挿話 ローズマリー1
ローズマリーの前世のお話です。
受験期の少し辛めの話です。
「あの『攻略本』、どうだった?」
私は学校で同じ乙女ゲーム『公爵令嬢の憂い〜真実の愛を求めて〜』にハマっているクラスメイトに声をかけた。
「うん、すごく良かった! あの本を教えてもらって良かったわ。知らなかったらあのゲームの本当に面白いところが分からなかったと思う」
彼女は2年生の頃から同じクラス。特に仲が良い訳ではなかったけど今みんなの中で流行っている乙女ゲームを彼女もやり始めた事を知り、こうして時々話をするようになった。
「そうなのよね! 隠しキャラもいるみたいだしやり込みがいがあるわよね!
あの『攻略本』があればこのゲームの世界でまるで予言のように思い通りにいくのよ! あんなに思い通りにいくなんて楽しすぎるわ!」
そう言って笑う私を、その友人は少し困ったような顔をして合わすように笑った。
当時彼女と私の成績は殆ど同じ。前見えてしまったテストの点数もほぼ同じくらいだった。だからこの3年生のクラスで成績優秀者が集まる同じクラスになったんだろう。
……だけど、私は周りがゲームに関心を持ちながらも少しずつ受験モードにシフトチェンジしている事に気付いていなかった。
――学校で3年生は色んな受験についての講演があったり、周りも少しずつ志望校を決める為に動き出す。だけど私は相変わらずあの乙女ゲームにハマり込んでいた。
親にいい加減志望校を絞れと言われても。
「私と同じレベルのクラスの子と同じくらいに合わせておけばいいよね」
「まだ運動部の子達は受験なんてうるさく言ってないし」
などと言ってずっとあの乙女ゲームをしていた。家でも夜遅くまでゲームをしていると、母親が入って来てそれを咎められる事があった。
「今、たまたま休憩してたのよ! 前もお母さんが来る時はいつもたまたま休憩中だっただけ! ……なによ、私がずっとゲームしてたなんて、証拠でもある訳!?」
そんな風に誤魔化して、家でもずっとゲームをしていた。
そして、夏。部活をしていた子達が引退し、皆が受験モードに入る頃。
私はそろそろ受験校を決めなきゃねと、以前同じ成績だったクラスメイトの志望校の紙をチラリと覗いた。
……へえ。このくらいの成績だったらあの辺りが狙えるんだ。私もそこを書いておこう。あの学校ならみんなにすごいねって言われるよね。
そう思って深く考えずに同じ学校名を記入した。
そして、三者面談。
私は先に三者面談を終えた、同じ志望校のクラスメイトに話を聞く。
「……私? まあ、うん。先生からはこの調子で頑張ればいいんじゃないかって言われたの。まあ最後まで油断は出来ないんだけどね」
そう遠慮がちに言うクラスメイト。……じゃあ、私もいけるってことねと納得する。
「そうなんだー。……良かった。あ、それでねぇ。あの乙女ゲームなんだけど、あれから私裏設定のところまでいって……」
「え? ゲーム? ……あの乙女ゲーム? 今もまだやってるの? 大丈夫?」
その友人は驚いてそう尋ねてきた。
「大丈夫って? だってみんなやってるでしょう? 」
私は何言ってるんだと思って言ったんだけど。
「多分もうみんなやってないよ? 3年生になってからかな……。私の周りの子達も「ゲームは暫く封印だね」って話してたんだけど……」
みんな? そんなはずないじゃない!
「まあ、やらないならやらないでいいよ! 私は『攻略本』のコンプリート目指すんだからね!」
「え!? ちょっと……」
私はまだ何か言っているその子を残して、次の授業の部屋に向かった。
そして、私の三者面談の日――。
「お母さん。お嬢さんのこの志望校ですが……。言いにくいんですが、厳しいと思います。……どうでしょう、こちらもなかなかいい学校ですよ」
先生は、私にまさかのダメ出しをしてきた。そして代わりにと出してきたのはあの子よりも1ランク……下手をしたら2ランク落ちる学校だった。
母もショックを受けていた。
「……先生! 厳しいってどうしてですか!? だって一昨日あの子にはいけるって言ってたんでしょう!? 私とあの子は殆ど同じ成績ですよ! 先生そんなの差別です!」
「一昨日……? ああ……。君と彼女の成績は同じではないよ。確かに3年生になった頃は似たような成績だったが、春から彼女はメキメキと力をつけてきた。……反対に、君は今ズルズルと落ちてきている。その辺りを今日はお母さんとも話し合いたいと思っていたんです」
そう言って先生は私の母と話し出した。
3年になってから、何やら私の成績が落ちてきている。そして周りは少しずつ成績を上げてきている。差がどんどん広がっているのだ。今のまま落ちていったなら、先程挙げた2ランク下の学校ですら危うくなる、と。
……そんなバカな! 私はあの子と同じ成績なんだから! この夏前のテストの結果は知らないけれど。そんなに急に変わる訳がない。2年生の頃からずっと同じくらいだったのに!
「……だから、志望校はよく考えて……」
「先生! 私の成績がどんどん下がってくなんて何の証拠があってそんな事言うんですか! それに私だけが志望校が難しいなんて言うなんて、差別です!」
尚も私に志望校を考え直せと言う先生に言い返してやった。母親は慌てて先生に謝っていたけれど、こんな差別をする先生なんて知らない! この時渡された成績表を見ると今までほぼ4か5だったものが3か4で占められていた。コレは、この担任の先生が私を差別しているんだわ!
家に帰って、私は両親と話し合った。
母は成績が落ちた事よりも先生に対する私の態度に怒り、父は春からズルズルと成績が落ちてきた訳を聞いてきた。
「担任の先生は私が嫌いだからこんなに成績が落とされたのよ! それにずっと同じ成績の子があの志望校はいけるって言われてるのよ!? お父さん、学校に言ってよ! あの先生が差別するって! 担任を変えてもらって!」
私はそう主張した。
両親は戸惑っていたが、学校側に「今のままの志望校でいく」とだけ連絡したようだった。
――そして、秋。
私は少しずつ勉強をしながらもずっと乙女ゲームを続けていた。そしてとうとう『攻略本』をコンプリート! もうこの本も読み尽くして全て覚えてしまったくらいだ。
私はクラスで1番仲の良い友達に報告した。
「……えっ!? ああ、そうなんだ……。この時期に、よくそんな事出来たね。すごいよ。でも私は推薦を受けるからもうゲームはしてないんだ。今、将来を決める1番大事な時だよ? ちょっと息抜きのゲームならともかく、のめり込んでゲームする時期じゃないよ」
彼女は呆れたようにそう言った。
「ッ! 何よ、みんななんだかんだ言ってゲームしてるでしょう。それにあんたなんて私よりも成績下じゃない!」
私はカッとなってそう言った。すると彼女はスッと冷たい表情になった。
「……昔はね。言わなかったけど、この間のテストじゃ全部私が上だったよ? アンタがいつまでもゲームしてる間に、みんな頑張って勉強してた。……どうするの? 受験はもうすぐだよ。前に話してた学校を受験するつもりなら、次の三者面談で大分厳しいって言われるんじゃない?」
「なっ……! 今テストを見せもしないで自分の方が上だったなんて、何の証拠もないじゃないの! 受験なんて私は余裕だし! ちょっとゲームしたぐらいでなんともないんだから!」
私はその友達にそう言い張った。その友達は呆れた顔をして行ってしまった。
そうしてやってきた、冬の三者面談。
前回親からクレームを入れたので担任の先生の代わりに学年主任の先生が来ていた。けれどもそこで話された事は前回と同じ……、いや、もっと厳しい現実だった。
先生から、模擬テストのテスト結果を渡される。その内容はとてもではないけれど私の第一志望校はムリだった。
おそらく、夏に担任の先生に勧められた2ランク下の学校も……。
「ッ! 先生……! コレはどういう事ですか? うちの子がこんな……。これじゃあ今の第一希望は……。いいえ第三希望だって厳しいじゃないですか!」
お母さんが叫ぶ。
「……そうですね。今の成績ではとても無理です。ですから志望校をこちらに……」
学年主任の先生はそう言って私達母子に冊子を手渡した。それは色んな学校が書かれた資料だった。
「学校から出来るのはここまでです。ここからはご相談には勿論のらせていただきますが、将来を考えるのはあくまで本人とご家族のご意向です。そして、成績はテストや本人の授業への取り組みなどを勘案したものです。これらから、よくお考えください。しかし一つだけ言わせて頂けるなら、今のままではこの第三志望もかなり厳しいです」
――そこからは、よく覚えていない。
ただ、家に帰るまで黙っていた母が帰るなり泣き出した事。そして父に酷く叱られた事。
それらが、何やら頭をグルグルと回っていた。
そして次の日、その頭痛を抱えて学校に行く途中……、私は交通事故に遭い呆気なくこの世を去った。
お読みいただき、ありがとうございました!
受験の時期は苦しいものですよね……。
そしてみんな頑張っているのです。




