帝国での恋人達 1
「……リオネル様、今回お見えになるなんて知らなかったので驚きました。会えてとっても嬉しかったですけれど、どうして教えてくださらなかったんですか? ……ずっと手紙のやり取りはしておりましたのに」
レティシアはちょっと拗ねたような口調になった事を少し恥ずかしく思いながらもリオネルを見た。
ヴォール帝国皇帝の誕生祝いのパーティー。レティシアが皇帝の妹ヴァイオレット皇女の娘だと認定され、伯父である皇帝とのダンスが終わった後はとんでもない騒ぎだった。
沢山の貴族たちが我先にとレティシアに挨拶に来たからだ。
そこは父であるクライスラー公爵と弟ステファン、そしてステファンの実家であるロンメル侯爵達が周りを固めて守ってくれた。その助けが無ければ今でも貴族たちの列が減らなかったのではないかと思う。
そして、初めはレティシア達の側にいたリオネルだったが、その内帝国の美しい令嬢達に囲まれ出したのでレティシアは少し不安だった。
そしてパーティーもお開きの雰囲気となってやっと周囲の人々も落ち着き、2人で話が出来ている。
「ごめん。クライスラー公爵閣下からこのパーティーの招待状が届いたんだ。レティシアの『淑女教育の成果』を見てやって欲しいってね」
そう言って笑って見せたリオネルだったが。
――それもあるけれど、実は公爵からは『コベール子爵から話は聞いたのだろう? その上でレティシアの婚約者として皇帝に宣言する覚悟はあるか』と書状が届いたのだ。
ここは2人の仲を認めてもらう勝負どころ、そしてレティシアと会えるチャンスだと、公爵からの『帝国からの正式な招待状』を盾にこの約20日間の日程のヴォール帝国に来る権利を勝ち取ったのだ。
ランゴーニュ王国でも、流石に正式なヴォール帝国からの皇帝の誕生パーティーへの招待状に反対する者もおらず、リオネルは今回堂々と帝国へやって来た。
本当はすぐにクライスラー公爵家に訪ねて行きたかったのだが、公爵からの許可が降りなかった。その代わりに滞在している王国の領事館にクライスラー公爵の義弟だというロンメル侯爵が訪ねて来た。
そこから、今回の自分の出ていくべき場面を聞かされたのだった。
「……お父様が? そうだったのですか……。
……それで、あの……どうでしたか? リオネル様から見て、この3ヶ月の成果は……あったとお思いですか? 最初のカーテシーなどはかなり自信があったのですけど、皇帝陛下とのダンスはかなり緊張してしまって……」
恥ずかしそうに頬を染めながらそう言ったレティシアを、リオネルは微笑ましく見つめた。
『皇女の娘』とされても、レティシアは変わらない。
リオネルの好きになった、一番美味しそうなカボチャをくれたあのレティシアだと安心した。
「……とても素敵だった。カーテシーも美しかったし、ダンスも……。今日も本当はレティシアと踊りたかったよ」
リオネルとレティシアは今までダンスを踊った事がない。
ランゴーニュ王国ではリオネルには元々婚約者がいたし、レティシアと両思いになってからすぐにレティシアはヴォール帝国に来たからだ。今日も人々に囲まれてそれどころではなかった。
「私もリオネル様と踊りたかったです……。でも今日、リオネル様は美しい方々に囲まれていたので、私は……」
ハッキリとヤキモチを妬いたとは言えず、レティシアは少し俯く。
そんなレティシアを見て不謹慎とは思いつつ、リオネルは自分を思い妬いてくれた事に喜びを感じた。
「挨拶をされただけだよ。皇帝の姪であるレティシアに近付きたくて婚約者である私の所に来たようだね」
……勿論、そんな女性達ばかりでないのはリオネルも分かってはいたが、いくら秋波を送られようとも相手になるつもりは全くない。
確かに帝国のパーティーは王国よりも洗練されており、来ている貴族達、特に女性たちは煌びやかだ。けれど、このレティシアよりも可憐で内面も美しい女性はいないと思う。
レティシアの存在のみが、リオネルの心をざわめかせる。
「……それだけとは思えませんけれど……。私は、リオネル様を信じます」
少し不安ながらもそれを振り払い、レティシアはリオネルを真っ直ぐに見つめた。
レティシアとリオネルは両思いとなってたった2週間で王国と帝国との遠距離恋愛となった。
……不安ならある。というか、不安だらけだ。お互いの距離を縮まらせない内に実際の距離まで離れてしまっている。今何をしているのか、もしかしてもっと素敵な人が現れているのではないか? そんな思いに苛まれる事も多々あった。
だからこそ、今は目の前にある自分に出来る事を頑張るしかないと思って『淑女教育』に励み続けていた。
そんな中、会いに来てくれた愛する人。……今は不安よりも彼の愛を感じていたい。
「ありがとう。……私もレティシアを信じている。麗しい方々に囲まれていても、私の元に戻って来てくれると。……ごめん、少しヤキモチを妬いていた」
そう言ってリオネルは苦笑した。……離れ離れになって不安なのはリオネルも同じ。
そうかお互いに不安だったんだ、そう気付いた2人は微笑み合った。
人も随分と少なくなった会場内で、人々が騒ついた。
リオネルとレティシアもその騒ぎに気付き皆が見ている方向を見ると、そこには先程パーティー開始前にクライスラー公爵とやり合っていたゼーベック侯爵とシュナイダー公爵がいた。
リオネルとレティシアは顔を見合わす。確か彼らはレティシアの祖母の実家だといっていたが、その彼らの今の姿は……。
「……どうして、あんなにボロボロになってらっしゃるのかしら」
レティシアはついポツリと呟いた。
すると近くにいた弟ステファンが言った。
「……さあ? 兄弟お2人があのご様子だから、兄弟喧嘩でもされたのではないかな。先程もご兄弟で意見が合っていないご様子だったし」
ステファンは周りにも聞こえるように言った後、レティシアにニコリと笑って言った。
「姉上と僕は、そんな風にならないと思いますけどね。僕は姉上が大好きだし姉上も僕を可愛がってくれているものね」
ステファンは当然先程父であるクライスラー公爵がシュナイダー公爵と一緒に会場を出て行った事を知っている。おそらくは他の貴族達も見ていた者も多くいただろうが、我が家へのおかしな噂は少ない方が良い。
そう思い、ステファンは違う噂のタネも蒔いておいたのだ。
しかし、あの冷静沈着な父が彼らをあれ程までに攻撃したというのも不思議な話だ。……考えられるのは、ヴァイオレット皇女の関連の話か。シュナイダー公爵兄弟はおそらくあの父の逆鱗に触れたのだ。
一方、レティシアは自分を慕ってくれる12歳の可愛い弟に心の中で萌えながら答えた。
「ええ、ステファン。私達は問題はきちんと話し合って解決していきましょうね」
ステファンはそれに嬉しそうに頷いた。
「姉上。ありがとうございます。
……ただ、そこにいらっしゃるランゴーニュ王国の王太子殿下にはこれから色々お話を聞かせていただきたいですね」
レティシアの婚約の話は初めから聞いて知っている事なのだが、優しい姉をすぐさま連れて行ってしまう王国のこの王太子は今のステファンには歓迎すべき存在ではなかった。
「貴方の姉となられたレティシア嬢と婚約しているリオネルです。先程は簡単な挨拶しか出来ず申し訳ございません。これからは是非親しくお付き合いをさせていただければ光栄です」
リオネルはそうにこやかにステファンに挨拶をした。リオネルも義理の弟となるステファンが自分に好意を持ってくれていないのは感じている。
「リオネル様、ステファンは凄いのよ! 次期公爵の仕事を教わりながら学園にも通い、更に帝国から離れたある国の珍しい果物を輸入してこちらで育てられないか研究しているの! 本来暖かい地方のものだそうなのよ。素敵だと思わない?」
レティシアは目を輝かせてリオネルに弟がいかに有能で努力家であるかを熱弁した。
「……僕はただ、自分が食べて美味しかった珍しい果物をもっと気軽に食べられるようにしたかっただけです。……お姉様。大袈裟ですよ」
そう大いに照れるステファン少年。
「……それは素晴らしいですね! 是非一度拝見させていただきたいものです」
弟も含め3人で和やかに会話が進む中。
……リオネルは、成る程この弟もこんな風にレティシアの魅力にハマっていったのだなと、この仲の良い微笑ましい姉弟を眺めて思ったのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。
離れていてもお互い想いあっていたレティシアとリオネルでした。




