内乱と地震
その時、雅は見た。場所は新宿歌舞伎町の花園神社。
空中で対峙していた、シンとリョウ。シンが猛烈な勢いでリョウに迫る中、街は明らかに揺れ始めた。轟音が地から聞こえてきた。
「雅」と夏生が鬼切丸をかざして言った。振りかえ見れば、時任瞳も美奈月優馬も消えていた。
「これはとんでもないことになりそう、あいつらのせいで」と夏生が中空の二人を見上げた。
まさに、シンとリョウの間にかなり危なそうな空気がバチバチと唸っているように見える。
「雅、力を頂戴」と夏生が鬼切丸を正眼に構えた。
「え?」
「あいつらに割って入る」
雅はゆっくり目を閉じた。無想無念。
すると、花園神社のほぼすべての木が黄金色に輝き始め、黄金の光が一直線に鬼切丸に向かって行った。すると鬼切丸の刃は鮮やかな虹色の極彩色に変わった。
夏生は「えい!」と気合を一閃、宙に飛んだ。
まさにバチバチ状態のシンとリョウの間に割って入った夏生は「えい!」気合を一閃、二人の間の空間を切り裂いた。
刃は確かに二人の間合いを切り裂いた、と思われた瞬間、世界は光輝いた。だが次の瞬間、東京新宿の地下が轟音をとどろかせた。地震!!
花園神社の鳥居がガタガタと揺れ、大地がうねり、神殿が揺れ、瓦が剥がれ、地に落ちていく。
自衛隊員もゴールドヘアーも一般人も立っていられずに、地に這う。
これは、相当大きな地震だ。雅は、今までの感じた、どの地震とは比べ物のない脅威を感じていた。
雅は、とっさに空高く、飛び上がり、足の下に繰り広げられる悲惨な光景を直視した。
見れば、東西南北に早くも火の手が上がっている。意外だったのは。最も危ないと思われたゴールデン街には、さほど火の気は見えない。だが、雑居ビルがひしめき合う、歌舞伎一丁目のメインストーリートには次第に炎が見えてきたようだ。とにかく歌舞伎町の雑居ビルは狭い、汚い、ごみの山が発火すれば、炎はみるみる広がるだろう
その時シンが地上に舞い戻り、地に伏した。
「こいつが寝ているのは初めて見た」とマックス。
「マックス、シンを背負って」と夏生。
「はいはい」
「雅、あなた火を消せる」と夏生が聞くと、
「分かりません、でも」と雅が答える。
「でもって何?」
「ママはさっき氷の虎を出現させました」
「なるほど、さっきの要領で氷を出せばいいか」
「そうです」
「じゃ、とっとと行く方がいいね」
「私は?」とマックス。
「あんたは店に帰って店がつぶれてないのなら、中に入って掃除をして」
「はいはい」
マックスはシンを背負い、屋根の傾いた花園神社裏階段に向かった。
雅と夏生は花園神社の大鳥居(かろうじて立っていた)を目指した。
潜り抜ける、とその時に、
「雅」と声が掛かった。振りかえると田上が立っていた。
「どこに行く?」と聞く田上に、
「歌舞伎町です」と雅が答えた。
「おい、危険だぞ」
「承知しています。でも火の手が上がっているかもしれない」
「おい、火を消しに行くのか?」
「はい、今、消防隊は歌舞伎町に入れない。だから田上さんも見たでしょう、氷の虎で火を消す」
「あれは、また出るのか?」
すると夏生が答えた。
「出るか、ではなく出すの」
「う、うんそうか、だが、俺たちも行ってみる」
夏生がきらり目を光らせ、
「危ないわよ」
「儂らは自衛隊だ。国民を助ける組織だ。災害派遣は自衛隊の仕事だ」
「ゴールドヘアーも」
田上は頷いた。
「抵抗するものは排除するが、大怪我で困っている人間がゴールドでは助けないという法はなかろう」
雅は、ならばと。
「であれば、一緒に行動した方が良いでしょう」
夏生が笑って言った。
「あんた、忘れてない? もうすぐ夜明けよ。あんたは私達と共に行動できるのは、あと少し」
そうだった。んー悔しいな、だがマサに頼るほかない
田上が難しそうな顔をして言った。
「あんたたち、なんか変なこと言ってないか?」
夏生が答えた。
「この子、太陽の下では皮膚が弱すぎて、行動できない訳」
嘘である、が、嘘の方が真実らしいこともある。
「おお、そうか、じゃ、雅は昼間は行動できないということだな」
夏生が言うことを素直に信じるのも、どうかと思うが、まあそれで納得するなら、まあいいか。
「では、マサは何処に?」
「とりあえず、ゴジラの下に」
「承知」と、雅はフルスロットルで神社を飛び出た。




