DLC21 向き合うこと
「ドルク……か……?」
親父は、ベッドの上ですっかりやせ細っていた。
あれだけ元気だったのに、なんだか気の毒だ。
「お父様……」
正直、なにを話せばいいのか、頭が真っ白になる。
よくも俺を見捨ててくれたな、とでもいえばいいだろうか。
でも、今病床にふせっている彼に対して、そんなことを言う気にもなれない。
そんな無言の俺たちを見かねて、執事が割ってはいった。
「あの、ダンナ様。ドルクぼっちゃまのおかげで、カラクを追い出すことに成功しました。ですから……その……」
執事がそう言うと、親父は目を丸くして、
「おお! そうか……! だ、だが……一体どうやって!?」
そう言う親父の言葉には、少し含みがあった。
『一体どうやって』そのあとに続く言葉は、こうだろう――一体どうやって、無能のお前がアイツを倒せたんだ?
俺は、くちびるを噛んで、ぐっと言いたいことを飲み込む。
すると、そんな俺の顔を見て、ルミナが一歩前へでた。
「ルミナ……?」
「この娘は……?」
親父も、驚いた顔をする。
ルミナはそんな親父に、どうどうと、目を見てこういった。
「ドルクのジョブは……いえ、ドルクは……決して無能なんかじゃないです! ドルクがどうやってこの家を追い出されたか、聞きました。私は……ドルクのことをちゃんと見もせずに、追い出したあなたが許せない……! だって、ドルクは、とっても頑張って……苦しい思いをしてきたんです……!」
「る、ルミナ……」
ありがたい言葉だが、親父がそれを聞いてどう思うだろうか。
ルミナが傷つくようなことは避けたい。
親父は、ルミナだろうと容赦なく罵倒してきそうな人だからなぁ……。
俺がそう心配して、ルミナを制止しようとすると……。
親父は続けろ、とばかりに手をあげて、俺を制止した。
「ドルクは、それでも……お父さんと向き合おうと、そういう決心をして、ここに来ました! それで、あのカラクとかいう人も簡単に倒すくらいに、強くなって帰ってきたんです……! だから、認めてあげてください……!」
ルミナはそう言って、まるで俺のことを、自分のことのように苦しんで、悩んで、言ってくれた。
俺が言いたかったことを、親父にぶつけてくれた。
なにより、俺はそれが嬉しかった。
今まで、俺に対してここまで向き合ってくれた人はいないからだ。
「にゃあ……! ドルクは世界一強いにゃあ! そして、世界一やさしくて、かっこいいにゃ! だからドルクのパパも、ドルクを褒めてあげてほしいにゃ……!」
シャルも、後ろからやってきて、無邪気にそう言った。
そんな2人を見て、親父は表情を柔らかくする。
「そうか……ドルク。よい仲間を持ったな……」
「はい……」
「どうやら、私の目は節穴だったらしい」
「お父様」
あの厳しい、剣神ドボルザークが、そんなことを言うなんて……。
「私は完全に見誤っていたよ。そして、間違いを犯した……。その仕打ちが、コレだ。私はもう、現役を引退しなくてはな……。もう心身ともに、すっかり弱ってしまったよ」
そう言う親父は、たしかにこの数か月で、数10年の歳をとったかのように、衰えていた。
「だが、最後にこうしてお前が帰ってきてくれてよかったよ……。やはりお前は私の息子だ。強くなったな……ドルク」
「お父様……」
俺は、ようやく親父に、認めてもらえた気がする。
いままでのキツイ修行が、報われたような。
そうだ、俺はたった一言、そう言ってもらいたかっただけなのかもしれない。
前世の親もそうだった。
俺に、キツイ特訓を強いるくせに、それができてあたりまえのような扱い。
なにを成し遂げても、次々に要求される。
俺は、ただ認めてほしかっただけなのにな……。
「私はもう、カラクにも負け……身体もこのざまだ。それに、お前は私でも勝てなかったカラクに勝った……。だから、お前はもう、正真正銘、私を超えた」
親父は満足そうに、そう言った。
そして、
「だから、私の流派と、家を継いでくれ……あとはお前に任せ、私は隠居する……」
そんな勝手なことを、言いやがった。
だから俺は、突っぱねる。
「ああ、それでしたら……遠慮します」
「なに…………!?」
「俺はなにも、この家や流派を継ぐために、帰ってきたわけではないですから。ただ、あなたに強くなった俺を見せつけたかった。それだけだ」
「なんだと……!? それじゃあ、ヴァーキン家と、ドボルザーク流はどうなるんだ……!?」
「どうなるって……そりゃあ、俺の知ったことじゃないですね……。だって、もう俺は必要ないんでしょ……?」
「っく…………」
追い出したのは、そっちのほうなんだ。
俺は、せっかく自由になったっていうのに、鎖をつけられるのはごめんだ。
「だからまあ、今回かえってきたのが最後です。俺は、もう2度と顔を見せませんよ。だから、まあせいぜい残りの隠居生活を楽しんで……」
「おのれ……! それで私に仕返しをしたつもりか……!?」
「仕返しもなにも……俺は俺のやりたいように、生きるだけです。だって、俺の人生なんで……!」
俺は、親の傀儡人形なんかじゃない。
前世でそれは、こりごりだと学んだ。
習い事をやらされて、いい子を演じて……。
そんなのはもうごめんだ。
せっかく異世界に転生して、生まれ変わったのだから、俺はこんどこそ、後悔しないように、俺のやりたいようにやる。
そう、決めたんだから。
「じゃあ、ルミナ、シャル、レヴィン。いこうか……」
「うん、ドルク」
「にゃあ……!」
「ああ……」
俺は、三人を連れて、家の外へと転移した。
「あ、おい……! 待てドルク……!」
◇
家の前で、俺たちは今後について話す。
「ルミナ、シャル……さっきはありがとうな。俺の代わりに」
「いいのよ。だって……私のときは、ドルクが代わりに言ってくれたでしょ?」
「ああ……そうだったな」
これからも、彼女たちとはうまくやっていけそうだ。
この世界で、俺を認めてくれる、大切な仲間だ。
「それで、こっからどうしよっか……」
「うーんそうだなぁ」
俺はやりたいことをやる、と決めたが、そのやりたいことが決まっていなかった。
金はあるんだし、とりあえずは家を買うところからだなぁ……。
そのあとは、当初の予定通り、学校に行くのもいいだろう。
学生生活を楽しんでみるのも、やりたいことの一つだ。
前世では、いじめや習い事のせいで、ろくに楽しめなかったからな……。
俺のこのやり直し人生で、ルミナたちと一緒に学校に通えたら、きっと楽しいだろう。
俺はこの先、そういうやり残したことをやっていきたい。
そんなことをぼんやりと考えていると――。
「ドルク坊ちゃま……!」
「あ……」
親父の執事が、家の外まで追いかけてきた。
なにか伝言でもあるのだろうか……?
それとも、無理やり引き留めに……いや、それはないな。
「ドルク坊ちゃま、最後に……本当にありがとうございました……!」
「ああ、じゃあ……また……」
「それと、御父上から伝言が」
「え…………?」
「好きに生きろ、ただし……たまには帰ってきて顔を見せてくれたら嬉しい。だそうです」
「っふん……まあ、そのうち……な」
俺は照れくさそうにそう言って、屋敷を後にした。
勝手なもんだぜ……親ってやつは……。
ま、せいぜい長生きして、憎まれ口をたたかせてくれ。
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