DLC18 最低の親
まず、俺たちはルミナの実家へ向かった。
俺の転移を使って、一瞬だ。
「ではドルクどの、こっちだ」
レヴィンが、屋敷の中まで案内してくれる。
ルミナの家は、めちゃくちゃ立派な屋敷だった。
俺に家も、それなりにでかいほうだが……これは桁違いだ。
使用人だけでも、何人いるのだろうか。
エントランスに招き入れられる。
すると、エントランスの奥にある巨大な階段から、ひげ面のオッサンが下りてきた。
豪奢なローブに身を包み、ワインを片手に持っている。
いかにもな厳しい貴族の人間というかんじで、眉間にしわをつくっている。
彼が、ルミナの父だろうか。
ルミナの父は、横に付き従うメイドに、ワイングラスを預けると、ゆっくりこちらへ近づいた。
「ルミナ……!」
「お父様……」
ルミナの声は、すこし怯えていた。
ルミナ父は、こちらへ近づくと、ルミナの頬へ平手打ちを放った!
「馬鹿者! 今までどこに行っていた!!!!」
――パシ!
「…………!?」
だが、その平手打ちは、ルミナに届くことはなかった。
俺が、ものすごい速さでそれを受け止めた。
おっさんは、俺のことを睨みつけている。
しかし、俺はおっさんの手首を持つ手を、緩めない。
「キサマ……! なんのつもりだ……!」
「いくら親だとしても、ルミナへの攻撃は、俺が許さない」
「なにぃ!!!!」
「それより、大切な娘が帰ってきたんだから、殴るより先に、喜ぶのが先じゃないのか? ルミナが、怯えてるじゃないか……!」
俺はおっさんを眼で威圧した。
こういう体罰をふるうヤツは、俺は許せない。
しかも、ルミナのようなかわいい子にだ。
まあ、それは俺が転生者で、現代日本的な感覚を持っているからかもしれないが……。
でも、ルミナのこの怯えようを見るに、放っておけなかった。
「ドルク……」
「ルミナ、俺に任せろ」
ルミナは怯えた目をしながら、俺の後ろで震えている。
きっと、この家にはなにかがあるんだ……。
俺も、この世界で、厳しい剣神の親父に育てられた。
だから、受けた暴力の数は半端じゃない。
でも、それは俺の心を、決して強くなんかしなかった。
俺の自尊心が傷つくだけで、なにも得るものはなかった。
「キサマ……! 何者だ……! おいレヴィン、得体の知れない小僧を屋敷に入れやがって……!」
「俺は、ドルク。ルミナの恋人だ」
「恋人だとぉ……!? 私の娘に、そんなものは必要ない! 学校を卒業するまでは、勉学と修行に専念させるんだ……!」
「それが本当に、娘の幸せなのかよ……!」
「ふん、この子が幸せかどうかは関係ない! 私がそうすると言ったら、そうするんだ! それがこの子にとっても幸せなんだ! 私の娘なのだから、私がどうしようが勝手だろう……!」
「…………っち。それがまともな親の言うことかよ……!」
俺は、どうやらこのオッサンを許せそうにない。
俺の前世での親も、こんな奴だった。
なにごとも完ぺきでないといけなかったし、習い事もたくさんさせられた。
言う通りにしないとヒステリーを起こして、殴られたし……。
受験だ受験だと言って、俺を追い詰めた……。
それで、俺は挫折した……。
それなのに、今度は就職だと無理やりに家を追い出され……。
あげくには俺は過労で追い詰められたというのに、それでもさらに追い打ちをかけるようなことをしてきた。
俺はそんな身勝手な人種が、許せない。
「もういい、ルミナ……この家を出よう」
「ドルク……!」
俺は、ルミナの手を引いて踵を返す。
「っは! 貴様のようなガキに、ルミナを幸せにできるわけがない! 私が完ぺきなプランを組んでいるんだ! ルミナは私の言う通りに育ち、私の言うとおりの相手と結婚するんだ……!」
「うるせえ! 娘を政略結婚の道具としか見ていないのか……! ルミナの本当の気持ち、きいたことあるのかよ!」
「うるさいのはキサマだ! 私にはもう新しい妻もいて、子供もいるんだ! 前妻との子供をどうしようが勝手だろう! 殺されないだけましと思え!」
「っは! それが本音かよ……。もういい、ルミナ……いくぞ!」
俺はルミナの手を引いて駆け出した。
「っく……! なにをしているレヴィン! そやつを殺せ!」
「そ、それは……」
レヴィンはどうやら、迷っている様子だった。
俺はルミナに、問うた。
「おいルミナ、決めてくれ。この家と完ぺきに縁を切って、俺と来るか……それとも、ここに残るかだ。どっちがお前の本当の幸せなんだ……!? 自分で決めろ! 親父の言う通りじゃなく! 自分の意思でだ!」
「わ、私は……! ドルクといっしょにいたい!」
「よし、よく言った!」
ルミナは、そう叫んだ。
すると、ルミナの父の表情が、歪んだ。
「そんな……ルミナ! 私のルミナが! なぜだ! なぜなんだああああああああ!」
ルミナの父も、ルミナを愛していなかったわけではないのだろう。
いや、むしろ誰よりも愛を注いでいたのだと思う。
だがそれは、歪んだ愛だ。
「それはあんたがどうしようもなくクソだからだよ……!」
俺はおっさんに、きんてきを食らわせる。
まあ、全力で力は緩めておいた。
そうじゃないと、とんでもないことになるからな……。
俺は既に自分の力をコントロールでき始めていた。
そうじゃないと、食器を持つのですら大変だからな……。
日々の暮らしで、規格外のステータスを抑えることを学んでいた。
「ぐああああああああああ!」
おっさんは股間を抑えて、うずくまる……。
いいざまだ。
「レヴィン……そいつを殺せ……!」
ルミナ父は、うずくまりながら再びそう命令した。
しかし。
「それは……できません……! 私はルミナさまの味方です……! ルミナ様の大切なひとを殺すことなど……」
「このぉおおおお!! 使えない奴め……! おい、お前たち! 全員でこやつらを捕えよ!」
おっさんがそう命令すると、階段の上からぞろぞろと、武装した執事が下りてきた。
「おいレヴィン、いくぞ!」
俺はレヴィンも連れて、逃げることにした。
「しかし……私は……!」
「お前も、ルミナと一緒にいたいんじゃないのかよ!」
「そ、そうだ……!」
「なら、いっしょにいくぞ!」
俺はレヴィンもともに、その場から転移した……!
「くそ……! 逃がすな!」
しかし、俺たちは一瞬でその場から転移で逃げた。
執事たちは、なす術もなく、その場に立ち尽くすしかなかっただろう。
◇
「ふぅ……なんとかなったな……」
「にゃあ、ドルク……かっこよかったの」
さっきまでは大人しくしていたシャルだったが、俺を褒めてくれた。
「でも、本当によかったのだろうか……」
と、レヴィンがこぼす。
「なにが……?」
「その、相手は仮にもルミナさまのお父様だ。それをあんな風に……」
と、少し気まずそうにルミナを横目でみるレヴィン。
ルミナとしてはどういう心境なのだろうかと、心配しているようすだ。
「大丈夫だ。あの親父はクソだからな……。あれくらいでいいんだよ」
「そ、そうだろうか……」
「な、ルミナ……」
俺はルミナを抱き寄せながら、そう訊く。
「うん……」
ルミナは少し怯えながら、しかし安心しきった様子でそう言った。
「ど、どういうことなのだ……!? 話しが見えないが……ドルクどの!」
とレヴィン。
「ルミナの親父は、前から厳しいんだよな?」
「ああ、そうだが……」
「だったら、なぜルミナが急に家を飛び出したかわかるか……?」
「そ、それは……学校が……」
「まあ、それもあるだろうが……。あの親父、ルミナに手を出そうとしたに違いない」
「え…………?」
そう、俺の予想……というかこれは確信に近いが。
あのおっさんは、ルミナを襲おうとした。
歪んだ愛……反吐が出る。
「そんな……そうだったのですか、ルミナさま!」
「うん…………」
レヴィンの問いかけに、ルミナがこくりとうなずいた。
「そういうことだ。あのおっさんは、ルミナに迫ったんだ。家の中で、一人前妻の子として居場所のなかったことにつけこんでな。おおかた、今の嫁さんは年増なんだろう。それにしても、自分の娘に手を出そうとするなんて……」
まあ、中世では、そういうこともあったと聞くが……。
だが、ルミナが無事でよかった。
ルミナは襲われかけて、それで家を飛び出したんだろう。
だから結局、無事だったはずだ。
だってそれはまあ、俺にはわかることだ。
なんてったって、あのとき俺とそういうことをしたのが、初めてだったからな。
それは、確認済みだ。
「よし、もう大丈夫だぞルミナ。これからは、俺が全力で守る」
「うん……ありがとうドルク」
これで少しはルミナのトラウマも解消できればいいが……。
「じゃあ、次はドルクの家だね……」
「う……そうだな……」
気が進まないが、俺も過去を清算する必要がある。
それからのことは、その後だ。
「で、レヴィン、お前も一緒にくるんだよな?」
「もちろんだ! 私はルミナさまと常にともにある! 私も、ドルクどのと共に、ルミナさまをお守りする!」
「よし、じゃあ決まりだ!」
俺たちは、俺の実家に向けて転移した。




