参上、美那月雅
駅の階段の中ごろに座ったマサは空が夕陽に変わってゆくのを見ていた。確実に空が陰って来た。そろそろかな。コンクリートの階段に臀部が痛くなってきた。さて今日は三日月か満月か。マサはゆっくり立ち上がった。そして数刻の後、都営大江戸線東新宿二番出口から、彗星の如く出現した物体が飛び出した。彗星の如き光は一気に星々と三日月の夜空を疾走し、新宿風林会館の上空に止まった。そして長く艶やかな髪と、きらり光る瞳で真下の風林会館を見ながら美那月雅は微笑んだ。
この時、地上から真上を見ていた人間は、さぞびっくりしたことだろう。当たり前だが、通常人間は宙に浮かぶことはできない。
だが、宙にいる雅がはるか遠くに目をやった。この微かな音、来た。自衛隊のヘリコプター団に違いない。
だが、その時、歌舞伎町全体にサイレンが鳴り渡った。地方都市によくあるように市役所からの広報で流すようなシステムを金髪軍団は作ったのだろう。警報のようなものだ。
そしてサイレンの後に男の声が響く。
「自衛隊の諸君に告ぐ、自衛隊のヘリコプターが歌舞伎町に到着すれば、我々は人質を十人射殺する。これはブラフではない。我々はやると言ったことは必ず実行する。持って銘記せよ。我々は革命軍であるが、やむなく人質を殺したくない。再度通告する。ヘリコプターを近づけるな」
なるほど、だが、いやに対応が速いな。風林会館からは、まだヘリコプターは見えない。いったいどうやってその存在を探知したのか?
では、ドリームステージに夏生と多分シンが居るだろうから、合流するか、とは言っても、このまま歌舞伎町のど真ん中に降りたら、大騒ぎになるだろうから、まずは花園神社の上に行き、林の中に降りる方がいいだろう。その方が街の様子をこっそり見られるかもしれない。
雅は再び光の疾走になって、花園神社上空に達し、素早く林の中に降り立った。予想どおり、人気は無い、当たり前だ、戦争のさなかに神社に夜、人は来ない。
そっと林を抜け、本殿に繋がる階段を上り、裏口へと進む。この裏口には交番があったが、やはり閉店中だった。
だが、ゴールデン街の看板が見えた時、ほとんどの店に灯がともっていたことには仰天した。恐るべしゴールデン街。
だが全体的に街は閑散としていた。おそらく日本一であろう繁華街に人はほとんど見えず、上部が消し飛んだビルもある。まさに戦争である。金髪軍団は西武線か靖国どおりを挟んで自衛隊とにらみ合っているだろうから、この区役所通りの東側には、あまり配置されていないだろう。
すると、雅に不幸なのか、金髪が不幸なのか、まあ金髪が一人だったから、金髪が不幸なのだろう、なので右回し蹴りの一瞬で、不幸な金髪は地に落ちた。
「あんた。遅いよ」とのたまわったのは夏生。
「待ってたぞ」とボソと言ったシン。
夏生は白の小袖に紺袴で右手に鬼切丸を握っている。もうやる気満々、うずうずしている。
シンが冷静に、
「マックスと景子先生が人質の可能性がある」と言うと、
「何故?」と雅が聞く。
「まず、昨日朝ここを出て、新宿駅に向かった時間を考えると、まず新宿駅でストップされたのは間違いない。そして二人が西武線に向かった可能性が高い。マックスは練馬に家があるから中井から大江戸線経由で練馬に行ける。また景子先生も練馬に行って逆に池袋に出て、丸の内線に乗って本郷三丁目に行ける。おそらくタクシーなどは何時間もかかる」
「まあどんぴしゃに合っちゃった、かもしれない」と夏生
「それに、まったく景子に連絡が取れないし、マックスもそう」と夏生が続けた。
なるほど。
「では、西武の駅に行くんですね」と雅は言った
「ああ、このままここに籠っていても、意味が無い」とシン。
雅は「外は閑散としています。ママの恰好では目立ちます」
「馬鹿ね、今、繁華街は真っ暗よ。もともと歌舞伎町には街灯が少ない。そんなの無くても夜も光っている、けど」と夏生
「今はネオンサインが無い。だから夜を待った」とシン。
「多分金髪軍団は街が暗い方が良いはずよ」
「何故?」と雅が聞く。
「パラシュート部隊が来るからだ。だから地上を真っ暗にする」とシン。
なるほど。
「ゴールデン街は明るかったです」
「あそこは、もともと変な街なのよ」
「だから、すばやく闇の中を行かなければならない。雅が目になってくれ。できるだろう。そして、職安通りに出るか、逆に区役所通りに行くか」とシンが言うと、
「職安通りは行かない方が良い」と雅。
「何故?」
「大江戸線の東新宿を自衛隊が抑えた。だから金髪もそっちに行かざるを得ない」
「そうか、自衛隊も行動が速いな」
「まあ、先遣隊が占拠したから、本隊が来るはず」
「そうか、では必ず金髪軍団と自衛隊が対峙するな」
「マサが居なければ全滅したでしょうけど」
「どういうことだ?」
雅は大江戸線の中で起こったことを話した。
「なるほどマサが超能力か、まったく君たちのポテンシャルは大きいな」
すると、夏生が、
「ならば、歌舞伎町を突破するってことね」と言うと、
「やっぱりママは乱世の人だな」とシン。
「そういうこと、あんたたち行くわよ!




