聖戦
すると暗雲が天より舞い降りる。その昏き事無明の如し。その昏い空間に、雅、夏生、マックス、そして時任瞳が対峙した。
特に夏生と瞳の距離が一番近い。夏生は正眼。鬼切丸の切っ先はまっすぐ瞳に向けられていた。瞳の周りに火輪が生じた。その禍々しい火の塊が徐々に変形し、なんと火の龍と化したのである。畏るべしパイロキネシス。だが、夏生の鬼切丸も、銀色に輝き、銀の白金の線が流れ、流々と銀色の波を出現させ、それはやがてあるものを形どる。すなわち天に向かって吠える虎の異相。まさに龍虎の闘いであった。
龍は吠えた「きいいいいいいいいいいいいい」、」龍のおぞましい絶叫。また虎が吠えた。「ごおおおおおおおおおおおおお」大きく口を開け天に向かって咆哮をあげる氷の虎。
異形の龍虎が唸りを上げるたびに、大地が揺れる。
赤龍の下で瞳が、爛爛と眼光きらめかせ「いけ!!龍」と鋭く叱咤する。対するは白銀の虎が咆哮し、喝とあいた虎の口から、まっすぐ鬼切丸が火の龍に向かって突き出された。龍はうねり、刃を絡めとろうとする。すると夏生が「おおおおお」と気合を挙げ、鬼切丸を横なぎに払う。「ごおおおおおおお」と虎が啼く。「きいいいいいい」龍が吠える。
絡まった龍の胴体が真っ二つ、が、続いて、巨大な火輪が飛んできた。夏生は地を蹴って舞い上がった。火輪が夏生の足の指すれすれに飛んだ。
「ちっ!!」と地に降りた夏生に再び火輪が襲う。鬼切丸を縦にして火輪を防ぐ夏生、が、明らかに火輪に押されている。雅は力を伝えようと思ったが依代が無い、「くっ」と唇をかみしめたが、ハッとした。ここは神社、神は鎮守の森に居るという、ならば。
「シッ」と宙高く飛んだ雅は、目に入ってきた一本の木に念を送った。すると木は呼応するように、力の線を鬼切丸に送りはじめた」
鬼切丸は徐々に光を放ち、「えい!」と気合を一閃、夏生が吠え、鬼切丸の刀身で炎の輪を切り裂いた。すると、火の輪はたちまちその形を崩し、空に消えて行った。
「ちっ」と瞳は唾を吐く、その顔はまさに悪鬼。
雅は、自分の感情が怒りに転化しないか、ひやひやだった。が、瞳は紛れもなく暴力の被害者である。その悲しむべき出来事が今の瞳を形成したのなら、人間の怒りのすさまじさをひしひしと感じる。
夏生はふわり後方に飛んで、鬼切丸を振りかぶった。刀身は夏生の背にあり、そして夏生はそのまま前転、前転、前転、風車の様に瞳に迫る。橘一刀流の旋風という技である。だが、今、旋風の回転は雅の能力が伝わり、まるで高速道路を疾走する車のタイヤのごとく。すると高速回転する旋風に向かって火輪が襲い掛かる。まさに火車となる旋風。その火車が瞳と車椅子にぶつかる、寸前、車椅子は宙を飛んだ。
車椅子ごと宙でくるり回転すると、夏生から、やや遠い場所にふわり降りた。
空中では、シンがリョウと対峙していた。
「シン、さて君に何ができるだろうね。何しろ僕は君の分身だからね、いや、この世界が始原とすれば、君が僕の分身か。とにかく、僕が死んだら、君はどうなるだろうね」
「リョウ、一個体が重要なのではない。世界が安定していること、それが一番重要だ」
「シン、どうせ、この世界はいずれ滅ぶよ。雅が存在している限りね」
「雅はこわさせない。僕が生きている以上」
「は、シン、君は、このバカげた世界に、ずっと、雅にくっついているというのか」
「ああ、そうだ」
「見上げたもんだよ」
「リョウ、お前はどうなんだ? お前は破壊や滅亡を望んでいるが、理由は何だ」
「シン、理性や良識が何ほどの力を持つか考えろ、そんなもので世界は成りたってはいないぞ。それは錯覚だ」
「では何で世界は成り立っている?」
「パッションだ。欲望だ。アブノーマルだ。それはもう証明されている」
「何を馬鹿な!」とシンが吐き捨てると同時に稲妻が煌めいた。その光と熱はまっすぐリョウに向かっていた。
煌めく光の矢はまっすぐリョウに高速度で向かっている。リョウにぶつかった、と思われたとき、リョウが前に突き出した手のひらに吸い込まれた。
「ふん、シン、馬鹿にしたような攻撃はやめろ」
「リョウ、僕が何を考えているか、分かるか?」
「何だ」
「くたばれ糞野郎」
「ア、ハハハハハハ」
「son of the bitch」
炎の矢が飛ぶ。
リョウは宙高く舞い上がり・
「面倒な奴」と拳を突き出すと、火の輪が何十にも生じ、ぐるぐる回転しながら炎の輪がシンめがけて飛んでいく。
シンは炎の輪をさけ中空高く舞い上がると、氷の矢を放った。
「チッ、火の次は氷か、忙しいな」とリョウは氷の矢を無造作に蹴った。ばらばらと砕ける氷の矢。
「シン、感情的になるな。僕に近づくぞ」
「僕の存在が、君を生んだのなら、やはり方法は一つだ」
シンの言葉にややリョウはひるんだようだ」
「お前、何を考えている?」
リョウの言葉が終わる前に、シンがリョウに向かって突進してきた。ラグビーのタックルのようだ。素早くリョウが空高く避けた。
「何の真似だ?」
「僕らはプラスとマイナスだ。だから僕は君と融合してプラスマイナス=ゼロにする」
「融合だと?」
「そうだ」
「フフ」とリョウの不気味で美しい微笑。
「何だ、何が可笑しい」
「融合か、面白い、君が中性子で僕がウランならどうする?」
シンは目を見開いた。
「核分裂!」
ウランに中性子をぶつけると核分裂が起きる。つまり東京の頭上に膨大なエネルギーが発生する。つまり核兵器が爆発する
「く、考えたなリョウ」
「フン、僕は断定していないぞ。プラスマイナスかもしれないぞ」
「つくづく、嫌な奴だな、リョウ」
一転、場面は硬直した。
マックスが「うおおおおおおおおおおおおおおお」と火の粉を払う。
「おい、あの火を何とかしろ」
何とかしてるっつうに、それにしても、人間の怒りとか業はおそろしい。瞳の火はまさに地獄の業火だ。雅は瞳を自分に置き換えて考えてみる。やはり自分が制御できない以上夏生を助けるしかない。が、
瞳は火炎を飛ばして、夏生をぐるり、火炎が囲んだ。
「しゃらくさい、私は焼き芋じゃないわよ」と夏生。まあどう見ても夏生は芋ではないが。
夏生は、一瞬、刀を振りかぶり、大きく頭の上で旋回させた。風はごうごうと哭き、竜巻が出現した。その渦は火炎をものの見事に天空に吹き飛ばした。
瞳は髪を逆立て「チッ」と唾を吐いた。その顔は悪鬼の如し。瞳はゆっくり空に上がり、車椅子を回転させる。ぐるぐるぐるぐるぐる、その回転速度は急速に上がっていく。すると炎は徐々に巨大な龍に変わっていく。「きいいいいいいいいい」龍が吠えた。
夏生はゆっくり正眼に構え、龍に対峙する。
夏生が吠えた。
「雅!」
雅が夏生の背後から宙に飛んだ。まっすぐ赤龍に向かってゆく。喝っと開けた龍の咢を避けつつ、龍の背後に回る。そして龍の後ろ首に取りついた雅は「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん」と渾身の念を送り龍の動きを止めた。
間髪を入れず、宙に舞った夏生。「せえいいいいいいいいいいいいいいいい!!」と気合一閃、赤龍を真っ二つに切り裂いた。
「きいいいいいいいいいいいいいいいい」断末魔を上げる赤龍。
赤龍が咆哮とともに星々輝く中空に消えて行った。
「チっ」と瞳は悪鬼の形相を変えないが、少しあせっているのか、顔が青ざめているようだ。夏生と雅のコンビに押されている。が、
上空に異変が起きた。
オーロラが赤、緑と交互に出現し、夜空を覆っている。
その異様な空間の中にシンとリョウが、ほんのわずかの距離で相対していた。バチバチという表現が格闘技にあるが、まさに二人はそのバチバチだった。
それにしても、新宿の空にオーロラとは、オーロラは太陽風が地球の磁場の力が強いところとぶつかってできる現象だ。極東の日本にも時折見られたと古書に記載されている。
速い話、新宿のいったいに強い磁場が発生しているということであろう。では何がそうさせているのか。雅は直観的に、シンとリョウの存在が理由と思う。彼らの間に一種の磁気的な力が働いているのではないか。
「ふふ、おやおや、オーロラとは、やはり僕らは磁気でつながっているのかな、だったら、僕を消滅できるかもしれないね。それとも磁場で核融合をコントロールするということかな。どっちだろうね」とリョウ
シンが黙っている。あれほど冷静なシンが怒っている。雅は不安感が広がった。嫌な予感。悪いことしか浮かばない。私の力でなんとかしようか。だが、いわゆる私の力が全開放されたら、リミッターが外れたら……
すると、地の底から初めは低く、そして徐々にゴオオと唸りが聞こえてきた。そしてがたがた、振動が激しく大地が揺れている。
これは、とんでもない力が大地を揺らしている。
「雅、鬼切丸に力を!」と夏生が叫んだ
雅は目を瞑って、夢想無明を念じた。
すると雅の体が光り、鬼切丸が虹色を鮮やかに輝かせて。
夏生が「せい!」と一閃宙空に飛びあがり、シンとリョウの間合いに飛び込み、「おうりゃあああああああああ!!!」と刀を一閃間合いに向かって鬼切丸を振り下ろした。
一瞬世界は光に満ち満ちた。
これでドリームステージ②聖戦は終了です。引き続き、終章の③アルマゲドンを書きますので、よろしくお願いします。




