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王立学園 3

あれから2年経ちました。



 ――2年後。


 私レティシアは学園の3年生、最終学年になった。


 

 あれから私には特に嫌がらせなどはなく、そして当然ながらリオネル王子との関わりもなく。

 しかし友人達は増え、楽しく有意義な学園生活を送っていた。


 そして、コベール子爵家でも義母の嫌がらせ等は無くなった。何かと父が関わってくれるようになり、少しずつ義母との関係は改善された。



 学園では私は裏庭に勝手に野菜を作るようになったことをきっかけに興味をもつようになった、農業系の科目を選択して日々勉学に励んでいる。


 その専攻の先生方にも可愛がられ、同じ選択をしている友人達も増えた。その中の1番高位の貴族であるベルニエ侯爵家令嬢のミーシャ。彼女の領地は随分と農業が盛んな土地らしいが高位の令嬢が農業系の選択をするのは珍しく、しかし同じ志を持つ者どうし私達はとても仲良くなった。



 そして彼女と仲良くなる内に、2年前の『嫌がらせ』の話になった。


「……私は馬鹿らしくて参加しなかったけれど、あの時のレティシアへの嫌がらせは皆フランドル公爵令嬢に『忖度』していたようなのよ。……なんと言っても彼女は筆頭公爵家の令嬢で、リオネル王太子殿下の婚約者。未来の『王妃』ですもの。それに……」


 ミーシャは声を潜める。


「……彼女は『未来の予知』が出来ると有名な方だから。今までにもたくさんの事柄を予言し見事当てて来られたのよ。隣の帝国の皇帝のご病気も予見したことがあるらしいわ。

……そんな彼女の最大の『予言』の出来事の相手が貴女かと、皆そう思って貴女をあれ程非難し忌み嫌ったのよ」


「公爵令嬢の、『予言』……?」


 私は初めて聞くその話に『?』となった。


 この国にも市井には怪しげな『預言者』などは居る。当然『占い師』や女性達が好む『占い』などもたくさんある。そして他国の歴史には高名な『預言者』が現れ、国が栄えたり滅んだり……。

 とにかく、楽しむ『占い』以外には普通は世間は『予言』には余り良い印象はない、と思っていたのだが。


 ましてやその『予言』とやらのせいで自分が嫌がらせを受けたのなら、レティシアには本当に迷惑な話だった。



「……ええ。公爵令嬢の婚約者である王太子殿下が、『運命の恋人』とやらと出会い、公爵令嬢に『冤罪』と『婚約破棄』をしかけてくる、というものよ。

彼女の予言の的中率は恐ろしく高いから、それを見て来た人々は皆彼女を『聖女』の如くあがめているわ。それで皆あの時貴女に対して過剰反応したのね。

まあこれは高位貴族の公然の秘密なのだけれど。……でも貴女には迷惑な話だったでしょうけれどね。

……けれど今回は流石にその『予言』は起こらないのではないかと言われてるわ。事は王太子殿下の進退に関わる事でもあるし、しかもその予言を殿下ご自身も当然ご存知で、卒業一月前の今でもそのようなお相手がいるご様子は全くないものね……」


「……そう、なの……? 公爵令嬢がご自分やその周辺に起こる『予言』をされているの? でもどうして私がその『予言』に出てくる王子のお相手だと思われたのかしら……」


 確かにあの時期少しは仲良くさせていただいたし、自分は王子に対して淡い恋心も抱いていた。けれど、身分が違い過ぎるからこそあの当時は『恋』などとは思わなかったのだ。それなのに、周囲からは王子が婚約破棄をしようとする程の恋人関係だと思われるなんて?

 


 思い切り戸惑った様子の私を見てミーシャは苦笑する。


「……そうね、公爵令嬢の話すその『王太子の運命の恋人』は狡猾で高位の貴族の男性と見たら擦り寄って自分に振り向かそうとする女性。そんな方がこの学園で公爵令嬢の婚約者である王子の前に現れる。……そんな予言だったから殿下にそれらしき女性が近付くだけで皆が警戒したのよ。

まだあの当時は貴女の人となりも分からなかったし、最初王子もかなり貴女に関心を持ってらっしゃるようだったから、余計かしらね。

……ああ、今なら分かるわよ? 貴女がとんでもなく野菜作りが大好きなだけの純粋な子だってことはね」


「……むう。野菜バカと言われた気がする。

……でも、そうかぁ。やっぱりアレはあの時期に王子と関わったから、だったのね。あの時は本当に理由が分からなくて……先生方に相談しても『高位の貴族方に失礼な事をした』って言われるだけで、自分は何をやらかしたんだろうって随分悩んだわ……」


 ミーシャは私の肩をポンポンと優しく叩いて言った。


「『予言』の話は高位の貴族の間で主に言われていることよ。そして高位の貴族の動きに下位の貴族達も従って、そして先生方もそれに倣ったんでしょうね。

あ、それと『野菜バカ』は当たってるわ」


 最後、冗談めかして言うミーシャに私はむくれ、そして笑い合った。



「……でも、あとひと月ほどで卒業ですものね。レティシアは卒業後は王立農業研究所に勤めるのでしょう? 前も言ったけれど、いつでも我が侯爵家に来て頂戴ね。レティシアなら大歓迎よ」


 実は、私は農業が盛んな我が王国の権威ある『王立農業研究所』に就職が決まっている。そしてミーシャの侯爵家の農業研究所にもこうしてお誘いを受けているのだ。



「ありがとう。……でもまずは、王立農業研究所で一人前になってからだわ! その時にまだ私を雇っても良いと思ってくれるならお願い!」


「王立研究所で一人前になったレティシアなら喉から手が出るほど欲しいに決まってるじゃない! 私は貴女の野菜造りへの情熱と真っ直ぐさを買っているのよ。ふふ、そしてその深い紫の瞳にね。レティシアと友人になってからアメジストが特に好きになったのよ。……いったん離れるのは寂しいけど、早く一人前になって私の所に来てくれるのを待ってるわ」


 友人の嬉しい言葉に、私も笑顔になる。


「うん! 俄然やる気が出てきたわ! 卒業してからも頑張らなくちゃね。……あと、卒業パーティーだけが気が重いけど……」


 レティシアは元平民。そして今は子爵家の令嬢だけど両親や兄達が社交をしてくれているからパーティーなんて出たことない。せいぜいティーパーティーくらい。出来ればこのまま出席せずに終わりたいけど、流石に『卒業パーティー』は出るべきだと、家族や友人にも言われている。



「ふふ。私も居るから大丈夫よ。パートナーはお父上? まだ婚約者は居なかったものね?」


「うーん……。それがどうも父も無理っぽくて……。その時期は毎年領地に行くらしいの。兄はほぼ拠点が領地だし。でもミーナの婚約者もどうしても来れないそうだからパートナー無しで行くって言うし、私もそのまま1人で参加しようと思ってるの」


 私がそう言うと、ミーシャは少し不安げな顔になった。


「……1人で? たった1日なのだからお父上かお兄様にご参加いただけないの?」


 ミーシャは少し考え込む。



「養ってもらってる身で我儘言えないわ。……大丈夫! パーティーの雰囲気だけ味わったらすぐに退散するわ」


「……そうなの? ……先程の話に戻るけれど、今年の『卒業パーティー』は公爵令嬢の『予言』が絡む、少し特殊なものになると予想しているの。だから他の高位の貴族の方々も、……王族の方々も、かなりの方々がお見えになるはずよ。一応、レティシアのご家族の方にそう事情を話して相談した方がいいと思うわ」



 そんなミーシャを心配症ね、なんて思っていたのだけれど。



 ……まさか、私が本当にその『予言』に巻き込まれていくなんて。


 この時の私はまるで思っていなかった。





お読みいただき、ありがとうございます。


あれから2年、皆がそれぞれ頑張って過ごしてきました。

そしていよいよ『予言』の舞台である卒業まであと少しとなりました。

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