半グレのリーダー?
まあ、銀髪君も、れっきとした(?)東大の先生の部屋に閉じ込められるとは思っていなかっただろう。私だけなら問題だが、そこに大男四人が銀髪君を締め上げていることは大問題だ。だが、現実だ。景子は銀髪君に少し同情した。少しだが。
パイプ椅子に座った銀髪君がかろうじて、突っ張っているのは雌がいるからだろう。だが、獰猛な雄は許してくれない。岩尾は腕組をして銀髪を見下ろした。
「おい、銀髪」
「な、なんだよ」まあ震えているな、かわいそう。
「まず名乗れ」
「は?」
「ばかやろう!!名前言え!!」
「す、鈴木勇です」
「ふーん、鈴木勇くん。あれを見ろ」とを指した。
佐藤は10円玉を手のひらに乗せて、皆に見せた。
そして開いた手を10円玉ごと握った。グッと力が入る。そして再び開いた手の平に折れ曲がった10円玉があった。
! こ、これは、景子は驚いた。空手と言うのはこんなにすごいのか。
「にいちゃんの鼻、同じにしてほしいか、してほしくないか?」
そう、言われたら、
「ひえーほしくないです」と言うに決まっている。この人たち怖すぎる。まあ景子は大学の教員だから、この手の暴力には基本的に無縁だ。ただし上役のパワハラは別だが。真武会には本物の暴力がある。
「鈴木勇くん、職業は?」
「ハっ? 何で」
「ばかやろう、身元確認してんだろうが」
「あんたがカタギなら、勘弁してやってもいいんだがな」と榊
「もし、ヤクザなら、警察呼ぶぞ」と佐藤。
「ヤクザならあんたら怖くないのか」と震えながら鈴木勇が聞いた。
岩尾がにやっと笑った。
「お前、真武会が、そこらへんの空手道場と思ってるんなら、そりゃあ間違いだぜ。日本国内に四百万、海外に二百万の会員がいるんだ、そりゃ、警察から検事、弁護士までいる。こんな組織が、ヤクザにビビると思うか? お前、喧嘩を売る相手が違うぜ」
鈴木勇は、岩尾に完全にビビった。まあ、普通はそうなるだろう。
「新宿でスカウトやってます」
「ほう、スカウト、具体的には」
「歌舞伎町で歩いている女の子に職業あっせんやっています」
岩倉は鈴木勇の胸倉をつかんだ。
「それ、違法じゃないだろうな」
「ち、ちがいますよ、身分証見せてもらって、十八歳以上確認しています。女の方だって、どこに行けば職業紹介されるか知っていて来るんですよ。そうじゃなければ、女は立ち止まりません」
なるほど、需要と供給か。景子は妙に納得した。
「店の名は、チラシかなんか持ってんだろ」
すると鈴木勇はスマートフォンの画面を見せた。ハハ、やっぱ紙は無いよね。そしてそこには、スカウト・ナルシスという微妙な名前が見えた。
佐藤「ナルシスねえ」
榊「変な名だ」
西原「まったく」
岩尾が「で、何で、金属バット持って、東大構内に入り込んで、どういうつもりだ」
鈴木勇は「ごにょごにょ」
岩尾「何! はっきりしろ!!耳千切るぞ!!」
鈴木勇「ひえ勘弁してください、男を四人ボコって、女をさらってこいって言われたんです」
さらわれるところだったのか。さらわれて、どうされるか考えないようにしよう。だが、女は男に究極的には暴力で適わない。
「ほう、誰に言われたんだ?」
岩尾の問いに、鈴木勇は「そ、それは」皆の眼が鈴木勇を射抜いている。
岩尾は鈴木勇の耳を握った。もはや拷問である。
耳を握られて、条件反射的に鈴木勇は「店長に言われたんですう!」
ほう、ナルシスの店長。あいにく景子はスカウントマンに知り合いはいない。
「何故襲う?」
「知りません」
その時、榊が言った。
「おい、ナルシスってのは歌舞伎町か」
鈴木勇が答えた
「はい、そうです」
「そうか」と榊は何か考える風だった。
西原が聞く。
「何だ、何かあるのか?」
「いや、ナルシスって聞いたことがある」
「本当か?」と岩尾。
「ああ、俺は本業は新宿の歌舞伎町ではないが、三丁目のバーテンダーだ。そこで客から聞いたような……そうか!」
「何だ?」と聞く岩尾を無視して榊は鈴木勇に聞いた。
「お前、7.15のナルシスか」
鈴木勇がごにょごにょ口を開けたり、閉じたりした。
「おら!はっきりしろ、目ん玉潰すぞ」
彼もまたサディストだった。
「ひええええ!!!そうです、そのナルシスです」
岩尾が榊に聞く。
「何だ7.15って」
榊はゆっくり話し始めた。記憶を呼び起こしているのだろう。
「二年前の七月十五日、歌舞伎町、まあゴジラの周辺だわな。その辺に、いかにもという格好のヤクザの集団、約百名が突然現れた」
榊君、話の盛り上げが凄いね。にしても百名のヤクザとは、ただ事じゃないわね。景子は異世界のことだとは思った。
「百名のヤクザはいかにもスカウトマン、あるいはホスト風の若者をつかまえてボコり始めた「お前、フィチャーか」って問い詰めて、そうだと言っても、そうじゃないと言っても、まあ捕まったら一応ボコられたらしい。反撃する奴もいたらしいが、多勢に無勢、仲良く撃沈。結果から言えば無法だが、名札をつけていない以上、やくざも勢いでやったのだろう。機動隊が出動してようやく収まった」
「まあ、そのヤクザの話は分かったが、こいつの会社と何の関係があるというのか」と岩尾。
「まあ、順番に聞け、7・15の騒動の、そもそもの原因は、こいつらスカウトマンにある」
「そうなのか?」と西原。
「そうだ、こいつらスカウトマンのも仁義があってな。他社のスカウトを引き抜かない、だそうだ。スカウトマンってのは要は女に、あ、失礼女性」と榊は景子を見て言いなおした。
「フフ、良いわよ、女で、私いい女でしょ」
「はは、つまり女性を見る目、そしてキャバ嬢や風俗で働ける能力を育てる力が必要だ。こいつらにも資本主義が徹底されている。そんなスカウトになるためには時間も投資が必要だ。そうやって育てて、一人前にしたスカウトマンを横から引き抜いたら、やられた方は腹立つだろ。つまりフィチャ―がナルシスのスカウトマンを大量に引き抜いたのが、二年前の春だ」
「ははん、だいたい分かってきたぞ、つまりそのスカウト会社の裏に居るのが、半グレかヤクザか」と岩尾。
「そう、フィチャーとナルシスの背後には半グレ、そしてもっと奥にいるのがヤクザ」
「まあ暴対法のなせる業だな。ヤクザの地下組織化」と西原。
「そう、そして、二つのスカウト会社の背後にいるのはS組の三次団体」
岩尾が「ハッ?」と聞いた。
「フィチャーとナルシスが同じS組系列の組が裏にいるってことか」
「そうだ。フィチャーはA組、ナルシスB組、この二つの上に居るのがS組だってことだ」
「だったら、さっさと手打ちにするだろ」
「そう思うのはお前が「仁義なき戦い」に影響されているからだ。いまの半グレは、あの映画どころではない、やくざ顔負けの行動を起こす。手打ちの場でフィチャ―の社長、副社長は、組の幹部をフルボッコにしたから、まあ大変。S組の威信にかけて、フィーチャー潰しに表に出てきたわけだ」
半グレか、これは社会学的にいうとどういう存在なのかな。ちょうど戦争直後の日本の都会に、ヤクザでもない、一般人でもない若者がいたがそれに準じるかなと景子は思った。
「ただな、この抗争を裏で止めた人間がいるという話だ」
「どんな奴だ?」
榊はちょっと声を落とした。
「それがな、まだ若いアメリカ人と日本のハーフだそうだ。かなり金を持っているそうだ」
ハーフ? あれ私何か知ってるかも、何だろう?
これは夏生に聞いた方が良さそうだ。なんせ歌舞伎町に棲んでいるのだからと景子は思った。
四人の真武会の猛者が鈴木勇を立たせて「こいつ一応、画像撮って、名前を保存してください」とう言うので画像を撮ると、
「こいつが何か悪さしたら、拡散してください、今はそれが一番キツイ」
なるほど、景子は妙に納得した。
送って行くという岩尾に、
「いえ、まあ今日はここに泊まります、もう電車も無いので」と景子
そして、岩尾が鈴木勇の耳を引っ張りながら、四人は帰っていった




