弾き飛ばした、ということか
敵も味方も唖然としている。敵も味方も固まったように立ち尽くす。
景子は宙に向けてマシンガンを打ち鳴らした。それが合図の様に金髪が逃げ出す。
もう確定である、明美は超能力者である。
「これは驚いたな」とマックスがつぶやいた。すると明美はすっと床に降り立ち、逆立った髪が、ゆっくりと元に戻ってゆく。目は金色に輝いていたが。
明美がつぶやいた。
「あたし、父さんの仇を取る。絶対に」
景子が聞いた。
「仇を取るって、どうするの?」
「あいつらの中で誰が一番偉いの」
「それを聞いてどうするの?」
「八つ裂きにしてやる」
「聞いて、そんなことを考えちゃダメ」
「何故」
「心が壊れる」
「景子さんだって何人も殺したでしょ」
景子はうっと詰まった。すると、
「お嬢ちゃん、身を護る闘いと殺すための闘いは違う」とマサが言った。
「どっちだろうが、殺すことに変わりない」
「そうだろうか?」
「え!」
「殺すために殺すのが、もし心痛かったら、止めるべきだ」
「……」
「怒りは分かる、が、怒りだけで動いてはいけない」
「何故?」
「それが人間だから。怒りは静めることが必要だ」
明美の瞳が金色から黒に変わった。そして少女は地に伏した。




