DLC7 獣人狩り
俺とルミナが市場を歩いていると、向こうから女の子が走ってくるのが見えた。
どうやら獣人の子だった。
みすぼらしい格好をしていて、孤児のようだった。
「おっと……!」
女の子は俺とぶつかりそうになりながら、人混みをかき分けて走り去っていった。
手にはなにやら小包を持っていたようだった。
「おいアンタ! そいつを追いかけてくれ……!」
「は…………?」
すると後から、別のオッサンがやってきて、俺にそう言った。
汗だくで、もうこれ以上走れないという様子だ。
「どうしたんだ……?」
「あいつに荷物をとられた……!」
「はぁ……なるほど」
スリか……。
それにしても、あんな小さな子供が……。
世の中は世知辛いなぁ。
俺もなんとかしてやりたいが……。
「おいアンタ! なるほどじゃなくって、追いかけてくれ!」
「なんで俺が……。っていうか、もう逃げたんじゃないのか……? ホラ」
人ごみを振り返ってみるも、さっきの女の子の姿はもうない。
きっとどこかに上手く隠れたのだろう。
「っち…………! もういいよ……!」
おっさんはあきらめて引き返して行った。
「ふぅ…………もういいよ」
俺がそう言うと、物陰からさっきの子が出てきた。
「………………あ、ありがと」
それだけ言うと、女の子は器用にぴょんっと壁を飛び越えて、どこかへ消えていった。
「なんだったのかしら……」
「さあな、でも……やけに警戒心の強い子だ…………」
俺は別に、衛兵に引き渡したりなどしないのに……。
◇
その後もしばらく街を歩いていると、あることに気がついた。
「そういえば……この街は獣人が少ないんだな……」
「そうねぇ……あまり見ないわね」
店先の商品を物色しながら、そんな言葉を交わす。
すると、それを聞いていた店主が口を挟んできた。
「なんだ、あんたらよそ者か……?」
「ああ、そうだが」
「それでも聞いたことくらいあるだろ……?」
「…………?」
「獣人狩り」
「じゅうじんがりぃ?」
店主の口から出た物騒な言葉に、俺は眉をひそめた。
俺としては、そんなこと絶対に許せない。
ケモミミのもふもふさんたちを、狩るだなんて……!
それに一般的な現代日本人の感覚からしても、そんな行為は虫唾が走る。
「おいおい、そんな怖い顔するなよ。別に俺がやってるわけじゃねえんだ」
「ああそうか、すまない。それで……詳しく聞かせてくれるか?」
店主の話によると、最近この街で、獣人を狙った人さらいが横行しているそうだ。
もちろん、獣人にそんな扱いをすることは法律でも禁じられている。
だが、中にはいまだ根強く獣人を差別する人々もいるのだ。
だから、獣人が襲われていても助けないという人も多い。
「酷い話だ……」
「ああ、俺もなんとかしてやりてえが……だいたいそういう奴らってのは、人目のつかないように上手くやりやがるんだ」
それに、獣人は商品価値としても高いという。
一部の物好きな金持ちが、大金を出して買うとか。
「ぜったいに許せない……!」
「ドルク……とっても優しいのね」
「いや、俺が優しいんじゃないんだ。この街の連中が冷たすぎるのさ」
「ドルク、助けに、いくんだね……」
「ああ! もちろんだ!」
だって、俺は決めたんだから。
この人生では、人助けをしたりして、いい人間になろうって。
そうじゃないと、産まれなおした意味がないだろ!
「よしルミナ、聞き込みにいこう!」
「そうね……!」
話を聞いたからには、放っておけない。
俺たちは情報を得られそうな場所へ向かった。
貧困街。
食い物を得られない者や、ならず者たちが暮らす街。
そこでなら、なにか情報を得られるかもしれない。
「なああんた……なにか知らないか……?」
「あん……? 食い物くれたら教えてやるよ」
こういう連中が殆どだったが、食べ物を渡しても逃げ去るだけで、なにも得るものはなかった。
まあ、知っていても話すわけないか……。
「はぁ、お手上げだな……」
「そうね。敵はかなり、闇の世界の連中かもしれないわね……」
俺たちがあきらめかけたそのとき。
後ろに、確かな気配を感じた。
どうやら、あちらさんから顔を出してくれたらしい。
「おい、俺の後ろをつけているやつ……出てこい……!」
後ろを振り返り、物陰に向かってそう呼びかける。
すると……。
「へっへっへ……! さっきから俺たちのことを嗅ぎまわっているのは、アンタらかい?」
「ああ、そうだが? お前が獣攫いの首謀者か……!」
「さあなぁ! それは俺を倒してから自分で確かめな!」
鎖鎌を持った悪漢が、襲い掛かってきた。
豚のような顔をした、豚のように肥えた男。
「ふん! ならそうするさ!」
――ドン……!
「ぐええええええええええええ!!!!」
俺は男の鎌を掴み、一瞬で、男をねじふせた。
まあ、こんなチンピラ、余裕だ。
「それで……? さらった獣っ子たちはどこにいるんだ……?」
「へっへっへ……そんなこと、話すわけねえだろ! バーカ……!」
「ふん…………!」
「ぐええええ!」
俺はそいつを殴って気絶させた。
こういうやつは、どうせ吐かない。
「ドルク、気絶させちゃって、いいの……?」
「ああ、別に構わないさ……それに、どうやらまた情報が得られそうだぜ……?」
「……?」
「出てこいよ。そこにいるんだろ……?」
俺がそう呼びかけると、物陰から獣耳を生やした女の子が恐る恐る現れた。
「がるうううう!」
女の子は、薄い青緑色の髪をしていた。
よくみると、さっきの……。
昼間、スリをしていた女の子だ。
ネコミミをつけていて、服はただのシャツ一枚といった貧相なもの。
栄養状態も悪いようで、胸もなく、やせ細っている。
なのに、そんな小さな身体で一生懸命こちらを威嚇しているのだ。
「おいで、大丈夫だよ。俺は、君の仲間を助けたいんだ……」
俺はやさしい声で、手を差し伸べる。
「人間は……信用できない……!」
敵意むき出しだ……。
そりゃあ、仕方ないか……。
食うものもなくって、その上、人さらいに常に狙われて過ごしているんだから。
でも、俺はこの子をどうにかして助けてやりたかった。
「じゃあ、こうしたら信用できるかな……?」
「…………?」
俺は、覚悟を決めて、自分の右手に、剣を自分でぶっさした。
――どちゅ。
「にゃぁ……!?」
「ちょ、ちょっと……ドルク……!?」
俺の手のひらを剣が貫通して、血がどばどばと流れる。
まあ俺は即死無効だし、自動回復が付いているから、このくらいどうともないはずだ。
「俺は君のために、これだけ命を張る覚悟はできている。だから、仲間を助けるために、どうか協力させてほしい」
俺は跪いて、誠意を込めてそう言った。
「わ、わかった……。信用するにゃ……」
よかった。
まだ警戒はされているみたいだけど、とりあえず話を聞いてくれそうだ。
女の子の名前は、シャルと言った。
どうやら友達が何人も、奴らにさらわれたらしい。
彼女の粘り強い逃亡と調査の日々によって、奴らのアジトは割れているようだった。
「よし! じゃあ俺たちをそこまで連れていってくれ!」
俺たちはシャルの案内で、人さらいのアジトへと向かう。
あ、それと……手の平の傷だが、剣を抜くとものの30分でふさがった。
どうやら転生者の加護の力は、思っていたよりもすさまじい。




