表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴォールのアメジスト 〜公爵令嬢の『予言』は乙女ゲームの攻略本から〜  作者: 本見りん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/88

王国の罪 1



「いやそうは申されましても、前王の場合は元々の婚約者との婚約を破棄させられ王太后様は割り込んで来られたと聞いております。そして王太后様は……大変言いにくうございますがそれは自分勝手な事ばかりをされ……」


「……黙らぬか、宰相!!」



 帝国の公爵令嬢を王妃としていただいておいて、帝国に対してその言い草は余りに失礼が過ぎる。しかもそれは自分の母親の事なのだから、流石に国王は宰相を止めた。



「……割り込んで、と申されましたか。お2人の結婚は当時の皇帝マリアンヌ陛下よりのご提案によるもの。大きな戦争後に疲弊していたランゴーニュ王国の為、武力などによらない友好関係の為の縁談でした。

……それではこの王国は、友好関係の為の縁談を受けながら利益だけを享受し、その要であったはずの我が国の公爵令嬢であった王妃を蔑ろにされた、と。勝手に割り込んで来た自分勝手な女と事実でない事で見下して扱ったという事ですか」



 淡々と、しかも確実に王国を責めるクライスラー公爵。

 見方を変えればそういう事になる、と思い至った王国側は皆息を飲んだ。

 そこに更にゼーベック侯爵が加勢する。



「なんという……あり得ん無礼な話だ!! マリアンヌ皇帝陛下の姪であられた王妃を蔑ろにしそのようなお辛い立場に追いやるとは! これはその王妃への無礼だけではない。我がヴォール帝国に対しての無礼であり、我が帝国を蔑ろにしているのと同じ事なのだ!!」



 怒り立つ大帝国ヴォール帝国の高位貴族たち。


 しかもこの件は完全に王国側に瑕疵がある。……今更ながら、その当時何故そのような無礼や怠慢が罷り通ったのか? と皆冷や汗をかきながら考えた。しかも今相手に指摘されるまで自分達もそれがとんでもない無礼などと考えずにいたのだ。



「……そして、更に現在の話です。リオネル殿下はヴォール帝国の筆頭公爵である我がクライスラー公爵家の娘と婚約しているにも関わらず、王国では既に第二妃や愛妾をリオネル殿下にお薦めになっているとか。

貴方がた王国の人間は、またしても前王の時と同じ事をしようとしているのです。……これだけでも十分に我が公爵家、ひいては我が偉大なるヴォール帝国を侮っている証拠です」



 『第二妃』や『愛妾』の話を推し進めていた貴族達は青くなって俯いた。



「公爵閣下。……その件につきましては誠に申し訳なく……。今回、皇帝陛下からレティシア様と我が国の王太子リオネルとの婚約を認めていただいた際、私は国王として我が王国の貴族達を諌めその時皇帝陛下より提示された条件を守らせる為に、皆に広く通達しております」



 国王は今後は決して母である王太后の時のような愚かな行いはしない、とクライスラー公爵に理解を求めた。


 周りの王国側の貴族達も、それに大きく頷きそれを守る事を示唆しさした。



「……そのような、言葉だけで信用が出来るとお思いですか? そして国王陛下のその宣言後も数こそ減ったようですがそれは繰り返されていたようですよ」



 クライスラー公爵にそう言われると、国王は驚いた顔をしてギロリと王国の貴族達を睨んだ。心当たりのある者は更に俯いた。



「そうしてこの事は、我がヴォール帝国皇帝陛下の逆鱗に触れました。だからこそ、レティシア様を『皇女と同等の立場』と位置付けられたのです。

そして全ての結婚の条件を見直しあなた方がそれに従えない時には……」



 ――従わない、その時には――?


 国王を始めとした貴族達は息を飲んで聞いた。



「この王国は、完全にヴォール帝国の庇護を失う事でしょう。あぁ、その時には勿論レティシアは安全な帝国に連れ帰りますがね」


 


 ――帝国の庇護がなくなる――!?



 今、このランゴーニュ王国が平和なのは、帝国からの庇護があるからだ。……それはマリアンヌ皇帝陛下の時代から続く和平のお陰。……即ち、つまりは現在のヨハンナ王太后のお陰、という事だったのだ。


 それなのに王国は、……前王は、王妃を大切にはしなかった。そして王国の貴族達もそれに倣った。


 今まで、なんと愚かな恩知らずな事をしていたのだ――。

 王国の貴族達はここに来てやっとその事に気付いた。



 ◇ ◇ ◇



「クライスラー公爵を出し抜いて、こうしてレティシア様のエスコートを私がしたと知ったら我が兄弟達はさぞ羨ましがる事でしょうな!」



 レティシアのエスコートをしてくれたゼーベック侯爵は上機嫌でそうレティシアに語りかけた。


 ここは王城内の謁見の大広間。

 婚約者リオネルに出迎えられたものの、賭けに勝ったというゼーベック侯爵の嬉しそうな様子に負けてここまで来たのだが、遅れてこの広間に入って来た父クライスラー公爵はリオネルと一緒ではなかった。


 訝しみつつ、ヴォール帝国側として王国の国王や重臣たちに挨拶をしたがランゴーニュ王国の主要な王侯貴族が集まらなければ皇帝陛下のお言葉を話す訳にはいかないとして、こうしてこの広間で待っている間の先程のゼーベック侯爵の発言である。



 ゼーベック侯爵にしては小声で話してはいるのだろうが、それでも元々の声が大きい為に侯爵達がレティシアが如何に素晴らしく帝国で愛されているかを語り続けるその話は大広間中に聞こえていると思う。


 レティシアはそれとなくその話を止めようとするのだが、ゼーベック侯爵は父とした賭けに勝った事で上機嫌で更にレティシアを褒めちぎり続けている。



 ……ダメだわ。ゼーベック侯爵はこうなると止まらないわ。でも自分への褒め言葉を王国の方々の前でしかも自分に話されるなんてある意味拷問だわ……。

 『帝国の淑女』としては過ぎた謙遜は美徳とはされないし、ああ、なんだか気持ち的にむず痒いわ……。


 レティシアはゼーベック侯爵に気付かれないように心の中でため息をついた。


 


 ――一方ランゴーニュ王国側の国王や貴族達は、帝国の大貴族が『元平民の子爵令嬢』であったレティシアを誉めそやしている事に驚いていた。



 レティシアを養女としたクライスラー公爵だけではなく、この貴族の話を聞くに帝国内の貴族達はこの元平民の子爵令嬢を随分と可愛がって大切にしているようだ。……そして、今ここに来るにあたっての子爵令嬢への扱いはまるで帝国の皇女であるかのようではないか! 

 

 王国の貴族達に対して完全に上位者として振る舞っている帝国の大貴族達は、この『元平民の子爵令嬢』に対して完全なる忠誠を誓う臣下として対応しているのだ。



 この時王国の貴族達は、リオネル王太子の想い人であるレティシアの事を完全に侮っていた。


 元は平民で子爵家程度の娘など、幾ら帝国の公爵家に入った所で程度はしれている。クライスラー公爵家は王妃の実家として振る舞えればいいのだろうし、とりあえずその娘を王妃の座に座らせておけば公爵家は満足するだろう。彼らはこの『世界の食糧庫』と呼ばれる王国の利権や独占権が手に入ればそれでいいはずなのだから。

 

 そしてこちらはリオネル王太子に他に第二妃や愛妾を入れるなどして国内の実権を握り、その上でクライスラー公爵家の機嫌を取れば良い。王国の貴族達はそのように考えていた。



 その後この王国に、あの『元平民の子爵令嬢』が実はヴォール帝国の行方不明になった皇女の娘で皇帝の姪である、と公表された時は流石に王国貴族達は驚いた。だが、この時多くの王国貴族達は思った。


 ――それは現在のヨハンナ王太后と同じというだけではないか、と。


 それなら大した影響はない。しかも公爵家にとっては反対勢力の皇女の娘だったのだから、予定通り王国の利権を掴むための駒として扱うだろう。その証拠に皇帝陛下もすぐに我が王国との婚約の続行を認めたではないか。会ったこともない『元平民の子爵令嬢』を可愛いと思えるはずもなく、どうでも良いとそのまま公爵に好きにさせたという事だ。

 クライスラー公爵にしても、『皇帝の姪』と箔の付いた娘を王国に嫁がせる事で更に王国に恩を売ることが出来ると考えているだろう。



 王国の一部の貴族達はとりあえず『皇帝の姪』となった娘を王妃に迎え国の内外にそれを広く伝えこの王国に対する抑止力とし、その内自分達側の第二妃を迎えさせて実権を握ればいいとほくそ笑んだ。彼らはレティシアを完全に侮っていた。


 

 ――しかしそのような愚かな考えは、レティシアを愛する皇帝や公爵達によって充分に調べがついていたのだ。


 ……彼らはまさか自分達が大国ヴォール帝国から睨まれているとは夢にも思っていなかった。








 


お読みいただき、ありがとうございます!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ