魔の国の思惑
模擬戦が終わった後。受付のクリスと教官のガルスは二人で資材の整理を行っていた。
「よし!仕事仕事!さっさと遅れを取り戻すわよ!」
「ウム!それでこの荷物はどこに運ぶんだ?」
「あっちにお願い。にしても大盛況だったわね、今回の模擬戦!」
「我々も大忙しだったからな。だが、マネージャーの勝利という結果は、私達職員としては喜ばしい事だな!」
「そうよねー。マスターって殆ど帰ってこないし、何をしてるのかしら?」
疑問を口にしつつ、荷物を運ぶクリス。その後ろをガルスが多くの荷物を持ちながらついて行く。
「しっかし驚いたわね……。スノウちゃんとマスターが知り合いだったなんて。」
「確かに驚いた!だが特に気にすることもあるまい、私達が知っているのは真面目に依頼に取り組むあの子だからな。」
「私達はそうでも、他の人達はどう動くかしら?なんと言っても最強の冒険者との繋がりがあるんだから。」
「心配無い!それより今は目の前の仕事だ!完璧に片付けるぞ!」
「こら!そっちの道は違うわよ!ちゃんとついてきなさいよ!」
荷物を持って勝手に動くガルスを叱りながら、クリスは整理作業を続けるのだった。
◇◇◇
「巫女様ー!帰ったわよ!」
「お帰り。色々話を聞かせて欲しいな。」
ここは魔の国デーモニア。魔族の治めるこの国に、一人の冒険者がそっと帰ってきた。それを出迎えたのはリーダーである巫女。その顔には微笑みが浮かんでいる。
「こっちでも試合は見ていたけど……凄かったね、あの二人。」
「そうでしょ!特にマネージャー凄くなかった!?アーティファクトを華麗に操って、最強をコテンパンにしてやったわ!」
「そうだね。ここまで強いとは……流石マネージャーだ。君が推すだけの事はあるね。」
冒険者協会のマネージャー、その強さを力説する冒険者。その顔は陰で隠れて見えなかったが、協会所属の冒険者であるのはほぼ間違い無いようだった。そんな彼女に、巫女は一つ、気になった事を口にした。
「そうだ。君が最近言っていた魔族の友達、その子は協会のマスター・へカテリーナと面識があるんだよね?」
「そうよ!もうびっくり!意外な事実判明って訳ね。」
「そこで一つ、お願いがあるんだ。聞いてもらっていいかな?」
「えー。ま、いいけど。何かしら?」
巫女はコホンと咳をした後、冒険者の目をじっと見た。
「もし出来れば……その子とのパイプを広げて欲しいんだ。」
「彼女との、パイプ?」
首をかしげる冒険者に、巫女は更に話しかける。
「そうだね。君も分かってると思うけど、デーモニアは今、ヒューマニアと比べてだいぶ戦力が劣っている。奴らの事だから、もしかしたら侵攻を狙ってるかもしれない。」
「そうかしら?あんまり実感はないけど。」
「だから、いざという時の為に切れる手札を用意しておきたいんだ。冒険者協会と繋がってると分かれば、奴らも手出しできない筈。」
「それって、彼女を利用しようって事!?嫌よそんなの!私の友達なんだから!」
「分かってる。出来ればでいいよ。それにその子本人にも興味があるからね。」
巫女は空を見上げ、雲を見つめていた。
「それとCランク昇格、おめでとう。頑張ったね。」
「え?……まあ、私ならこのくらいどうって事無いわ。」
「アーティファクトも出来ればでいいから、探してみて。ヒューマニアへの警戒はこっちでやっておくよ。……気をつけてね。」
「分かったわ。私はまた協会に戻るから、そっちも気をつけてよ!」
そして冒険者は謁見の間を出て行く。その後ろ姿を眺めながら、巫女は呟いた。
「上手く行けばいいけど。まあ、なるようになる、よね。」




