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突入せよ、SAT

 薄明かりが確かに見える。まず駅には違いないだろう、が問題は光の向こうに何があるかだ。

 すると、SATの清水が佐伯に言った。

「壁を崩せますか?」

「そうだな」と佐伯はひび割れの壁からもれる光を見ながら、

「うーん、崩せんでもないな。工兵! 見てみろ」

 するとシャベルを持った自衛隊員が壁に向かって、トントンとシャベルで壁を叩く。

「これは崩れます、明かりの様子から、向こうは何かの施設かと」

「つまりプラットホームか」

「はい、その可能性はあります」

 すると、清水が言った。

「私らが先に行きましょう」

「何故だ?」と佐伯。

「我々の方が装備が軽い、だから先遣隊としては我々の方が良い」

「壁の向こうに敵が居るかもしれんぞ、お前ら特攻隊になるつもりか」

「誰にしろやらなければならない、なら行動が速い我々の方が良い」


 佐伯は難しい顔になった。こういう前線の指揮官というのは決断が仕事である。清水の言っていることは正しい、重武装の自衛官より比較的装備の軽いSATの方が先になにがあるか分からない状況では動きやすいが、かなり危険だな、しかし、これは戦争だ。つまり犠牲者無しはあり得ない。

「工兵! 壁を崩せ、なるべく早くやれ、崩れたと同時にSATは左右に散れ、自衛隊は援護射撃、まちがってもSATを撃つなよ」

 清水が、

「SAT集合」


 SATが清水のもとに集まった。

「壁が崩れ次第左右に散れ、そうすれば必ず攻撃が来る。相手の位置を確定するのが我々の任務だ。訓練で嫌というほどやってるだろ。簡単なミッションだ。気楽にやれ」

 マサは我慢できなくて言った。

「俺にまかせてくれませんか」

 佐伯がジロッとマサを見た。

「マサ、お前自身が言ったではないか、二度できるかどうか分からないと。そんな、あやふやな力をあてにはできない。あんたは民間人だ。引っ込んでくれ。マサ、お前は自分自身を守れ」

 どうやら大日本帝国以来、日本軍の前線司令官は優秀らしい。

「工兵、壁を崩せ」

 三人の自衛隊員が壁に手を立てて言った。

「これはかなり脆くなっていますな。速くここを出ないとこの空間自体がくずれるかもしれません。速くしないと」

「では速やかにやれ」

「ハ!」

三人が鉄槌でドンドンと壁を叩く。崩れる壁。「隊長!」

「何だ」

「前の空間がかなり広くなります。一気に崩れるかと」

「ようし、清水、がれきに穴が開いたら、一気に左右に散れ、同時に、小銃発射」

 ドン、ドン、ドン 「崩れるぞ」と三人が言うと、がらがらと石が降ってきた。

「おい、前に壁を倒せ!」と工兵の一人が叫ぶ。確かにこっち側に崩れたら、いったん後退しなければならない。そこにマシンガンの弾が飛んで来たら、目も当てられない。

「よーし崩れるぞ!」三人がどんと壁に体当たり。


 ズ、ズ、ズと壁が揺れ始めた。

「崩れるぞ、SATいいか」と佐伯が叫んだ。

「SATよし!」

 ズズズズズズズズズ、ゴオオオオオオ!!、

大音響で壁が崩れてゆく。

「SAT突入!」清水らがすばやく壁の向こうに飛び散る。

「自衛隊小銃発射!」

 たちまち阿鼻叫喚の様相を呈した。

 バンバンバンバンバンバンバン!!!! ダダダダダダダダダダダダダダ!!!!「閃光手榴弾を投げろ」と清水が言った瞬間、清水の足ががくんと崩れた。右足に弾が命中したのだ。

「隊長」と一人が駆け寄るが、

「馬鹿野郎、速く投げろ!」

 次の瞬間、空間が光に満ちた。

「ようし突撃!!行くぞ」佐伯が飛び出ると。マシンガンを撃ちまくる。そして穴から自衛隊員が次々と外に出る。

 ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ドカーン! と爆発音。

 勝負は一瞬で決まった。

 煙が晴れて、プラットホームが見えるようになると、そこには十人くらいの身体が横たわっていた。どうやら金髪の何人かは逃げたらしい。


 佐伯は「おい、生きている奴いるか」

 SATの何人かと金髪の何人かがうめき声をあげた。

「よし、衛生兵、見てやれ」

「敵もですか?」

「馬鹿野郎、戦闘は終った。同じ日本人だぞ」

「ハ!」

 すると 清水が床に座り、膝の失血点を手拭いで縛っていた。

「おい、大丈夫か?」と佐伯が言うと、

「弾が貫通したようで、やばいかもしれません」

「馬鹿野郎、しっかりしろ、戦争は始まったばかりだぞ。おい衛生兵の一人来られるか、けが人を見ろ」

「すいません、怪我してしまって」と清水が言うと、

「お前らのおかげで、ここを橋頭堡にできるぞ」と佐伯が清水の肩を叩いて言った・

「ここだけではだめでしょう」

「もちろんだ、だが、この一歩は大きいぞ。武力では自衛隊が圧倒しているが、なんせ歌舞伎町の中に居る人たちを盾にされたらたまらん。ミサイルぶちこめなどと言う政治家がいるが、大バカ者だ。国民をなんだと思っているんだ」


 清水がふっと笑った。

「何が可笑しい?」

「いや、日本軍というのは相変わらず最前線に優秀な軍人を送る癖があるようですな」

 マサはこの光景をじっと見ていた。これが戦闘、戦争、ハっ! 人類が凝りもせずに繰り返す悪行。

 戦争を命令した奴を絶対最前線に送ったら、戦争はすぐに終わるだろう。だが絶対そうならない。

 それにしても軍隊というのは、完結した組織だ。戦闘と生活のサイクルが完結している。戦闘兵、衛生兵、工作兵と役割分担が完全なのだ。

「よーし本部に連絡、我、地下鉄・東新宿プラットフォームを制圧」

 マサが佐伯に、

「私はここから、地上に出たいのですが」

 佐伯は目をみはって、

「おい、地上に何があるか分からんぞ。金髪が銃を構えているかもしれん」

「分かってます、が、まず私は自衛隊には見えないはず」

「だが、地上に出たとたん、バン! かもしれんぞ」

「ハハ、私、そういうの得意なんですよ。今すぐには出ません、夜を待って出ますよ。佐伯さんは自衛隊の任務に集中してください」


 そう雅になったら無敵だ。だがそれを自衛隊に見られたくなかった。

 佐伯はしばらく、マサの顔を見ていたが「フッ、お前変わってるな、好きにしろ」

「はい」

 マサは地下鉄の階段に向かった。

「マサ、死ぬなよ」と佐伯の声がマサの背中にかかった。

「押忍」


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