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ストーカー

 マックスの試合の後はセミ・ファイナル、女子の柔道・東京オリンピックの金メダリスト・猪熊充子対女子レスリング東京オリンピック金メダルの・ジェシカ、ラングレイ、双方とも六十キロ契約。結果は判定によるドロー。

 ファイナル・マッチのブブカ・ロビンスキー・東京オリンピック・レスリングフリースタイル金メダル対マイク・フォンダ・現世界ヘビー級チャンピオンは意外にも、第一ラウンドで決した。マイクが左ボディストレートからの右フックでブブカをノックアウト、開始一分五十六秒のノックアウトである。結果を見ると、やっぱりボクシングかと思われがちだが、ブブカもマイクも多分判定は考えていなかったと思える。つまりどちらが自分の優位な形に持って行けるかの勝負であり、わずかにマイクの方が速かった、という勝負だった。


「なんか、濃いキャラばっかだったね」と景子

「私はオリバーと闘ったおっさん、気になるわ」と夏生

「へええ、どうして?」

「この大会で、唯一、手の内を見せなかったからよ」

「へええ、それで強いの?」

「オリバーにあんな勝ち方するなんて、ちょっと気になるわね、まあ面白いから良かったけど」

 雅はおっさんに、なんというか、あの人催眠術でも使うのかと思った。それも群衆も巻き込んで、そんな人いるのか?

 すると雅の頭の中から声がした。

「いるよ、そういう人、強いとか弱いとかではなく、まあオーラっていうのかな」

「そいつがあのマスクのおっさん」

「わかんねえ」

 そう言って雅の頭の中のマサは黙った。

「今のオリバーとマックス、どっちが強い?」と景子

「そりゃ、マックスよ」と夏生が断言した

「何故?」

「格闘技において、何が人を強くするか、互角に渡り合って勝ち取った、それもぎりぎりで勝ち取った一勝よ。多分オリバーはマックスに一生勝てないでしょうね」

 なるほどと雅は思った。

「さあ、マックスにお見舞いにいきましょ」と夏生が言うと、

「お見舞い?」と訝しげに景子が聞く。

「あいつ、絶対怪我している。それも多分腹部」

「そうね男にぶん殴られたのだから」

 雅もそう思う、腹部、もしかしたらアバラ骨も無事ではないかもしれない。まあ勝った方が怪我が酷そうだ。右ハイキック以外、日下はクリーンヒットはされてはいない。

という皆の危惧は当たっていた。


 控室で横たわるマックスの腹にぐるぐる巻きの包帯が見えた。

「ハハ、アバラ骨の何本かひびが入ってるみたいだ。今車で病院に行って、精密検査しろって、ハハ」

 まあヒビで良かったと思った方が良いだろう。

「頭も見てもらうのよ、ヘッドギアでもかなり撃たれていたから」と景子が命令した。

「はいはい」


 雅はほっとした。ともかくも無事そうで良かった。それにしても、マックスと日下、あれはやっぱり男対女というよりは人間の存在を賭けた闘いというべきだろう。日下は女に負けたのではない。マックスという闘技者に負けたのだ。もっと言えばルールに負けた。良くある話だ。日下には、非難が起きるだろうが、恥をかいたとは思わないでほしい。包帯を巻かれて、病院に行くのはマックスの方なのだ。日下にはこれをバネにして世界を取ってほしい。

 有明アリーナを出ると、三日月が煌々と天中に輝いていた。風もおさまり、しんとした冷たい冬の空間。

 ふと雅は国際展示場駅に向かう足を止め、有明の優美な曲線を眺めた。

 すると、

 頭の中で「雅」と囁かれた。マサではない。

 そして見た。ダークスーツに緩やかな灰色の髪、鋭い目と紅い唇。その男がアリーナの屋根に立っていた。

 雅は呟いた「リョウ」と。


 その日ドリームステージにお馴染みのメンバーが集って話していた。一応言っとくが国家転覆の悪だくみでは無い。

「ふーん、こいつは気持ち悪いよね、女とてしては」

 夏生が十枚の写真を手に取って順番に見ながら、つぶやいた。

「あのねえ、あんた、写真自体を気持ち悪いって言ってんじゃないでしょうねえ」と景子がふんと息を吐いて言った。

「ハハ、いやあ、被写体は綺麗なお嬢さんですよ、いやあ全く、お綺麗で、でもねえちょっととうが立っているというかな、なんてえ」

「あんたね」


 するとシンが横から写真をじっと見た。シンはしばらく店に顔を出していなかったが、一週間前から店に帰ってきた。夏生はシンをトガメダテしなかったので、これは両者合意のものと思われる。シンは写真を見ながら言った。

「これは撮った者の、失礼ですが、かなり景子さんに対する執着が感じられます。性的なものも含めて」

「写真から分かるのかい?」とマックス、有明アリーナの試合後、医者に十日間安静に、と言われたそうだが、今日は、あれから四日後である。まあマックスは、そんなもんだろう。


シンはじっと写真を見ながら言った。

「撮っている角度が同じです。遠近はばらばらですが、ほぼ左右の横顔です。これ以上は言いませんが、こういうのが送られたというのは充分に危険です。だが多分警察は、これでは動けないと言ったのでしょう」


 景子は頷いた。

「まあ、警察と言うのは犯罪が起きてから動く商売だから、この写真だけで動け、というのもできないのよね。もし、偶然判明しても、下着ドロにもならない」

 夏生が真面目な顔になった。

「まあ、景子が最終手段を持っているにしても、むやみやたらに使うわけにもいかない」

 シンが、

「作戦はあるんですがね」と頭を掻いた


 景子が聞いた。

「どんな?」

「用心棒を雇う」

「へえ、ボディガードってわけ、で、どこにいるの? ガードマン」

 シンが雅を見た。え! 私?

「真武会の猛者たち」


 なるほど、だから私か、だってさマサ。

「いやああ、まあ、良いアイデアではあるな」とマサが雅の頭の中で言った。もちろん雅以外は聞こえないが。

「マサは悪くはなさそうだけど。具体的には?」と雅はシンに聞いた。

「朝はマサが大学まで付いてゆく。夜は真武会の猛者が送っていく」

 夏生が口を開いた。

「待って、マサは昼間だし一人で良いけど、夜は複数人」

 シンが頷いた。

「いいでしょう、とにかく相手が尻尾を出すまで、様子を見る。一番良いのは、あきらめてくれることだが、盗撮までやる人間、それも相手に写真を送り付けるなどという人間が、そう簡単にはあきらめないと思った方が良い」

「ああ、美しさは罪よねえ」と景子。

「あんたねえ」と夏生。

「分かってるわよ、これでも怖いのよ、本当は」


 皆シーンとなった。

 シンが、

「僕も大学あたりを調べてみよう」

 皆黙って頷いた。

 雅はシンに心の中で聞いた。

「これは、またリョウの仕業?」

 シンは、

「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」と答えた。


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