深緑の魔蝶
街を出たスノウとセイン。二人は砲撃の飛んで来た方角に向けて、ひたすら走っていた。
「なあスノウ、こっちで本当に合ってるのか?」
「間違いありません!こっちから大きい鳥……じゃなかった、砲弾が向かって来たんです。」
「なら、早く止めないとな!俺達の力、見せつけてやろうぜ!」
「はい!」
二人は森の奥に入るが、そこでセインが疑問を口にする。
「そういえば、街の大穴あったろ?あそこで俺を助けてくれた人、その人も今戦ってるんだよな……。」
「その人!もしかして協会からの増援の人ですか!」
「多分な。緑髪の女性で、メイド服を着てたんだ。冒険者には見えなかったが、ありゃ只者じゃない。相当の実力者だぜ。」
(緑髪のメイド服……。まさか……。ううん、今はそれよりも早く目的地へ行かないと!)
スノウはその人物に心当たりがある。だがその人物は長い間会っていない相手であり、そもそも今考えている余裕など無い。頭からその人物を振り払い、ドンドン先へ進む。
「だが相手はもっとヤバい奴だった。大丈夫とは思うが、姿が見えないのは気になるな……。」
「心配ですね……。でも今は、私達に出来る事をやりましょう!そうしないと、その方がくれたチャンスが無駄になってしまいます!」
「ああ、さっさと終わらせて援護に行かないとな!進むぞスノウ!」
「任せて下さい!」
◇◇◇
「ふう。これで終わりっと!随分手こずらせてくれたもんだぜ!だいぶ遠くまで来ちまったよ!」
ナイフを持った男は土を掘り返し、そこにメイド服の女性を投げ込んだ。動かなくなった彼女に土をかけ、また元のように整える。
「いい腕前だったが……相手が悪かったな!ヒューマニア所属のこの俺、マッド様が相手だったんだからな!」
ナイフの男……マッドはそう言ってその場を後にする。目的はケモリアを落とす事。そしてその様を、一度邪魔した冒険者に見せつける事である。
「さっさと始末しないと面倒だ。あのクソガキ以外にも冒険者がいるんだ。早く終わらせてショーの続きと行こうじゃないか!」
「ん。霧が濃くなってきたな。」
マッドは空を見るが、森の隙間から見えるのは丸い太陽である。
「……おかしい。いくら森の中でも、この天気でこんなに霧が濃くなるか?」
異変を感じ、周りに注意しながらケモリアへ向かう。だが、ある程度戻った所で急に動きを止める。
「変だな。何か左肩が妙に軽い……。」
彼が自分の左肩を見てみると……。
「な!?痛てェェェ!?何だこりゃ!?」
マッドの左肩は、まるで何かに削られたかの様に大きな切り傷が出来ていた。それを見た彼は慌てて魔力を込め、応急処置をする。
「だ、誰だ!?出て来やがれ!この場でぶっ殺してやる!」
得体の知れない何かに攻撃されたと判断し、巨大な木の陰に隠れるマッド。先程までの冷静さは嘘の様に消えていた。すると霧の中から何者かの足音が、こちらに近づいて来た。
「あら、お久しぶりね?どうだった?私とは楽しめたかしら?」
「な……何でお前がここに居るんだよ!?」
目の前に現れたのは、先程自分が埋めたはずのメイド服の女性だった。彼女の手には、小さいお香がそっと乗せられている。
「もしかして……アーティファクトか!?」
「正解よ。でも、何の能力かは分からないわよね?」
「く、来るな!?来たら殺すぞ!」
だが怪しい笑みを浮かべながらマッドに近づく女性。恐怖を感じたマッドは、手元のナイフを彼女に投げつけた。それは彼女の額に突き刺さり、彼女は再びその場に崩れ落ちる。
「は、ハハハ!やったぞ!きっとトドメを刺しそこねたんだ……今度こそやってやったぞ!」
「と思うでしょ?残念、ハズレよ。」
「……な!?」
倒したはずの女性。しかし霧が彼女の姿を隠すと、再び目の前から現れる。もうマッドには何が何だか理解出来なくなっていた。
「いい顔ね。上手くいっているつもりが、実際は詰みに向かっている。そんな顔がお好きだったんでしょう?」
「ぎ、ギャァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
女性から飛ばされた風の刃がマッドの足を切り裂いた。少し前に受けた風風船よりも、更に強い威力。片足を封じられた彼は、足を引きずりながら彼女を睨んでいた。
「こ、この野郎!正体を見せろ!」
「いいわよ。これが本物の私よ!」
女性は身体中に魔力を滾らせ、その力を解放する。その余波で辺りが爆風に包まれるが、マッドは咄嗟に木に隠れる事で回避し、煙の中をじっと見据えている。
そこから現れたのは、黒い服に身を包んだ一人の女性。だが、その背中からは蝶のような羽根が伸び、目つきも凶暴なものに変わっていた。
「これが私よ。どうかしら?」
「ま、魔族か!?な、何なんだよこれ、聞いてないぞ!?か、格が違い過ぎる……。」
彼女が一歩近づく度に、マッドは一歩下がる。それを繰り返し、気づけば大木に逃げ場を塞がれていた。
「冥土の土産に教えてあげるわ。私のアーティファクトを。」
彼女は霧の中、先程持っていたお香を再び持ち、説明を始めた。
「[魔香器]。相手に強い幻覚を見せる作用があるの。それも、見るだけじゃない。触ったと思わせられるような幻覚をね。」
「な……。それじゃ俺は、今まで幻を見てたってことか!?」
「そういう事。そしてもう一つはこの[霧増器]。霧を起こして魔法の力をより高める。……どうかしら。まるで本物みたいだったでしょう?」
女性は耳元のイヤリングを指で撫でながら説明を終え、マッドの様子を観察していた。
「お、俺は幻覚相手に遊んでいたってのか……?」
「仕込みに時間がかかったけど、ようやく確実に仕留められる。じゃあね。」
「ヒッ……あ、足が動かねぇ!?……あ、ああ!?」
一歩、また一歩。近づいて来る女性にマッドは恐怖していた。逃げようとしたが、バランスを崩して地面に倒れてしまった。そして彼女の顔を見上げ、ふと何かに気づいたようだった。
「お、思い出した……!お、お前は……冒険者協会で名を上げている、あの冒険者か!?もっと早く気づいていれば……!」
「あら、ご存知だったの?それなら逃げれば良かったのに。自分の記憶力の無さを呪う事ね。」
そして女性はマッドの前に立ち、扇から出した風を脳天に振り下ろす。その際に、マッドが早く気づくべきだった、自身の名前を言い放った。
「地獄に行きなさい!私は《深緑の魔蝶》モルモー・ミストホワイト!協会の冒険者よ!」
「う、うわァァァ!?」
しばらくして。辺りに飛び散った血を眺めながら、女性……モルモーはマッドを見つめていた。
「冥土の土産に名前まで教えてあげたんだから、安心して成仏なさい……メイドだけにね。」
そしてモルモーは魔力を止めて霧を晴らすと、再びメイド服に着替えてからその場を後にした。
「後は砲撃の発生源だけね。街の方も気になるけど、あの剣士君なら大丈夫でしょう。私は元を断ち切るわ!」
すぐに走り出した彼女。黒幕へと向かい、ひたすら森の中を進んで行くのだった。
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