ダンジョン探索
「道具はきちんと持った!武器も用意した!問題なしです!」
荷物の整理を終え、ギルドに向かうスノウ。顔を出した時、まだクエストは残されたままだった。
「モルモーさん!昨日のクエスト受けさせて下さい!」
「はい。こちらにお願いします。」
モルモーはスノウが持ってきたクエストを確認し、淡々と注意事項を読み上げた。
「どうしたんですか?いつもみたいな元気がありませんよ?」
「……このクエスト、何か変なんですよ。こんなに割のいいクエストなのに、スノウさん以外誰も受けないんですよ。何かあるのかも知れません。用心はしておいてくださいね。」
「了解です!って言っても調査依頼ですし、魔物に会っても上手く逃げてきますよ!」
「それなら良いんですけど……。」
「それでは行ってきます!今日のご飯が楽しみだなー!」
「行ったぞ。俺達も後をつけるんだ。絶対に気づかれるなよ。」
「分かってるさ。」
スノウがクエストに挑戦してしばらく後。二人の男が彼女の後をつけていく。その手にはナイフが握られていた。
ギルドを出発して数時間。ようやく調査依頼のあったダンジョンに辿り着いた。
「白マップを用意して、突入です!張り切っていってみよー!」
スノウはすぐに調査を始める。と言っても、やることは単純。ダンジョンにいるモンスターや地形を調べて地図に書き込むだけである。
……最も、未踏のダンジョンではこの情報は必須の物。高額で取引される事も多いため、報酬も高めに設定されている。
「あっちは行き止まり、……左手にはスライムが住んでるっと。宝箱無いかなー?あったら総取りだよー!」
地図を埋めながらどんどん先に進んで行くスノウ。やがて彼女の目の前には、巨大な大部屋が現れた。部屋を覗くと、奥から凄まじい魔力を感じられた。
「ここが最深部……入るべきか、入らぬべきか。……うん、撤収!必要なデータは書き込んだし、これで任務達成!」
そしてスノウが帰ろうとした途端、……後ろに影が現れた。
「えっ?」
次の瞬間、スノウは大部屋に突き飛ばされた。そのまま部屋の中央に飛ばされ、彼女は倒れ込む。
「痛っ!何!?何があったの!?」
慌てて後ろを振り向くと、そこには同じギルドの冒険者が立っていた。
「よっ、魔族ちゃん!」
「貴方達は……。どうしてここに居るんですか?ここは私が依頼を受けて、今から帰る所なんです!」
「状況が飲み込めて無いようだな。説明してやるか。なあグレン。」
「そうだなライト、アイツにも分かるように教えてやるか。」
「……さっきから何の話よ?いいから帰らせて!ここの部屋は危ないんだから!だいたい貴「うるさい」方達……えっ?は?」
部屋の外に向かうスノウ。文句を言っていると、突然体の左側が軽くなった気がした。
「な、何で軽く……?えっ、い、痛、あああああああああああああ!!」
「うるさいな。今から説明してやるって言ってるのに。」
スノウの体からは、左腕が無くなっていた。突然襲ってきた痛みにスノウが倒れ込む中、グレンは話を続ける。
「ここが未踏のダンジョンってのは間違いじゃない。ここから生きて帰ってきた奴はここまで一人もいないんだからな。誰も帰ってこれなきゃ、永遠にデータは得られない。踏破出来てない事になるのさ。この内容を知るのは俺達だけって訳だ。」
「俺達は厄介者や逆らった奴らを偽のクエストでここに連れ込めばいい。そうすれば、ダンジョンの方で処理してくれるんだからな!始末した後に報酬も出る!いい商売だぜ!」
「あのクエスト……まさか、最初からこのつもりで……?」
「そういうこった!じゃあな!精々頑張ってな!」
グレンとライトはそう言って、扉から遠ざかる。そのタイミングで大部屋の扉が閉まってしまった。
「そんな、どうしよう……ここから出ないと……!」
スノウは残った右腕を使い、道具箱からナイフを取り出す。壁に寄りかかりながら、必死に出口を探し始めた。
「ここは未踏のダンジョンなんでしょ……。それなら、あの二人が知らない出口だってあるはずよ……!」
壁を探り続けていると、大部屋の壁に小さい違和感を見つけた。小さい四角の形で、色が違う所が見つかったのだ。
「ここ、他の壁に比べて色が濃い……。押してみよう!」
壁を押すと、部屋の奥の壁が音を立てながら開いていく。
「やった、これで脱出出来る!早く出ないと……!」
「グガ?」
「……えっ?」
スノウの目の前で奥の壁が完全に開き……三つ首の魔犬、ケルベロスが現れた。
「何……これ……?」
「グガァァァ!!」
「キャッ!?」
ケルベロスは途端に駆け出し、スノウに目がけて突進を仕掛けてきた。スノウは何とか回避するが、ほとんど体力は残っていない。
「マズイ、早く逃げないと!これでも喰らえっ!」
「ガッ!?」
「足元を狙う!スノーショット!」
「ガウウウ!!」
スノウはケルベロスに煙玉を投げつけ、追撃に雪の弾丸を撃ち込む。そして煙幕で標的を見失ったケルベロスを背に、彼女は奥の通路に駆け込んだ。
通路の奥はまるで異世界だった。今まで見たことのない魔物が大量に蠢いている。虫のようなモンスター、巨大な蝙蝠、小型のドラゴンまでもが存在していた。
「ハァ、ハァ……。どうなってんのこのダンジョン……。何でこんな魔物がたくさん居るのよ!」
ひたすら奥に走るスノウ。奥が出口に続くとは限らない。それでも走り続けていた。
走り続けてどれくらいの時間が経ったのだろうか。スノウが気づいた時には行き止まりの小部屋に立っていた。目の前には箱が置いてある。
「もう、限界……。この中に……出口の手がかりがあれば……。」
息も絶え絶えのスノウは必死に箱に手をかける。トラップの有無を確認している余裕などない。力一杯箱の蓋を開けるが……。
「グガァァァ!!」
「ケルベロス……。もう駄目か……。」
ケルベロスが後ろから現れ、スノウは箱の中身を確認する余裕も無くなってしまった。
「私、一流の冒険者になるのが夢だったんだけどなぁ……。駄目だったかぁ……。」
「グガァァァァァァ!!」
ケルベロスがスノウに喰らいつく直前に、スノウは気を失ってしまった。
「その子に触れるな。今すぐ離れなさい。」
「ガウ!?」
スノウを咥えて振り回そうとするケルベロス。それを止めたのは、一人の少女だった。黒い服に身を包んだ、金髪の少女。その手には、自身と同じ高さの杖が握られていた。
「聞こえたでしょう?早く離れなさい。痛い目に会いたくなければね。」
「グガァァァァァァ!!」
少女に飛びかかるケルベロス。しかし少女が手元の杖を振ると、ケルベロスの体はバラバラになっていた。
「忠告は確かにした。これは貴方の選んだ運命よ。」
バラバラになったケルベロスが地面に崩れ落ちるのを確認した後、少女はスノウを抱きかかえた。
「よく頑張ったわね。もう大丈夫よ。と言っても危険な状況ね、早めに帰らなきゃ。……ありゃ。」
スノウが手を掛けた箱の中には、一本の槍が入っていた。蒼く光る、凍り付いた槍。それを見た少女は、スノウの上に槍を乗せて運ぶことにした。
「これは貴方が見つけた物だから。貴方が手にするべきだわ。」
そして少女は杖を振り、脱出用のゲートを組み立てる。次の瞬間、ダンジョンの中には誰も居なくなっていた。




