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エキサイティングマッチ・大みそか

 その日の夜、その時間、新宿アルタの大画面に目をやった人は、多分流した者の狙いどおり三度はびっくりしただろうとたまたまアルタ前を通った雅は思った。

それは地響きのように流れてきた「ツァラトゥストラ」、荘厳な、またかなりベタな感じもする音楽に合わせて画面に現れた一人の男、サングラスにゴールドヘアー、そしてダークスーツに黒ネクタイと、かのアラン・ドロン(知らない人にはご容赦)が好んで身に着けたというブラックタイは着けるのは難しいが、その男の細身の体に結構似合っていた。


「日本の紳士淑女の皆さん。大抵の方は多分わたくしのことを知らないでしょう。なので、私はジャッキー末次、職業はイベント・プロデュサーを行っています。今度私の会社で今年の大みそか、格闘技イベントを行います。その名もエキサイテイング・マッチ大晦日、メーンイベントはボクシング現世界ヘビー級チャンピオン・ジョン・フォンダ対東京オリンピックレスリングフリースタイルヘビー級金メダルのブブカ・ロビンスキー、3分12ラウンド、かみつき、目つぶし、金的攻撃以外何でもあり、グローブも、12オンス、オープンフインガーいずれも可、引き分けなしの完全決着」


 雅はドリームステージに出勤する途中だったが唖然とした、この男、つい先日会ったTOHO横の広場の、金髪軍団のボスではないか。さらにびっくりしたのは、その話の内容だ。現役のボクシングヘビー級のチャンピオンとオリンピックのレスリング重量級の金メダリストが闘う。こんなのありえない。だが本当ならーアルタビジョンで嘘は言えまいーこれはとんでもない話だ。だが、これがジャッキーが言っていたイベントのことか、するとさすがに、このイベントのメインは超ド級だ。だが、多分八試合位行うのだろうが、それに男対女の試合も組まれているのだろう。ハッ! これじゃ一千万も安いわ。

「皆さん、ほかにも魅力的なカードをお見せできることを約束します。大みそかは、格闘で盛り上げましょう」

 周りを見ると、だいたいの人はアルタビジョンを眺めていた。究極のボクサー対レスラーだが、うーん試合になるのかな? でも面白くはある。すると俄然マックスの相手が誰だか気になる、


 雅がドリームステージに入ると、さっそくマックスが中心になって盛り上がっていた。

度の強そうな眼鏡をかけた痩せぎすな親父Aが「おい、あんた男と闘うんだってね」

マックスが「まあ、うん」

でっぷり太ったあから顔の親父B「何だ、どこの情報だ」

親父A「週刊展望だよ」

親父B「ほう、誰だよ。男は」

親父A「現ボクシング太平洋東洋フェザー級チャンピオン日下雄二」

親父B「おい、現役かよ、あんた大丈夫か?」

マックス「何が?」

親父B「相手は男だろ」

マックス「問題ない、ヘッドギアつけるから」

男A「まあ、それならいいやな。女の顔は殴りづらいからね。でも、それじゃKOはないな」

親父B「なんでだよ」

親父A「両方ヘッドギアをつけたら、まあノックアウトはないな」

マックス「いや、相手はヘッドギアつけない」

 そこで、夏生が口をはさんだ。

「あんた企んだわね」

「何が」

「あんた相手に男のくせにとかなんとか難癖つけたでしょう」

 マックスは知らん顔だ。

「男としたら女相手にヘッドギアは恥よね、そこにつけこんだんでしょ。お前ヘッドギアつけて女と闘うのかとかなんとか難癖つけたでしょ」

親父A「ああ、なるほど、それじゃ男はヘッドギアはずすわな」

親父B「うわー、それで自分はヘッドギアつけるってか。そりゃ男はひっこみつかんわな」

 なんというずる賢い。マックスはこと格闘技に関する限り、勝つためには何でもする。

この場合、男は挑発に乗ったらダメなのだ。

「まあ、ヘッドギアつけろって言ったのは私だけど、自分だけつけるなんてまったくずる賢い。あんた他のことも頭が回ればねえ、まったく」

親父B「ほかにカードは決まってるのか」

マックス「初戦は女の闘い」

親父B「何だ女子格か」

マックス「いいや」

親父B「何だ?」

マックス「口喧嘩、衣装自由、何言っても自由。でも手を出した時点で、そいつの負け」

親父B「何だ、それ?」

親父A「いや意外と面白いかもな、だいたい女子プロレスも口喧嘩が面白いからな」

親父B「そうだな、女の口喧嘩が最強かもな」

マックス「多分、台本あると思うよ、出るのも素人じゃない、そこらへんの劇団から探してくる。それで花火かなんか上げて、壮絶な口喧嘩、ねっ盛り上がるでしょ」

親父A、B「なーるほど」

そしてマックスがぼそりと言った。

「それと、女子はもう一戦あるみたいよ」

 夏生が聞いた。

「へー誰がやるの?」

「一人は知っているけど?」

「誰?」

「オリバージョンソン」

「え! そいつ」

「ああ、また私の前に現れやがった」

「それって偶然?」

「分からない」


 オリバー・ジョンソンとはリョウと関わる格闘家だった。ということはつまり、やはりゴールドヘアーはリョウとつながりがあるのか。

 夏生が腕を組んで、うーんと唸った。ちょっと聞くとライオンの様でもある。

「うーん、で、オリバーの相手は?」

「ミスターM、マスクマン」

「ハ!」

「だからミスターM、多分Xにしたかったんだろうけど、それじゃ、著作権とかありそうだからミステリーのMでミスターMだってさ」

「何、そのテキトー」

「結局、それも男と女の対立ね、残念ねえ、唯一の男女のカードのはずがねえ」と高原景子。

「何でもこの二人、ジャッキー末次の線ではないそうだよ」とマックスは腕組をした。そしていつのまにか立っていたシンが、

「雅、リョウの気配はないか」

 雅は首を横に振った。そしてマックスが聞いた

「なあ、そのリョウってのは、そんなにやばいのか」

 そうかマックスはリョウにはあったことがない。

「マックス、オリバーはリョウが連れてきた」

 このシンの言葉にマックスは「そうか」とつぶやいた。

 マックスは大変真面目な顔になった。大変よろしい。

「オリバーは確か第三試合だったな、どんな奴が来るか見れるかな」

「マックスは何番目?」と夏生

「最後から三番目」

「へー、結構いいとこじゃない」

「ここに居る人は招待するぜ」

「おおお」と店内はどよめく。

「あんた大丈夫なの、そんなこと約束して」と夏生

「大丈夫だよ、なんたって一千万だぜ」

 この人絶対貯金できないだろ。

 すると雅の頭に「くれぐれも気を付けて」とシンの声が響いた。雅はシンを見て頷いた。


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