試合開始
すると、虎の口から、黒人が現れた、180ch、90kというところか。
「虎の口、オランダチャンピオン・キックボクサー、ジョン、スペンサー」
龍の口からも人が現れた
「龍の口、全米チャンピオン、ボクサー、ロバート、デュバル」
同じく黒人、身長はジョンより少し低い、が、体は細身だ。ヘビー級ではないだろうからミドル級か、するとスピードはあるかと雅は思った。
「キックとボクシングで、ボクシング結構負けてるよね」と景子
「ボクシングは蹴りを想定してないからね、それもハイキックやミドルキックは逃げられても、あの地味なローキックが厄介なのよ」と夏生。
「でもさ、それが分かっているなら、何とか対策があるかもしれないじゃない」
「正解。なんたって全米チャンプだからね、ローに対応できるなら、ボクサーのスピードはキックより速い」
「ローに対応って何よ?」
「知らない、私ボクサーじゃないから」
「あんたねえ」
するとリングにレフリーが上がり、両者を呼んだ。
マイクで「かみつき、目つぶし、金的、凶器以外なんでもあり」
そして「レディゴー、、、、、、ファイト!!!!」
ジョンがややアップライトに構え、ロバートがサウスポーだ。
「へええええ、サウスポーか面白いわね」と夏生。
「何でよ?」と景子が聞く。
「もしロバートの利き腕が左なら、あのスタイルで、ジョンの右キックに対応しやすい、まあ、左パンチがどのくらいのもんかにかかっているけどね」と答える夏生
ジョンがすり足気味で、前に出ると、ロバートは軽く、足を素早く動かしながら、やや右回りに動く。ロバートはまだガードをしていない
「ロバートはスーパーウエルター級かも、だったらやはりパンチ力が問題ね」と夏生
両者ともボクサーグローブだ。やはりこれは打撃勝負かかと雅は思った。
「でも、そんなに体重差って重要? 軽くても早ければいいじゃない」と景子
景子さん分かってないなと雅は思う。格闘技において、体重差は最も重要だ。重い方が強いから、体重別にしているのだ。エネルギーは物質の重さに比例する。人間の場合、そう簡単には言えないが、やはり体重は重要だ。
ロバートは少しスピードを上げて、ジョンの周りをまわっている。
「シュッ」とジョンがローキックを放った。が、次の瞬間、ロバートの左が、瞬時にジョンのテンプルに飛んで行く。右蹴りを放った直後、ジョンの顎は守られていたが、テンプルはわずかに開いている、ロバートは正確にそこに当てに来た。テンプルには力はいらない。中学生でも大人をノックアウトできる部分だ。ようはスピードとタイミングだ。瞬時にジョンは後ろ脚で逃げたが「当たった」と夏生がつぶやいた。雅は見えなかったが、確かに、ジョンは僅かに揺れた。
これで、容易にローを出せなくなった。幾多のボクサーの経験が左フックを生んだというわけだ。
「さてジョンはどう出るかね」
「ローは出せないんでしょ」
「いやローを餌にして、左を出させて、ロバートの左顎をカウンターで狙うとか、って言っても、キックって、乱打戦に持ち込めばいいんだけどね、ボクサー脳はチェスみたいなとこあるからね」
するとジョンは思い切って、右ミドルキックを放った。狙いはロバートの左腕。まあジョンも考えているな、と思ったら、ロバートが同時に右ミドルキックを出した。
「あちゃー、これは思い切ったわね」と夏生が感嘆する・
「ロバートの方がいろいろ策がありそうね」と景子
「策に溺れなければいいけど」
「そうね、まったく、一番怖いのは開き直って出る奴だから」
ロバートはやはりキックがボクサーに強いのを理解しているようだと雅は思う。
これで相手の狙いが両者分かった。やはり問題は左だ。所詮ボクシング技術はロバートの方が上、蹴りのアドバンテージをロバートは少なくしてしまった。と言っても、ロバートのパンチはどんなもんかだが、ここで重そうなジョンの体重差が物を言う。キックでも、きれいに当たる蹴りでKOはあまりない。蹴りでガードを粉砕して、パンチで仕留める場合が多い。特にこの試合、ジョンは体格差を利用して、乱打戦に持ち込めばまずジョンの勝ち。ただロバートも足の速さというアドバンテージがある。
すると景子がスマホを見ながら言った。
「あのロバートとか言うボクサー、真武会空手の黒帯よ」
「え?」雅と夏生は顔を見合わせた。
「まったく何でも検索できちゃうんだから、すごいわよね」
ということは、あれは本物の蹴り?」
「まあジョンが知っているかどうかね?」と夏生。
これは雅も驚いた。
リング上では、一応相手の手の内の探り合いで、いったん収束した。そしてⅠRが終わった。一応3R制である。引き分けの場合、決着がつくまで延長
「短期決戦だから、次のラウンドね」と夏生
確かに、でも、この3R制はボクサーにとって不利ではなかろうか、とすると、この完全決着ルールでは、ロバートにとって引き分けの無限ループに誘い込むのが戦略となるのではないか。ジョンにとっては逆になる。
カーン!! 2R
ジョンが出た。ワンツーからの右ハイキック。ワンツーが速い、そしてキックも、だがロバートは素早く、もっといい姿勢、屈伸でそれを逃がした、そして伸びる手で左ストレート、ジョンが思わず仰け反るが、ロバートは返しの右フックで追おうとした瞬間、ロバートの腹にジョンの左ひざが喰いこんでいた。逃げながらの技で、パワーが無いがロバートの動きを止めた。
いったん離れる両者。
「フフ、面白いわね」と夏生が目をキラキラじゃないギラギラさせていた。
「こいつら延長考えてないわね」
この夏生の言は?がつく、ロバートはラウンドが多い方が良いはずと雅は思う。すると雅の頭の中で「こいつら、KOしか考えてない」と声がした。マサだ。同じ格闘技者として言っているのか。
だが、よりアホはキックの方だった。ジョンがいきなりぶんぶん、手を振り始めた。思い切って右、左のパンチを振り回し、前にでる。
「あちゃージョンは血の気が多いね」と景子。
つまりジョンは短期決戦に出たのだろう。
だがロバートは乗らないだろう、当たることを気にしないでパンチを繰り出すのは30秒くらいが限界だろう。はは、野獣対人間か、はてどっちが強いだろう
だが、意外な展開を見せた。ロバートもパンチを振り回した。
「デンプシーロールね」と夏生
デンプシーロールって」と景子が聞く?
「ジャック・デンプシーっていうボクサーが繰り出した、ようは連続的にフックを左右上下に高速度で繰り出す。乱打にもちこめば体重の軽いロバートの不利、でもスピードはロバートが上、何か計算があるのかも」
「何よ」
夏生が答えた。「さっぱり分からない」
乱打戦は十秒ほど続いたがロバートがスリップダウンした。仕切り直しだ。
すると、今度はロバートが間合いを詰めた。
だが、ここでまったく偶然的にジョンの前蹴りをもろに食ってしまった
「あちゃああ、ロバート君、油断ね」と夏生
ボディを抱えて、膝落ちしたロバート、レフリーがカウントを始めた。
「やっぱ打撃戦と言うのは、難しいよね、ラッキーパンチってけっこうあるのよね。寝技はまず強いものが勝つが打撃戦はそうはいかない」
ロバートは少し跪いていたが、深呼吸をして、立ち上がった。そしてカウント8でファイテイングポーズを取った。
ジョンが迫ってくる。右回し蹴りからワンツ―フック、大ぶりのフック、フック。
だが、前傾になったロバートがまっすぐ右ストレートを放った、狙いは腹。思わず、前に屈んだジョンの右テンプルをロバートのフックが一閃、思わず倒れこむジョン、だがここでカーーーン、2R終了。
「まあ、印象としてはジョンがやや優勢か、引き分けか」と夏生
「ダウンは二人とも一回あるけど。ジョンはゴングに救われた」と景子。
「けど、こうなったら、二人とも決めにくるでしょうねえ」
「うん、そう思う」
雅はリングを見ながら、ちょっと気になった。何か忘れてないか?。
カーーーーン、3R。
ジョンが上下蹴り。後ろ蹴りで、がんがん前に来る。まったく延長を考えてないな。こんな蹴り食らったら、絶対KOだ。ロバートは防御に徹している、何故かな、蹴りが怖くてキックボクサーと闘うはずがない。右ミドルが確実にロバートの腕を捉えている。これリングサイドで見たら、音が聞こえるのでないだろうか。するとすっとロバートがまっすぐ後ろに逃げた。直線に逃げたのでは蹴りが襲ってくるだろ。案の定前蹴りがロバートの顎目掛け飛んできた。が、ロバートは逃げずに、前に右蹴りをわずかにかいくぐると、なんと、ジョンの右太ももを抱えると、そのまま体重を預け、ジョンをひっくり返した、と同時に仰向けになったジョンの腹に乗っかり、すっかり動転したジョンの顎にロバートの右ストレートがぶち当った。返す刀で左ストレートもジョンの顔に炸裂、なんとボクサーがマウントを取って、ノックアウト。ジョンは大の字になって気を失っていた。レフリーが手を上げて、試合を止めた
これは雅も誰も予想しなかったが、前もって、金的、目つぶし、噛みつき、凶器以外何でもありルールだから問題は無い。ボクサーがマウントをとっても、キックボクサーが一本背負いでも良いのである。これは想像力の闘いだ。
「はー、なるほどね、固定観念は恐ろしいはね」と夏生。
「ロバートの頭の方が柔軟だったというわけね」と景子。
ここの闘いがどういうものか第一試合が方向づけた。ほぼ何でもあり、だ。
第二試合はキックの副島雅也VSムエタイのサムチャイ、ナムクード。
これはある意味ものすごい試合だった。副島がゴングが鳴った直後、凄まじい勢いで突進した。サムチャイは唖然としたようで、ほとんど反射的に半身になり、右腕を出した。ほとんどパンチらしいパンチではない、ちょっと出したグローブだったが、それがまともに副島の顔にぶち当たった。そして、副島はリングの上で大の字になった。雅は唖然とした。一秒ノックアウトだ。
「はは、なんともはや」と夏生。
「まあ、微妙だわね」と景子。
第三試合はビル・マッケイ対朝比奈卓、二人とも総合格闘技。二人ともウエルター級といったところか。
これは先ほどの一秒ノックアウトとは打って変わって、くんずほぐれつの、男の組合だった。
「私、こういうの苦手」と夏生
「まあ、あんたは頭脳派では無いからね」と景子。まったくと雅は思う。
「ハッ! これのどこが頭脳戦?」
「柔道も柔術も、手を使って、頭を使って、理詰めに闘うのよ。あんたは良く言って、感覚派なの。自覚なさい」
「そんなんで面白いかねえ?」
「あんたねえ」
その時、雅はリングを見て、「あ!」と言った。
「何よ、大きな声出して?」と夏生。
「ビルは凶器を持っています」
「ええ!」と景子が大きな声で驚いた。いや確かに、あのオープンフィンガーの下にはメリケンサックが仕込まれている。見つかんなきゃいいか、ハ! 本当に何でもありだな。
すると、ビルが朝比奈のガードポジションの左足にガツン右パンチを脛の辺りに当てた、これは通常あり得ない。ガードポジションで下から打撃を当てても大した力にはならない。通常ならばだ。だが、朝比奈は苦悶の様子で、左足を落とした。今の総合格闘技はガードポジションなりマウントを取ったら、パウンド(握りこぶしの側面を当てるパンチ)を使う。だがビルはパンチを当てた。あり得ない衝撃が来たのだろう、朝比奈はガードポジションを解くと、マットにあおむけになる。ビルがマウントを取った、とたんに朝比奈はビルの右ひじを口を大きく開けてかみついた。さきほどマウスピースが飛んだのであろう。
「あちゃーこれは原始的ね」と夏生。
「でも、ビルはメリケン持っているんでしょう」
すると朝比奈はビルの右手を掴んで離さない。多分「これを調べろ」とでも言っているのだろう。リング上は次々と人が入り大混乱。これは泥仕合、プロレスみたいと雅は思った。
「あはははは、プロレスみたい」と夏生。
「まあ、次々と色々あるもんだわね」と景子。
すると混乱の中でゴングが打ち鳴らされた。
「ただ今の試合は両者反則のドロ――」




