出陣
長い髪を後ろに束ねて、夏生は鬼切丸を腰に差し「シン、まずは何処から行く?」
シンはちょっと間を置いて言った。
「区役所通りを突っ切りましょう」
え! それって思い切り危ないんじゃないか?
「そうです、そう皆考える。こんな日に、例えばキャバクラに行こうとするのは馬鹿だと。まあ本当に居たら、豪傑でしょうね。金髪軍団の数は、自衛隊の数より少ないはず。壕が無ければ、彼らは西武新宿駅とホテルで籠城しかありません。だから普段人気の無いところに人数を配置する」
「なるほど、繁華街は真っ暗、だから眼さえあれば突っ切れるか」と夏生。
「では、私が目になればいいんですね」と雅。
「ああ」と頷くシン。
夏生が勢いよく言った。
「これは戦争よ、ゲームじゃない。良いわね」
三人はドリームステージを出て、まさに戦争のステージに上がった。
階段を使って、静かに上がる。すると目の前にがれきが散乱していた。
「なるほど、このビルの上部を爆破したんですね」とシン。
「中に人が居たかな?」と雅。
シンが難しい顔になった。
「それは考えてもしようがないので、考えないことにしましょう」
これが戦争か。
三人は静かに、道路に踏み込むと、区役所通りを雅を先頭に区役所に向かう。まあ雅はもちろんだが、他の二人の足音がしない。この二人は化け物(雅が一番化け物)か。
するとバッテイングセンターの立つ道の右側から三人の金髪が現れた。こっちも驚いたが、相手がまあ「おおお」と叫んだ。肩に掛けたマシンガンを向けようとするが。雅が一発、拳を金髪の顎に、夏生が刃の閃光のひらめきで、シンはおそらく催眠で三人を地に這わせた。
だが、驚いたのはバッティングセンターの明かりが消えていない、且つ確かにボールを撃つ音が聞こえる―客がいるということだ。まあゴールデン街とともに畏るべし新宿歌舞伎町である。
だが、ホストやキャバクラの灯は消えていた。客の来ようがないから仕方が無い。ホストやキャバ嬢の何人かはビルに閉じこもりだろう。上部を吹っ飛ばされたビルで生きている人間は、当たり前だが下の店に移動せざるを得ないだろう。そして風林会館の交差点を右に折れると、ここからは多分、金髪のエリア内である。花道通りというのだが、まあスカウトやキャッチが入り乱れる場所だが、今はただの通りである。そして何か通常の夏の日より涼しい感じがする。戦争が始まって、あの殺人的な暑さが消えた。なんという皮肉か。
花道通りをまっすぐ行くと西武新宿線に沿った通りにぶつかる。が
「馬鹿正直にそこに突き進んだら、マシンガンの餌食だろう。ここは左折して東宝会館方面に出る」とシンが言った。なるほど。
だがTOHO前に出て雅は仰天した。そこには少女たちが輪になって、飲食している。いわゆるTOHOキッズである。絶対に十代が多いが、ここの現実が彼女たちには戦場と分かっているのか?
「君たち、ここは危ないよ、建物の中に入った方が良い」とシンが近づくと、
「キャー、お兄さん、めっちゃ綺麗。肌なんて。こんなに白い!!!」
この一声は大きかった。たちまちシンの周りに人垣ができた。たちまち高鳴るスマホのシャッター音
「弱ったな」と難しい顔になるシン。悟りすました普段とはまったく異なる表情に、こいつも人間だと雅は思った。
「きゃーこれ被るとエモいんじゃねー」と言うと少女たちは金髪のかつらを持ち出した。
「名前なんていうの」と少女が問う。
「…・シン」
「きゃあ、シン様」
夏生が雅に近づいて、笑って言った。
「ねえ、あのかつら使えるんじゃない」
右往左往するシンの姿を見ながら、雅もにんまりした。
「キャー王子様!!」
ゴールドヘアーのシンはまったく似合いすぎだった。
「あとは衣装と武器ね」と夏生が言った。
少女たちをいったん付近のラブホに避難させた。協力的なホテルもあったが、非協力なホテルには、容赦なく夏生の刀の切っ先が、支配人の喉に伸びた。すると一転協力的になった。これを脅迫と言う。
「あとは私が銃と服を持ってくる。ここで待って」と夏生はホテルVENUSから外に出た。
「銃と衣装が調達できたら、どうする?」と雅はシンに聞いた。
シンは多分と言った。
「多分、彼らは人質が欲しいはず。だが、いっぺんに百人を拘束できるはずもない。殺すにせよ、解放するにせよ、そうなったら補充が必要だ」
こういう凄い話をシレーと話すのがシンと言う人物を知るうえで重要だ。
そして、しばらくすると、夏生がマシンガンと、青のつなぎ服を持って、帰ってきた。本来の持ち主がどうなったかは詮索しない。
シンが金髪で青つなぎを着るとそれなりに見える。
すると夏生が、手錠を二つ出して、「これで私たちが囚人になる」
なるほど、
「最も、こんなもん役に立たないけどね」
せーので夏生が手錠を引っ張った。するとプッツン、輪は離れた。
「これは……」さすがのシンも驚いたようだ。
夏生が之たまわった。
「あたし、バイトでSM嬢やってるんだ、もちろんSね、そこら辺の親父を鞭で叩いたり、ろうそくとか、いろいろね、で、こんなもん持ってるわけ」
にわかに信じがたい話ではあるが、夏生ならやりかねない。
「雅」と手錠をひとつ投げる。
雅は手錠を自らの手にはめた。
「それじゃ行くわよ」と夏生。
雅はきっと前を見た。行く先は西武新宿線。
雅が先頭に、夏生、シンが続く。
「そういえば、シンに聞きたかったことがあったわね」
「何?」とシン。
「あんたが、ここまで、この世界に入り込んだのは何故?」
シンは答えた。
「「リョウが、堂々と、テレビ画面に現れたからだ。あいつは今回自分がこの歌舞伎町戦争に関わっていることを隠さない、ならば僕もあいつと対峙する」
「なるほどね、でもリョウの意図がいまいち分からない」
「あいつは本当に革命を目指しているのかもしれない」
「何故そう思うの?」
「この世界にあって、まだ革命は有効なのかもしれない。ただ、それが、この世界が不完全だということだと逆証明される。それこそがリョウの狙いなのかもしれない」
「シンは何故そこまでリョウを気にするの?」
「彼は言った。リョウと言う存在は、僕がこの世界に来たことによって生じたと。これが最大の謎だ。多世界宇宙は、因果関係はあっても、個別に発展するはずなんだ。僕が原因で何かが生じることは、あり得ない」
「難しいわね」
「波を考えてくれ、波は干渉しあっているが、波は波には変わらない。ひとつの波は、さほど問題にならないと考えて僕は送られた。だが、それが間違いだとしたら。新しい理論が必要だ。リョウが本当に何者か、僕は確かめる必要がある」
「つまり、あなたが来たことでリョウが生まれたってこと? そんなのSFじゃないの」と雅
夏生は笑った。
「さっぱり分からないけど、まあ人には他人には分からない事情があるってことね」
シンも笑った。
「まあ、そういうこと」




