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初めに光ありき

「おい、夜明けだぜ」とマックス。

「夜が明けたんだ」と景子。が、はっとした顔になった。夜明け、すると私はと雅が思った瞬間、光の輪が雅の身体を包んだ。何、いつもと違う、私の中から何かが出ようとしている。光は放射線状になって幾重にも雅から発せられた。まるで太陽が舞い降りたような強烈な光だった。そして地の底から轟音が唸り、天地が揺れ始めた。ごうごうと轟音は徐々に大きくなり、東京の街を揺らし始めた。

「何、これ、どうなってるの!」

「やばい、地震だ!」

 確かに、それは未だに経験したこと無い、凄まじい揺れだった。

 雅は光の中にいた。どこにも行くことが出来ない。そして自分の中から巨大なエネルギーが噴出しようとしている。自分でも制御できない、凄まじい破壊のエネルギーが噴出しようとしている。その時、


「雅、しっかりしろ」と男の声がした。誰?

「マサだ、雅、自分を見失うな」

 マサ! 確かにマサの声だが、いつも飄々とした口調とは違う、深刻な声だ。

 マサは光の輪から手を出そうとしている

「おい、マックス、俺を引きだせ、お前の力がいる。お前は、このために存在しているんだ!」と絶叫に近い声を振り絞るマサ。すると、目の前に、逞しい腕と手が現れた。そして雅の身体の中からも、腕が現れて、突き出された腕をマックスは掴んだ。そして「おうりゃああああああああ!!」と気合一閃、ずるっとマサの身体が、雅の身体の中から引きずり出された。

 そして、雅の意識は遠のいて行った。


 今、午後十一時、T大学の、心理学研究室に雅と景子が相対して座っていた。

「私の謎が分かったんですか?」と雅

「ほんの少しね」とは景子。


 雅は、少々疲れ気味の化粧っ気のない顔の景子に再び聞いた。

「ほんの少しのことを教えてください」


 景子は髪を掻きながら、眉を逆ハの字にして、絞り出すような声色で言った。

「あの日の朝、夜明けとともに、大地震、いやそれだけではない、何かとてつもないようなことが起きそうになった。その時、あなたの身体から、腕が出てきて、マックスに引っ張れと言った。その声はまさしくマサ君のものだった。マックスは渾身の力でマサ君を引っ張り出した。と同時に、世界は静かになった。素っ裸のマサ君に私のジャケットを渡して、話を聞いた。マサ君は、どうやら、とぼけて格闘馬鹿を演じていたみたいね」

「それでマサは何と」

「マサ君によれば人間は、というよりこの宇宙全体をゼロから一にしたのは神だと言いていたわ。一になった宇宙は、物質と意識という両方から進化していった。つまり初めの一は神の責任、とりわけ人間を造ったのは、神にとっても一種の賭けだった。人間の親子を考えればいい、子供が、どう育つかは誰も予想できない。子供は親の思うようにはならない。そしてこの宇宙は多世界で出来ている。これはシンの言っていたことと同じだわね。人間の意識はそれほど多様に満ちている。そして、まったく異質の人間が出現した」


「それが私という事」

「そう、それが神の計算外なのか、神の何らかの意思なのか、はっきり分からないけど、あなたは、この世界で、多数ある世界の内の私たちの世界という意味だけど、時折、出現する特殊な人間という事らしい」

「過去にも私のような人間が居たという事」

「そう、この世界の人類史に、時折、あなたのような人間が出現し、その人たちも、あなたと同じように人格分裂する存在だったらしいの。どんな歴史書にも載ってないけどね」

「私と、同じ存在」

「そして、何故、人格分裂がおこるか、これが最大の問題ということ」

「私の人格分裂の理由が分かったんですか」

「ひとつの理由がね」

「それは何ですか?」


 景子は少し、迷ったようだったが、きっと顔を上げると言った。

「まず、あなたは、そうね、世界中の核兵器を一度に爆発させるような、大きなエネルギーを体に秘めている。私は美那月家であなたを核爆弾でも持っているのかと、冗談で思ったんだけど、それが当たっていたわけね、もっともあなたは一個の核兵器じゃない。世界中の核兵器よ、それがどんなエネルギーか想像もつかないけど、とにかくあなたは、それを秘めている。そして、いつそのエネルギーが放出されるか分からない。また、これは謎なんだけど、あなたの人格分裂が、エネルギーの放出を抑止している、そうマサ君は説明したのよ」


「人格分裂がエネルギーを抑制……」

「その物理的根拠は分からない。世界中の物理学者が興味をもつでしょうね。でもまったく信じられないか、でも問題は、あなたが何らかの理由で人格分裂が起こらない状態になる時があること」

「それは、いったい、どんな状態ですか?」

「あなたが雅でいる時に、あなたの持っている超常能力を発動した時、あなたの全エネルギー、もしくは、その一部を噴出することがある、とマサ君は言った。ムー大陸やアトランティスもあなたの同類が滅亡させたとマサ君は言っていた。確かにあの時、あなたは巨大人魚を制するために力を使った。だから、それがきっかけで、とんでもないことになりそうだったから、あなたの中から出ようとするマサ君をマックスが引きずり出した。そして世界は静かになった。マサ君は言ったわ。雅の周りには、雅を知るトモダチが必要なんだと、マックスは雅の中からマサ君を引きだす力を与えられている。その他にも雅を知る人間が周りに居て、雅を守らなければならない。そうしなければ世界は破滅する。あなたの力は今が最強だとマサ君は言っていたわ。もし雅の秘めた全エネルギーが放出されたら、必ず世界は破滅すると言っていたわ、あなたに人類の存亡がかかっている存在なんだって」


「そんな信じられない、そんなことが本当に。でもシンが前に言っていたことがある」

「シンが何て言っていたの」

「私が、この世界の鍵だって」

「うーん、シンがね、それは興味深い」

「シンはリョウが何をするか分かっていたみたいです」

「どういうこと?」

「私、三郎さんのこと話しましたよね」

「うん」

「シンは三郎さんがヘリコプターを操縦できることを知っていた。そして私の祖父に接した。でも巨大人魚の存在と行動をあらかじめ知っていないとヘリコプターは用意できませんよね」


 景子はうんと頷いた。

「なるほどね。でも、それは、どういう意味を持つかね、シンとリョウは本当はどういう関係なのか、それがシンの言う多世界とどう関わるのか、シンが何か話してくれるかどうかね」

「はい、でも話すのなら、とっくに話しているとも思うんです」

「つまり言う気が無い」

「はい、そう思います」

 景子はしばらく何か考えている風だったが、頭を振って、

「話は戻るけど」と言った。

「話は戻るけど、確かに新宿中央公園で、あの時、なにかとてつもない破壊が起ころうとしたことは感じたわ。地震とか津波とか、あるいは戦争とか、そんな具体的な破壊ではない何かがおころうとした。そんな感じだった。だからマサ君の説明も一笑に付すことはできなかったわね」

「私が、世界を破滅する…私が能力を使ったら、必ずそれが起きるのですか? だったら私は能力を使いません」

「話は、そう単純ではない気がする」

「どういうことですか」


「マサ君は最後に言った。あなたはあなたの能力を完全にコントロールできてはいない。例えばとてつもない怒りにあなたが支配されたとき、必ずそれは起こる。だから、もし雅が自らをコントロールできるようになったら世界は救われる。自分もいなくなる。それにはトモダチが必要だと」

「トモダチ」


 そんな単純なと雅は思ったが、マサのいうトモダチとは、もっと深い人間関係かもしれない。それに確かに、人間には、自分を深く理解してくれる仲間が必要だ。


「多分、私や、夏生やマックスのことを言っているのね。マックスは明らかに、マサをあなたから引きずりだす力があった。夏生はもっとも、あなたに似ている、あの化物を一刀両断なんて、あり得ない」

「あの武将は何でしょう、また鬼切丸とは何」


 景子はゆっくりと言葉を確かめるように言った。

「あの武将はシンとかリョウの創ったものじゃないでしょうね、私が考えるに、この世界自身が持つ能力というものに根ざした力かもしれない、鬼切丸は太平記に出てくる刀。十二社熊野神社もそのころ建立された。鬼切丸は、そうね、日本の各土地に土地神があるように、この世界の自身の土地神みたいなものじゃないかな。夏生は、その力を託されている。だから、あなたを守る。夏生がそういう力を持っているのには意味があると私は思っている。まあ、あんまり科学的ではないけど、もう私たちは狭い意味での科学の世界では説明できないところに居る」


 雅は、やや当惑した。

「難しいですね」

 景子は手を挙げて、あやまった。

「ごめん、私自身も十分理解したわけでは無い、ただ、そういう不思議な力で、あなたを守るということかしらね。もしかしたらシンもそうなのかもしれない。あなたを理解し、付き合う人間なんて、そう多くはないに決まっている。でも気になることがある」

「先生の気になることとは?」

「リョウのこと」

「リョウの何が気になるんですか」

「冷静になって考えてみると、あいつ、いろんなことを知っている風だったよね、こう思わせぶりというか」

 雅は頷いた。

「ええ、こいつ何かを知っているって感じですね」

「それで考えると、もしリョウがあなたのことを、つまり世界の存亡がかかった存在だと知っているとする。それを前提に考えると、あいつの行動の目的が見えてくる」

 リョウは私に私の正体を教えてやると言った。そのまま受け取ると、確かに私は私自身が考えもしなかった事実を突つけられた」


「リョウの行動の目的ですか」

「そう、一言で言うと、挑発よね。あいつ、人の弱みを暴いて、マックスや夏生や、

三郎までも挑発して、あたしたちが、どうなるか試したと思うのね。それをあなたの場合に当てはめると」

「つまり私の超能力を引きだした」

「そう、そして、もう一歩考えると、あなたの超能力が発動されたら、あなたのエネルギーが放出される。つまり世界の破滅ね。それを知っていた。アルタのスクリーンで言っていたお前の正体を教えてやるとは、そういう意味じゃないかな。」

「でも、それでは自分も破滅じゃないですか」

 景子はいっそう深刻な顔になり青白くなっていた。


「私たちはリョウという存在を通して、人間という生き物が自らを自己破壊に向かう事の出来る存在だと見せつけられているような気がする。核爆弾、環境破壊、テロ。戦争、これは人類がいかに自らを破壊する動物だということを証明している。リョウはその悪意の塊だということかもしれない」

 そうなると大いなる疑念が湧いてくる。

「リョウは人間なんでしょうか」

「分からない。ただ」

「ただ?」

「あいつは、また私たちの前、いや雅の前に現れる。そして、あなたを挑発しようとするかもしれない。何しろ、どこに行ったのか分からないからね。そう考えると私たちの役割はあなたをリョウから守るトモダチということになるかもしれない」


「私の超能力は、諸刃の剣、以上ですね、世界の破滅がかかっている」

「そうね、ただ、どうしても、それを発動しなければならない状況が起こるのかもしれない。その時、どうするか」

「先生、聞いて良いですか」と雅は聞いた。

「何を?」

「先生は私の力になってくれるんですよね」

 雅の問いかけに景子はしばらく答えなかった。そして俯いた。何分か何十分か後、景子は顔をあげた。

「力にはなるわよ、でも私に何ができるかは、まだ分からない」

 もはや二人は沈黙した。来るべき未来を予想して、言葉を失ったのである。こうして、この年も、もう何日かで終わる。来年は来るだろう、だが再来年は、その次は、決して確かでない未来を二人は感じ取っていた。


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