決戦花園神社
景子が「私は邪魔になるから残るね」
「珍しく、塩らしいこというじゃない」と夏生。
「馬鹿、あんた死ぬんじゃないわよ」
「はあ? 誰が死ぬって、地獄に行ったら、閻魔様ぶった切って帰ってくるわよ」
景子は本気で心配している。やはり景子と夏生はトモダチだと雅は思う。
シンが皆を見回して言った。
「とにかく、外はかなり物騒。残りの人はここを動かないで、様子をうかがうこと」
「なんで、出ていくんですか? あぶないのに」と明美が涙声で言った。
景子がつとめて冷静に言った。
「外には怪物が居るかもしれない、そんな存在に立ち向かえるのは、この四人だけなのよ」
「他の人は分からないです。でも何故佐奈さんも?」
景子は答えた。
「マックスには、ここに居る誰よりも重要な仕事があるの」
「明美ちゃん、おいら死なないぜ」とマックスが言った。
「塚田君、若林さん、あなたたちが頼りよ」と景子。
二人は声を揃えて言った。
「承知」
清原さんが初めて、ゴールドヘアーから分捕ったマシンガンを手に取った。
「私も闘います」
やはり人間と言うのは環境によってつくられるな。こんな戦争に巻き込まれなかったら、ここまで悲壮な、だが皆、頑とした顔にはならなかったであろうと雅は思った。
「バリケードをいったん解除、四人を出したら、すぐに再構築」と景子が発すると、すばやく皆が行動に移る。
廊下はシーンと静まっていた。
「やはり、外に兵力を向けているのね」と夏生。
「上に行く、下に行く?」とマックス。
「むろん下だ、地下から、外にでる」とシン。
なるほど、上に行けば、行動の範囲が狭くなる、ということか。ただし地上戦になると、もうこれは本当の戦争だろうと雅は思う。
地階に向かうから、敵兵に会うかと思えば、しばらくは無人の野を行く様相だったが、二階に一人居た。この不幸なゴールドヘアーは無慈悲になぎ倒された。多分、私たちを止めるには、戦車が必要であろう。
そして、一階の改札口前ロビーに到達した。だが、彼らを見止めたものは少なかった、ざっと十人、夏生が左右に走る刃で手足を斬られたゴールドヘアーが「キー」「ウオー」とか痛烈な悲鳴をあげる。そしてシンは高速のパンチ、蹴りでなぎ倒す。雅は、その姿すら捉えられることなく、なぎ倒されるゴールドヘアー。
「おーい、おいらがすることなくなっちまう」とマックス
夏生が、
「ぶつぶつ言わない、あんたには最重要任務があるんだから」と言うと、
「はいはい」とマックス。頭をぼりぼり掻いた。
マックスは私の中から怒りに任せて、全エネルギーを放出しようとしたとき、私の中からマサを引きずり出す重要かつ特異な役割がある。
そうやって遭遇した敵を蹴散らして、一気に地下の二階にある、清原に教えられた清掃の搬入口につくと雅がドアノブを回して、外に躍り出た。するとダ、ダ、ダ、ダ、とマシンガンが唸りをあげた。やはり居た、ゴールドヘアー。
雅、猛ダッシュ。夏生が鬼切丸をひとなぎ、シンがすうと音もなく近づく。すると、三日月の光の刃となって、敵をなぎ倒す。
「シン、マックスを背負って」
マックスが「へ? 嫌だよ」
「四の五の言わない、あんたは私たちに付いてこれない、だから速く!」
「ちぇ、分かったよ、シンお願い」
シンは黙ってマックスを背負った。マックスは七十K弱だから軽くはない。だがシンは平然とマックスを背負いながらすっくと立った。
「じゃ行くわよ」
三人は地下室の非常口を出て、地下駐車場に出た。車が数台止まっているだけで、閑散としていた。
三人とお供の召使? は駐車場の出口から、一気に狂騒の歌舞伎町に飛び出た。そして一気に西武新宿駅を背に、東急歌舞伎町タワー前に出た時、信じられない光景が目の前に広がっていた。てっきり皆、建物内に隠れているとばかり思っていたが、そこには、老若男女が多数、これは絶対酒でも飲むか、薬でもうったか、奇声を上げて、
マシンガンを空めがけて打ち鳴らしていたのである。
これは完全に血に酔っている。としか言いようがない。銃はゴールドヘアーがおいていったものには違いないが、撃っているのは、いかれた若者、中年、老年の、どこにでもいるような風体の人間である。
こいつらいかれている、雅はそう思わざるを得ない。彼らは何に向かって撃っているのか、多分、理性がぶっとんで、マシンガンの振動に酔っているのであろう。
「醜悪だな」とシンがつぶやいた。
「まあ、それには賛同するけど、かなり邪魔よね」と夏生。
ダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッダッマシンガンが唸りを上げるごとに、「ウオ―!!」と吠える男女、確かに醜悪だが、と、雅は思う。人間の持つパワーと熱量が凄まじいものであることは間違いない。なんせそちこちで同士撃ちまで始めて居るのだから。もしかしたら、この熱狂が歌舞伎町全体に広がれば自衛隊も簡単には納められないだろう。もっともミサイルの十発も歌舞伎町に叩き込んだら収まるだろうが、その度胸は政治家には無いだろう。市民の死は彼らにとって何でもないが、市民の死体が累々と重なるテレビ画像は彼らも困るだろう。
「あんな阿呆たちにつきあいきれない、遠回りをしましょう」と夏生。
「なるほど、いったん職安通りに迂回しますか」とシンが頷いた。
街の喧騒を逃れ、裏に回ると、そこはホテル街だが、この道は人一人通ってはいなかった。なんとまあ、ものすごい落差だが、ラブホテルに居る人は、やや理性的らしい、ひたすら隠れて、助けを待つ手段を取ったのだろうが、それも長くは続かない。腹がへったら、コンビニ強盗でもやるか、このさい現金は何の役にもたたない。
夜は刻刻更けてゆく。空には明らかに白い傘が見える。
「空挺団は、やはり花園神社方面を目指しているようだな」とシン
「雅、一走り先に行って、神社の様子を見てきて」と夏生が言うと、
「はい」と雅は答えた。
「鬼王神社あたりを待ち合わせ場所にしましょう」
雅は、音もなく走り出した。今なら多分100メートル、三秒くらいか、これはサバンナ草原の俊足王チーターと同じである。
一瞬の間で雅は花園神社裏階段の最下段に着いた。向かいはと見ると、一応は交番だったが、中は見るまでもなく無茶苦茶であろう。警官が無事であることを祈るばかりだ。
階段をそっと、しかし素早く上がると、階段二つ残し、雅は膝をつく、そしてそっと前をうかがった。
すると空の方から声が掛かった。
見上げると、拝殿の屋根からぶら下がった男が「君、一人か」と雅の上から声が掛かった。ヘルメット、パラシュート、迷彩服の男、つまり空挺団の一人が拝殿の屋根の出っ張りにパラシュートが絡んで宙ぶらりん、そういう状態だった。すると、雅の背後に、気配が、と思った瞬間、宙ぶらりんの自衛隊が拳銃をパン!!と撃った。雅の背後で階段から転げ落ちるゴールドヘアー、さすが自衛隊最強。雅は「えい!!」と一閃、宙に飛ぶと、引っかかったパラシュートを切り裂いた。拝殿の壁に沿うようにズズズズズズと音を立てて、石畳に落ちた。これは痛いだろうな、と思ったら、落ちたとたんくるりと前方回転してすっくと立った。さすがだ。
だが、「あんた飛んだのか?」と困惑したように雅に聞いた。
「飛びました」
「ああ、そうか」
妙な会話だが、非常時だから、じっと考えている暇はない。
「俺は田上一等陸曹、あんたは?」
「雅」と短く答えて雅は耳を澄ませた。
「敵が来る。十人くらい」
田上はマシンガンを握り。
「おっと、そいつは大変だ。林に隠れよう。味方もいるはずだ」
「私にも味方がいる。だから私はいったん神社から出る」
「そうか…どこから?」
「表門から」
「じゃ、そこまで、いったん撤退だな」
「OK」
雅と田上は林に続く石段を下り、神社の林にいったん入り込んだ。すると、すでに何人か、ヘルメットを被った自衛隊員が暗夜の林に潜んでいる。その一人が田上に近づいてきた。
「田上さん」と声をかけてきた。
「木原か」
「はい、大丈夫ですか」
「ああ、彼女のおかげでな」
木原は雅を見て、「あなたが? 一般人ですよね」
木原がそう言う気持ちは雅にはよーく分かるが、今は非常時だ。
「来ます。十人以上、ゴールドヘアー」
雅がそう言った瞬間、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、と機関銃の発射音がなり響いた。
「おら!!!自衛隊出てきやがれ!!」
アホである。そう言われて出て行く馬鹿が居るわけがない。狂人に銃を持たせたら、どうなるか、まったくぴったりの見本であるが、やはり、自衛隊はプロである。林の中にいったい何人がいるか(いるのは間違いない)分からないが、じっと気配を消して、狙いを定めている。空をと見ると、いったんパラシュートの傘は途絶えている。つまり先陣を切った精鋭たちが、ここに降りたもの、または神社付近に降りたものが集結しているということであろう。レンジャーは山の中に三日三晩、たった一人で生き抜く訓練をするという、そういう人間はまさに人間凶器(悪い意味ではない)である。
「おらああああ、出てこいや!!!」拝殿正面の階段をゴールドヘアーが降り切ったとき、田上が「打ち方はじめ!!」と叫んだと同時に、林の中からマシンガンが唸りを挙げた。
体を揺らせ、引きつかせ、宙を飛ぶ体、血しぶきまでが見えそうだ。ゴールドヘアーは次々と倒れる。
「打ち方やめ!! 生存者がいれば捕虜にしろ。殺すな」
なるほど、自衛隊が人を銃で倒したのは初めてだろう。にしてもさすが精鋭。
「では、田上さん、私は連れを迎えに行きます」
木原が、
「え? 冗談じゃない。どこかのビルにでも隠れてください」と目を剥いた、が、
「まあ、彼女の好きにさせてやろう」と田上。
「そんな!」
「援護頼むぞ」と田上が雅に言うと、雅は0.5秒で鳥居を出た。
雅はしばらく花園神社沿いの道を行き、途中で左折する。まっすぐ行くと風林会館前に出るが、新コマの周りのバカ騒ぎが、風林会館あたりにも起こっている可能性がある。なので一本裏のラブホテル街をつっききる。この間葯2.7秒、多分世界記録を大幅に超えていようが、この際、それは関係ない。走る時に、耳を澄ませると、ラブホテル街と平行に通る区役所通りは、やはり喧噪―バカ騒ぎが発生しているようだ。そこら辺中でマシンガンの唸る音が聞こえる。これは自衛隊でもやりにくいだろう。巧妙だなゴールドヘアー、いやジャッキー末次か、もしかしたら……。
鬼王神社の暗闇には三人が潜んでいた。
雅が中に入ると、
「雅」と声が掛かった。
「はい」
すると狭い神社の真ん中あたりで、四人はそろった。
「雅、花園神社は?」と夏生。
「シンが言ったように、自衛隊が集結しているようです」と雅が答えた。
シンがゆっくり言った。
「やはり主戦場は明治通り方面か、壕があるから装甲装輪車では無理だろう。戦車なら可能かもしれないが、壕の深さによる。やはり、人的戦闘になるだろう。花園神社をいったん制圧すれば、そこに陣地をつくることになる」
「でも人質がいるから一気にはいけない」と夏生。
「区役所通りもバカ騒ぎが起こっているようです」と雅が言うと、夏生がハーとため息を吐いた。
「まったく、新宿の、いや歌舞伎町の人間はたがが外れているようね」
「だが有効だ。自衛隊も簡単には進軍できない」とシン。
「で、どうする」
「花園神社に行く」
「自衛隊と合流?」
「それもあるが、花園神社に何かある」
「リョウ?」
「それもあるが、何か別に感じる」
皆シーンとなった。
雅は、何か分からないが、とても嫌な気がする。花園に行ったとき、そう感じた。
「とりあえず、花園に行って、ゴールドヘアーぶちのめせばいいんだろう」
これは、もちろんマックスである。
まったく、そのとおりなのだが、これは、もはや戦争である。
「じゃ、とっとと花園神社いこうぜ。俺たちがぶちのめせば死人が少なくなる」
もはや賽は投げられた、か。
「決戦花園神社か」
そうシンがつぶやいた。




