計画
その時、黙っていた少女の父親らしき男が言った。
「私は田中一郎と申しますが、これはさくら、娘は明美といいますが、私たちも一緒にいていいですか、私どもは何もとりえがないですが」
マックスが言った「おじさん持ってるじゃん」
「え? 何を?」
「運だよ、こんな状況をここまで生き抜くなんて、運を持っている。それとおいらたちにあったことも運がいい、おいらの名はマックス、あの美人のおばさんは高原景子」
だれがおばさんじゃ!とココロの内に思いながら、景子はにっこりして言った。
「そう、ここで必要なのは運。ここまで生き残れた全員運がいい。だから脱出しましょう。みんなで」と景子。
マックスが廊下に出て、305号室のドアを開けた。従業員エレベーターから一番近い部屋に皆隠れることにした
景子は「さて作戦会議です」
塚田が「ぼくはここから一番遠い部屋にダミーをおくことを考えています」
ダミーね。
「僕が、金髪のかつらを被って、仲間のふりをします。そして、この階に仲間を連れてきます」
「おいおい、あの金髪はかつらかよ」とマックス。
「かつらと地毛両方です。私が仲間のふりをして、一番遠い309号に誘導します。その隙に、この305号から皆さんは出て、エレベーターに乗って、一気に地下二階に行く。あいつらの参謀は多分頭は切れるが、あとの兵隊はぼんくらヤンキーです。どうとでもなる」
うーん勇敢さは認めるが、塚田君は助からないだろう。もうちょっと慎重になった方が良いのでは。
「私が爆弾を仕掛けて、爆発に乗じて、塚田君といっしょに逃げるというのはどうですか」と清原さんが凄いことを言った。
爆弾! そんなものどうやって調達するというのか。
清原さんは笑って言った。
「私たちは清掃員ですよ」
すると清掃の女性が言った。
「宮田と言いますが、私たちの使っているのはアルカリ性洗浄液です」
「本田と言います。私たちに会社が口を酸っぱく言うのは、洗剤の取り扱いです。アルカリ洗浄液は、密閉状態に置くと、一定の時間で水素を発します。水素が圧迫されるとドカン、例えばたとえばトイレ用の洗剤のボトル、あれを密閉して五分放置すれば、もう爆発寸前です」
「なるほど」
本田さんは「正解」と言った。
ここで清掃員と出くわしたのは、まったくのラッキーだ。小説や漫画にこんな場面書いたらボツであろう。
「私らは洗剤の処理は慣れている。爆弾づくりは私らでやります」
「だったらさ、塚田君と私が囮ってことで」と若林さん。
「何で?」と塚田。
「あんた一人では無理っしょ」
「何でだよ」
「あんた足遅いじゃん、ボクサーのくせに」
「ちぇ!」
すると景子が言った。
「ちょっとまとめよう、まず爆弾だけど、ここにある材料で、どれくらいのものが作れるか」
清原さんが、応えた。
「ここには、洗剤を入れて、爆発させる容器がありません」
「どのくらいの容器がいいんですか」
「そうですね、ペットボトルの大きさの、金属製の筒があれば」
「誰か持っていますか?」
少女が手を上げた。
「私持ってます」
「本当?」
「部屋の中に、プラスチックの大きなボトルです。三つあります」
んー部屋の中か。
「私が取ってきます」
「明美ちゃん、外はかなり危険なのよ」
「分かってます。けど、誰かが取りに行かないと、お父さんは足が遅いし、お母さんは論外、となると私が行かないと」
マックスが「待って、おいらが行くよ。部屋ナンバーは?」
「705です。でもペットボトルがあるのは私のバックの中です」
「だったら明美ちゃんのバックごと持ってくるよ」
「部屋の中はめちゃくちゃです。一人で探すには時間がかかると思います。マックスさんと私とで行った方が速い」
んー難題だな。明美の言っていることは正論だ。だが、外はまさに修羅場だ。そんなところに少女を行かせるのは無茶だ。が、少女の言葉も正しいが。
「娘を信じてやってくれませんか」と田中一郎が言った。景子はえ? と思った。
「いいんですか、かなり危険ですよ」
父親は言った。
「私は平凡な人間です。しかし娘は、全国中学選抜に選ばれたエリートです。私らの誇りです」
「だったら、なおさら止めさせるべきでは?」
「私は平凡な人間ですが、一回や二回、もうだめだという修羅場がありました。人生には逃げてはならないときが必ずある、もし娘の行動が、ここにいる人間を救うのなら私はとめません」
平凡だと思っていた田中一郎が、この修羅場で腹をくくっている。生きのこるためには、何でもやるか。
「ただ、娘には死んでほしくは無い」
皆シーンとなった、一人を除いて。
「おっさん、まかしとけって、おいらが明美ちゃんを絶対守る」とマックス。
戦士は楽観主義か。
「見たところ、あいつら個人は大したことない。全中の選手なら、絶対明美ちゃんの方が運動能力は上、あいつらには明美ちゃんを捕まえられない」
「なら、爆弾を取りにいくという前提で、作戦を考えましょう。これは総力戦よ。爆弾班を除いて、絶対に明美ちゃんを守る、いい」
「異議なし」と田中一郎。
田中一郎は腹をくくったな。結局誰か犠牲になったら、明美の生存確率は低くなる。マックスが失敗したら、我々の生存確率は低くなるのだ。
「まず先頭にマックス、次に清美ちゃん、その後ろに若林さん、そして私、しんがりは塚田君、で、どう?」
皆無言だ。
「この部隊が全員そろって帰れる保証は無い。どうする、やる、やらない?」
「清美ちゃんを守ろう」と若林。
「とにかく何かやらないと助からない」と塚田。
「私らもそこらにペットボトルを探します」と清原。
その時、ドオオオオオと爆発音が聞こえた。
皆、窓に集まった。
「あれ、自衛隊じゃないか」と清原。
「日章旗が見える。自衛隊だ」と塚田。
装甲装輪車だ、ついに出てきたか。これはついてるぞ。敵は外に目を向けている、今がチャンスだ。
「皆、やるなら今よ」
「おう」と塚田が頷く。
「やろう」と若林。
「マックス、外を見てきて、敵がいれば、いったん待機、居なければ一挙に階段を上るわよ、マックス見てきて」と景子。
「承知」と短く言って、マックスは外に出た。




